コモンモードノイズフィルター基礎講座

① 高速差動データ伝送とコモンモードノイズ問題

近年のデジタル通信インターフェイスは、USB やHDMI をはじめとして差動モード(Differential Mode) でのデータ伝送が主流となっています。
(図1-1)

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データの伝送の高速化のためには、振幅を小さくすることで遷移時間を相対的に短くし伝送レートを上げる アプローチがあります。従来のシングルエンド伝送では、低振幅化すると外来ノイズやグランド影響を比較的 受けやすいという問題がありました。しかし、差動伝送では等振幅で逆相の信号を2 線1ペア(D+/D-) で伝送しその差分をとるため、外来ノイズやグランドの影響を受けにくく、更に2 線周辺の磁界はキャンセル され、不要放射が少ないということもあり、殆どの高速データ通信では差動伝送方式を採用しています。
(図1-2)

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このような差動伝送においても、コモンモード(同相:Common Mode)ノイズが発生する場合があります。容量結合を介しての他回路からのノイズ重畳や、D+/D- 信号のアンバランスがある場合などに起こります。後者は、例えばPCB パターンにおける配線長の差等によって起こるスキュー(Skew)、D+/D- 信号のエッジレートの差、パルス幅の差、伝送線路の非対称性が強い場合に起こる差動信号の一部がコモンモードに 変換されるモード変換等があります。


このような場合に発生するコモンモードノイズは、差動信号の周波数帯と同じ周波数帯域に発生するため、従来のシングルエンドのアナログ回路で用いられていた周波数分離型のLow Pass Filter (LPF) ではコモンモードノイズを除去することができません。 そこで、データ信号=差動モードとノイズ=コモンモードを伝送モードの違いで分離できるコモンモードノイズフィルタが差動伝送での標準フィルタとして今日広く使われています。

② コモンモードフィルタとは

コモンモードノイズフィルタは、差動伝送路においてD+/D- に接続される2つのコイルを備え、2つのコイル が磁気結合された構造になっています。
(図2-1)


このような構造のフィルタに差動モード信号とコモンモードノイズが入ってきた時に、どのような作用を及ぼすかについて、磁気結合状態を等価的に表した図を元に説明します。 差動モード信号が入ってきた時には、磁気結合回路はD+ 信号により発生した磁束とD- 信号により発生した磁束がキャンセルされ、インピーダンスが発生せず、差動モード信号は通過します。 一方、コモンモードノイズが入ってきた時には、D+ 信号とD- 信号により発生した磁束は互いに強め合い高いインピーダンスが発生し、コモンモードノイズの通過を妨げます。 つまり、コモンモードノイズフィルタは差動モード信号に対しては伝送線路として働き、コモンモードノイズに対してはインダクタとして働きます。


このコモンモードノイズに対するインダクタとしてのインピーダンスをコモンモードインピーダンスと呼び、コモンモードノイズ除去性能を示す代表指標として、通常100 MHz でのインピーダンス値が用いられます。


このようにD+/D- 伝送路間のコイルでの磁気結合構造こそが差動信号とコモンモードノイズを分離できるキー要素となります。

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③ 積層コモンモードフィルタの構造と動作

実際の当社の積層コモンモードノイズフィルタの構造を図3-1 に示します。


当社製品の特長は、従来の印刷工法ではできなかったファインピッチのコイル形成をめっき工法で実現し、この微細コイル導体と磁性材料を用いることでコモンモードノイズ除去能力を高めています。
また、コイル導体周辺は低損失誘電体材料を配置した異種材料積層構造となっており、2つのコイル間の高い磁気結合と寄生容量等の寄生成分を低減することで差動モードでの損失を抑え、高速データ伝送に対応しています。


差動モードの信号を入力した場合と、コモンモードノイズを入力した場合の、製品内部の磁界分布を示した ものを図3-2 に示します。
前項で述べたように、差動モードではコイル間のみに磁界が発生し、その周辺の磁界はキャンセルされ、差動伝送線路として働いていることが分かります。一方、コモンモードノイズに対しては、2つのコイル全体で大きな磁界がみられインダクタとして働いていることが分かります。


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