コンデンサ電流測定の新手法 『ロゴスキーコイル電流プローブ』の活用 ~従来の測定手法との比較~

 

コンデンサ電流測定の新手法『ロゴスキーコイル電流プローブ』の活用
~従来の測定手法との比較~

2025-7-25

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電子機器の電源回路、特に車載向け高電力用途で用いられるアルミ電解コンデンサはアプリケーション全体の寿命律速要因になりやすく、実装後にコンデンサに流れるリプル電流を正確に測定することが重要です。
しかし、基板上でのコンデンサ電流測定には、読み取り誤差や配線による電流変化といった課題があります。
本記事では、従来の測定方法(シャント抵抗方式、ホール素子式プローブ方式)と高精度かつ低負荷で測定できるロゴスキーコイル電流プローブ方式を紹介します。

1. コンデンサ電流測定の課題

従来、コンデンサ電流の測定には主に2つの方法が用いられてきました。ひとつは、コンデンサと基板の間にシャント抵抗を直列に挿入し、両端電圧から電流を求める方法です。もうひとつは、コンデンサ端子にホール素子式のカレントプローブを装着して磁気的に電流を測定する方法です。
近年はインピーダンスが極めて低いハイブリッドコンデンサが広く使われています。ところが従来の測定方法では、計測用に追加した抵抗や配線が回路に影響し、表示される電流値が実際とかけ離れるおそれがあります。言い換えれば、測定そのものが回路を変えてしまい、正しい電流をつかみにくくなっているのです。
これらの課題を解決するには、基板への加工を最小限に抑えつつ、高精度に電流を測定できる新たな手法の確立が求められています。

2. 従来のアルミ電解コンデンサ電流測定方法

2-1. シャント抵抗方式

シャント抵抗方式では、コンデンサ端子と基板の間に低抵抗の検出抵抗(シャント抵抗)を直列に挿入し、その抵抗に生じる微小な電圧降下を測定することで電流値を算出します。

図1: シャント抵抗を用いた電流測定
図1: シャント抵抗を用いた電流測定

オームの法則に基づくため、直流から高周波まで測定できます。配線を延長してシャント抵抗を接続すれば、恒温槽や筐体内など高温環境でも測定できます。
ただし、ハイブリッドコンデンサのような内部抵抗値が低いコンデンサの電流を測定する際には、挿入抵抗が回路動作に影響する点に注意が必要です。内部抵抗よりシャント抵抗が大きいと、電流が減少し、回路挙動が変化するおそれがあります。一方で、シャント抵抗が小さすぎるとシャント抵抗の両端に発生する電圧が小さく、正確に測定できないおそれがあります。
コンデンサの内部抵抗に対してシャント抵抗値を十分に小さくできる場合や、回路への影響を前提とした測定など、その特性を理解した上でシャント抵抗方式を選択することが重要です。

2-2. ホール素子式プローブ方式

ホール素子式の電流プローブ(クランプ型AC/DC電流センサ)は、導体を流れる電流に伴う磁界をホール効果で検出し、非接触で測定します。

図表 使用環境・信頼性による使い分け
図2 ホール素子カレントプローブを用いた電流測定例

直列抵抗を挿入しないため、電力損失がなく電圧降下も生じません。加えて磁界を直接検出する仕組みであるため、電流が変化しない直流成分も測定できる利点があります。
ただし、ホール素子式の電流プローブを利用する場合、測定ループの作り方に注意しなければなりません。実装基板上でコンデンサリードにプローブを装着するために追加の配線やループを設ける場合、その配線のインダクタンスは無視できません。
数cmのリード線でも数十nHのインダクタンスが生じる一方で、コンデンサ自身のESL(等価直列インダクタンス)は数nH程度しかありません。追加配線によって生じるインダクタンスの方が支配的であるため、コンデンサに流れる電流が変化する可能性があります。
直流や低周波を重視し、配線インダクタンスが問題にならない回路では有効です。

3. ロゴスキーコイル電流プローブによる新しい測定手法

3-1 ロゴスキーコイル電流プローブとは何か

ロゴスキーコイル電流プローブとは、空芯コイルで構成された環状(ひも状)のセンサを用いる電流プローブです。測定対象の導体(コンデンサリードやスイッチング素子の端子など)をコイルで囲むことで、交流電流によって導体周囲に生じる磁界の変化を検出し、それによって誘起される電圧波形を積分して電流波形に変換します。
導体を取り巻く磁界から電流値を読み取る方式であり、アンペールの法則に基づいて導体電流に比例した出力が得られます。空芯構造のため磁気飽和がなく大電流でも線形性を保ち、コイル特性により数Hz程度の低周波から数十MHzの高周波まで広帯域の電流を測定可能です。インピーダンスやインダクタンスも極めて小さく、回路に与える影響が少ない利点もあります。
なお磁界の変化を捉える原理上、直流電流は測定できないため、従来方式との使い分けが必要です。例えば、直流測定が必要な場合はホール素子式、部品が密集していてスペースが限られている場合にはシャント抵抗方式、高周波の電流波形を正確に測定したいならロゴスキーコイル電流プローブといった適材適所の判断が求められます。

図3 ロゴスキーコイル電流プローブの測定構成
図3 ロゴスキーコイル電流プローブの測定構成

3-2 ロゴスキーコイル電流プローブを用いた電流測定方法

ロゴスキーコイル電流プローブ方式では、測定ポイントを作成します。具体的には、プリント基板上のコンデンサ端子下に厚さ約1mmの銅板スペーサを挿入し、基板とコンデンサの間に隙間を作ります。この隙間に電流プローブを通すことで、オシロスコープで直接電流を測定できます。
コイルは専用の積分器付き測定器やオシロスコープに接続し、誘起電圧を積分することでコンデンサ電流波形を直接モニタします。追加する銅板の厚みはコイル線径に合わせて最低限の寸法とし、銅板自体が持つ抵抗やインダクタンスを極力小さく抑えることがポイントです。結果として、従来法に比べ基板上の実際の電流に極めて近い状態で波形を測定できる新しい手法となっています。

図4 ロゴスキーコイル電流プローブを用いた電流測定方法
図4 ロゴスキーコイル電流プローブを用いた電流測定方法

4. まとめ

アルミ電解コンデンサの実装後電流測定における課題と、新手法であるロゴスキーコイル電流プローブ方式について概要を紹介しました。従来のシャント抵抗方式では電力損失や発熱が、ホール素子式プローブ法では寄生インダクタンスによる波形歪みが、信頼性の高い測定を行う上での大きな障壁となっていました。これらの課題に対し、ロゴスキーコイル電流プローブ方式はより高精度で、信頼性の高い手段となっています。次回後編では、ロゴスキーコイル電流プローブ方式を採用するメリットと測定の注意点についてさらに詳しく解説します。

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