コンデンサ電流測定の新手法『ロゴスキーコイル電流プローブ』の活用
~メリットと測定時の注意点を解説~
2025-8-25

電子機器の電源回路、特に車載向け高電力用途で用いられるアルミ電解コンデンサはアプリケーション全体の寿命律速要因になりやすく、実装後にコンデンサに流れるリプル電流を正確に測定することが重要です。
前回記事では、従来の測定方法(シャント抵抗方式、ホール素子式プローブ方式)と高精度かつ低負荷で測定できるロゴスキーコイル電流プローブ方式を紹介しました。本記事では、ロゴスキーコイル電流プローブ方式を採用するメリットと測定の注意点についてさらに詳しく解説します。
1. ロゴスキーコイル電流プローブ方式のメリット
1-1. 測定誤差が小さい
空芯構造のためヒステリシス損失がなく、測定誤差を低減できます。したがって電流の増加、減少時で特性が変わることがなく、常に一貫した高精度な測定が可能です。
さらに温度変化に強い設計も大きな特徴です。センサ部には、ホール素子のような温度によって特性が変動しやすい半導体素子を用いていません。周囲の温度が変化しても出力電圧のズレが発生せず、温度が変化する環境でも安定して測定できます。
実際にロゴスキーコイル電流プローブ方式の測定精度の高さは、シャント抵抗法との比較実験によって裏付けられています。昇降圧DC/DCコンバータ(スイッチング周波数400 kHz)の出力平滑用ハイブリッドコンデンサに対し、シャント抵抗方式とロゴスキーコイル電流プローブ方式で同時に電流測定を行ったところ、シャント抵抗の測定結果では差動電圧プローブの測定限界に伴うノイズがみられますが、両者の測定波形はほぼ一致しました。(図1)

1-2. 測定対象回路への影響が少ない
ロゴスキーコイル電流プローブ方式では、シャント抵抗方式のように回路に直列抵抗を接続する必要がなく、測定のために追加する部品が極めて小さなインピーダンスしか持たないため、測定対象回路への影響を大幅に低減できます。従来のシャント抵抗方式では、例えば30 mΩのシャント抵抗を追加するとコンデンサ電流が約2/3に減少したり、配線を延長すると電流値や波形が変化したりする問題がありました。
コンデンサリード下に挿入する銅板スペーサの抵抗・インダクタンスはごく微小であり、追加の有無によらずほぼ同じ電流が流れることがシミュレーションと実測の両方で確認されています。実際、図2に示す回路シミュレーションではシャント抵抗の有無で電流に1.5倍もの差が生じましたが、ロゴスキーコイル電流プローブ方式ではそのような差異は発生しません。

1-3. 高周波波形を正確に測定
ロゴスキーコイル電流プローブ方式では、高周波の電流波形を正確に測定できる特徴を持ちます。これはセンサ部が空芯であるため、インダクタンスが極めて低いからです。
インダクタンスは電流の急激な変化を妨げ波形を歪ませる性質がありますが、本方式ではその影響が極めて小さいため、スイッチング波形の鋭い立ち上がりや立ち下がりも忠実に捉えることができます。加えて、磁気飽和の心配がなく大きな電流が流れても測定可能である利点もあります。
測定による影響を確かめるため、DCリンク用ハイブリッドコンデンサ(120µF,35mΩ)に50mm(36nH,0.3mΩ)の測定用配線を追加した条件で回路シミュレーションを行いました。
その結果、実効電流値の低下は約4%(966mA→929mA)と小さい一方で、電流波形は測定用配線がない回路と比べて大きく異なる結果が得られました。(図3)すなわち、高周波領域ではわずかなインダクタンス成分でも、コンデンサに流れる電流の立ち上がり・立ち下がりを歪ませてしまうことを示しています。

2. ロゴスキーコイル電流プローブ方式の2つの注意点
2-1. ケーブルを固定する
測定結果の信頼性を確保するには、ケーブルを確実に固定する必要があります。ロゴスキーコイル電流プローブは、柔らかいセンサ部と硬いケーブル部が組み合わさった構造です。ケーブルが固定できていないと、その重みがセンサとの接続部に集中し破損の原因となります。
さらにケーブルの重みでセンサの根元部分がデバイスに近づくと、測定誤差を引き起こす可能性もあります。ケーブルの固定は、センサ部を物理的なストレスから守ると同時に、デバイスとの適切な距離を確保し、測定精度を高めるためにも不可欠な手順です。
2-2. 直流電流や低周波領域の測定に向いていない
直流および低周波の電流測定には向いていない点に注意してください。ロゴスキーコイル電流プローブ方式は、磁界の時間的な変化を検出する原理のため、磁界が変化しない直流電流は測定できません。変化が緩やかな低周波領域においても、出力される信号が弱くなり測定が難しくなります。
例えば車載機器のように入力電源までの配線が長いシステムでは、入力電圧が低周波で揺らぐ場合があります。この電圧変動はコンデンサに追加の充放電電流を発生させ発熱の原因となりますが、高周波に特化したロゴスキーコイル電流プローブ方式では、この低周波の電流変動を観測できない場合があります。
その結果、予測より高いコンデンサ温度を招くおそれがあります。そのため電流に低周波成分が含まれる場合には、ロゴスキーコイル電流プローブ方式だけでなく従来手法のシャント抵抗やホール素子式プローブを併用する必要があります。
3. まとめ
前回記事に引き続き、ロゴスキーコイル電流プローブ方式を採用するメリットと測定時の注意点について解説しました。
従来のシャント抵抗方式、ホール素子式プローブ法における課題に対し、ロゴスキーコイル電流プローブ方式は、シャント抵抗方式やホール素子式プローブ方式に比べて回路への負担が小さく高精度であり、特に高周波リプルを含む電流波形を忠実に捉えられる点で優れています。
測定精度を高めることは、実使用時の発熱評価や寿命予測をより正確にし、電源回路の信頼性設計を支える鍵となります。電子機器の高性能化が加速する今後、ロゴスキーコイル電流プローブ方式の重要性はさらに増していくでしょう。