ノイズとは?発生要因と効果的なノイズ対策
2025-06-17

この記事では、電子機器の設計におけるノイズの発生要因と効果的な対策を解説します。EMC試験のための設計ポイントや最適なノイズフィルターの選び方、ノイズ低減の実践的な手法などについても紹介します。
1. ノイズの基本
電子機器の設計においてノイズ対策は大きな課題の一つです。ノイズの発生原因や種類を理解し、適切な対策を採ることが重要です。
1-1. ノイズの定義と電子機器への影響
ノイズとは、本来必要としない音や電磁波などの不要な信号を指します。電気通信の分野では、音声に混入する雑音や映像の乱れ、電子機器から漏れた電磁波による誤動作などを総称してノイズと呼びます。
ノイズには、大きく分けて自然ノイズ(落雷・宇宙線など)と人工ノイズ(電子機器由来)があり、信号品質を低下させたり、ゲイン(受信感度)を下げるなどのリスクを伴います。
1-2. ノイズはなぜ発生する?
電源ライン・信号ラインで発生するノイズの要因の主なものとして、信号、電源、サージの3つがあります。電流の周波数、電流値、電圧値の上昇が、電子機器のノイズ障害の発生、回路の誤動作、電子部品のダメージ、破壊につながるおそれがあります。
また、電子機器の外部環境(電磁波・静電気・温度変化)次第でもノイズが発生し、同様のトラブルの原因となるおそれがあります。それぞれの特徴や対策などを以下に示します。
電磁波ノイズには、外来の自然および人工の放射ノイズ、内部のスイッチング電源や高速データ伝送などの放射ノイズがあります。電磁波や電磁界が他の電子機器に影響を与える現象をEMI (Electromagnetic Interference)、電磁波等の干渉を受ける側の感受性をEMS(Electromagnetic Susceptibility)といいます。
EMIの観点からはノイズ放射の低減、EMSの観点からはシールドなどの対策が必要で、電磁波シールドフィルムを用います。
物質に帯電した静電気の放電は、短時間でキロボルト台に及ぶ高電圧が特徴です。静電気ノイズの対策には、静電気放電の特性を考慮したESDサプレッサ、チップバリスタが有用です。
また、回路内の抵抗による熱雑音は絶対温度に比例するという特性があります。熱雑音を抑制する対策としては、抵抗値を低くしたり、信号の帯域幅を狭くしたりする方法があります。また、機器の構成や部品の配置、シールド、GNDなどを工夫することも有効です。
1-3. ノイズの種類
ノイズは伝搬経路により「伝導ノイズ」と「放射ノイズ」の2種類に大別できます。伝導ノイズは電源や信号のケーブル、プリント基板の薄膜配線などの導体を通じて伝わるノイズで、放射(輻射)ノイズは空中に放出されるノイズです。
さらに、その特性や発生源により「信号ノイズ」「電源ノイズ」「電磁波ノイズ」「静電気ノイズ」「サージ」などの種類があります。対策方法はノイズの種類により異なるため、それぞれの性質に合わせた様々な対策部品が用意されています。
信号ノイズ対策部品
電源ノイズ対策部品
電磁波ノイズ対策部品
サージ対策部品
一例として、信号ノイズ対策について説明します。
差動伝送においては「コモンモード(同相)ノイズ」が問題となる場合があります。これは容量結合を介しての他回路からのノイズ重畳や、D+/D- 信号のアンバランスがある場合などに発生します。このノイズは正確なデータ転送に支障をきたす恐れがあるため、最小化するケアが必要です。コモンモードノイズは従来の周波数分離型のローパスフィルタでは除去できないため、データ信号(差動モード)とノイズ(コモンモード)を分離できるコモンモードノイズフィルタが差動伝送での標準フィルタとして広く使われています。
設計時の考慮点としては、スイッチング波形の周波数成分の把握、ノイズ発生源と伝導経路の把握、GNDの強化、フィルタなどノイズ対策部品の追加が重要です。
2. ノイズの対策方法
ノイズの問題を未然に防ぐためには、設計段階で適切な対策を講じることが重要です。ここでは、基本的なノイズ対策の考え方を解説します。ノイズ対策の4要素として、シールド、反射、吸収、バイパスがあります。
2-1. ノイズを抑えるため回路設計とは
ノイズ低減のためには、GND設計と基板配線パターンの最適化が必要です。まず、筐体や基板のGND設計において、フレームGNDとシグナルGNDのインピーダンスを下げることが重要です。基板の層構成を最適化する際は、信号層や電源層に隣接する層をGND層にし、信号層とGND層を近づけることで放射電界も抑制できます。また、電源層と信号層の間にGND層を入れることも効果的です。
基板配線パターンの最適化においては、GNDパターンや電源を太くかつ短くすることでノイズ耐性が向上します。信号パターンとGNDパターンの描くループ面積をできるだけ小さくし、デジタル系回路とアナログ系回路を分離することも重要な対策です。
コンデンサ・インダクタを用いたフィルタリング技術も欠かせません。コンデンサを複数個使用するとインピーダンスが低下し、ノイズを低減できます。コンデンサの値を変えることで、低減したい周波数帯を選択することも可能です。ESL(等価直列インダクタンス)を減らすためには、サイズを小さくしたコンデンサを使用すると効果的に高周波ノイズを低減できます。Q値、静電容量変化率、温度特性などにも注意が必要です。
コンデンサだけでノイズを十分に除去できない場合は、インダクタの利用を検討します。使い方は主に二つあり、巻線タイプのインダクタでフィルタを構成する方法と、フェライトビーズでノイズを熱に変換する方法があります。
最後に、機器全体のシールド対策も忘れてはなりません。筐体のシールド、シールドケースの追加、筐体に必要以上の隙間を設けないなどの対策が有効です。また、ケーブルのシールドや回路部分のシールドなども重要なノイズ対策となります。これらの方法を総合的に実施することで、効果的にノイズを抑制した回路設計が実現できます。
2-2. EMI/EMC試験対策と設計のポイント
EMI/EMC試験の適合基準と試験方法についても知っておく必要があります。EMC規格は電磁両立性に関するルールであり、EMIはノイズの発生・放出を防ぐエミッション対策の規制です。これらの規格を満たすためにEMC試験を実施します。
EMC試験では、電磁波測定器やEMC試験機と呼ばれる機器を用い、さまざまな測定を行い、発生ノイズレベルや外来ノイズ耐性を測定します。
また、試験で発生しやすいノイズ問題と具体的な解決策も重要です。強電を使用する設備には、付帯電気設備や追加電気設備があり、ノイズを発生しやすいさまざまな設備機器があります。一方、各種センサーや制御機器、通信機器などの弱電を使用する機器は、わずかなノイズの侵入でも誤動作が起きやすい被害装置となります。
【ノイズ対策のフロー】
ノイズ対策は以下のフローで行います。
- ノイズの種類を見極める
ノイズが放射性か伝導性か、あるいはその双方かを見極めます。 - ノイズの特性を確認する
- 周波数範囲
- スペクトラム(広帯域か、狭帯域か、インパルスか)
- 時間変動(定常的か、ランダムか)
- ノイズ源の特定(手順1)
ノイズ源が、部品素子か、伝搬経路か、それ以外であるかを見極めます。 - 対策手法の検討(手順2)
シールド、反射、吸収、バイパスの4要素を中心に検討します。 - 最適な対策部品の選定(手順3)
- ノイズレベルの測定・確認(手順4)
対策が十分であるかどうかを評価します。
ノイズが大きいあいだは、上記(手順1)~(手順4)のステップを繰り返します。ノイズのレベルに問題がないことを確認できた時点で、ノイズ対策は完了となります。
3. 適切なノイズフィルターの選び方
ノイズフィルターはノイズ対策の重要な要素の一つです。適切に選定することで、電子機器の安定動作を確保できます。
3-1. ノイズフィルターの役割と種類
基礎知識として、コンデンサとインダクタの交流特性の違いを押さえておく必要があります。リアクタンスは、交流回路における電流の流れにくさを表すパラメータです。
部品 | リアクタンス | リアクタンスの計算式 | 電流の周波数特性 | フィルタ特性 |
---|---|---|---|---|
コンデンサ | 容量性リアクタンス | 1/ωC | 電流は周波数に比例 | ハイパスフィルタ |
インダクタ | 誘導性リアクタンス | ωL | 電流は周波数に反比例 | ローパスフィルタ |
また、インダクタとフェライトコアの違いもフィルタの知識として重要です。通常のインダクタはインピーダンスのほとんどがリアクタンス(X)成分ですが、フェライトコアを使った場合はレジスタンス(R)成分が非常に大きくなっています。これにより、フェライトコアによるノイズ除去の働きは、高インピーダンスによる電流制限効果よりも磁気損失によるノイズエネルギー消費効果のほうが顕著になります。
3-2. 設計要件に適したノイズフィルターの選定
ノイズの周波数帯域、発生源と伝導経路、信号の伝送モードに応じて、適切なフィルターを選定する必要があります。減衰特性(静特性)とパルス減衰特性が特に重要です。ほかにも、定格電圧、定格電流、回路構成などにも注意が必要です。
ノイズフィルターの適用例として、インバータ回路の出力波形を挙げます。出力波形にのった高周波ノイズを取り除く役割を果たしているのが、ノイズフィルターです。ノイズフィルターは、主にインバータからのノイズを取り除き、計装機器を正常に動作させることが役目となります。
4. ノイズ対策の重要性と次のステップ
年月の経過とともに電気機器の高速化、小型化、低消費電力化のニーズが高まると同時に、ノイズ対策の難易度も高くなっています。したがって電気機器へのノイズ対策の適切な実装が、機器の信頼性向上のみならず、開発メーカーの技術力や信頼性向上にも大きく寄与するというトレンドがますます強くなっています。