生成AIで世界が激変する!?
~AIサービスとそれらを支えるコンデンサに求められる進化~(後編)
2024-02-22
前回の記事では、生成AI サービスの仕組みの概要と、課題、また生成AI を構成するハードウェアの事例についてプロセッサを中心に紹介しました。本記事では、生成AI 用プロセッサへの電源供給に大きく寄与するコンデンサについて、どのような性能が要求されるのか、お客様で実際に採用されているソリューション事例をもとに紹介します。
高性能・高品質コンデンサの重要性
プロセッサにおけるコンデンサの役割
生成AI 向けハードウェアにおいて、コンデンサは様々な箇所に使用されていますが、主要な計算処理を実行するプロセッサの電源ラインに使用されるコンデンサは、特に重要な役割を担っています。人が動いたり考えたりするのに食事が必要なように、プロセッサが計算処理を実行するためには、十分な電流の供給が必要となります。この電流を供給する役割を担っているのが、「電源」です。電流は電源ラインを通してプロセッサへと運ばれますが、プロセッサはしばしば電源供給スピードが追いつかないほど高速・大電流を必要とします。供給が追いつかなかった場合、プロセッサを安定動作させるために必要な電圧が大きく下がりプロセッサの動作は停止します。その結果、学習や推論のための計算処理も停止してしまいます。このようなアクシデントを防止するため、プロセッサへ高速な電流を供給するのが、「コンデンサ」です。しかし、コンデンサを付けていてもその容量が不十分だと、同じく電圧が下がりプロセッサの動作は停止します(図表1-A)。
生成AI に使われるプロセッサの多くは大電流を必要とするプロセッサであり、実際にこのような事態が発生する懸念があります。そこで、パナソニック インダストリーの「導電性高分子コンデンサ」のような大容量のコンデンサを使用し、十分な電流を供給することで、電圧降下を防止し、生成AI 用プロセッサの長期・安定的な計算処理の継続を実現します。(図表1-B)
導電性高分子コンデンサの特長と生成AI用プロセッサへの貢献
<他種コンデンサとの比較>
電源設計では設計要件に応じて複数のコンデンサの種類・定格を組み合わせることが最適解とされています。他種コンデンサと比較した時、導電性高分子コンデンサは、生成AI 用プロセッサ向けとしてどのような利点があるのでしょうか。導電性高分子コンデンサは非常にバランスの良いコンデンサとして認識されており、一般的な利点として、一般電解コンデンサ・タンタルコンデンサに対しては、低いESR と高い安全性を発揮し(図表2左)、セラミックコンデンサに対しては、安定した容量と少ない員数を提供することが挙げられます(図表2右)。これらのメリットにより、導電性コンデンサは厳しい電気特性と信頼性を要求する生成AI 用プロセッサの電源に広く活用されています。
<一般電解・タンタルコンデンサ> | <セラミックコンデンサ(MLCC)> |
---|---|
一桁低いESR、インピーダンス ➡高速電流において電圧変動を抑制 高い安全性 ➡設計の高信頼化に寄与 |
電圧や温度に左右されない安定した大容量 ➡電流供給不足による電圧降下を防止 少ない員数 ➡設計の簡易化に寄与 |
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小型・低背
AI 向けプロセッサは高い計算能力を発揮するために大電流となり、プロセッサのサイズが年々大きくなる傾向があります。この時、大電流要求に対応するためには電源のサイズも大きくなり、その結果、基板表面にコンデンサを置く場所がなくなるケースが増えています。この課題に対して、パナソニック インダストリーの導電性高分子アルミ電解コンデンサ(SP-Cap) は、基板裏面に配置可能な低背品(高さ2mm 以下)の製品が充実しており、厳しさを増す実装面積課題に対し有効なソリューションを提供しています(図表3)。
一方で、表面にコンデンサを配置可能な場合も、高背のコンデンサを使用した場合と比べ、放熱機構をシンプルかつ放熱性の高い設計にすることができ、ハードウェアの信頼性を高めることができます(図表4)。
高信頼性
AI 向けハードウェアの要求として重視されるもう一つの要素は長期の信頼性です。特に「学習」の過程では長期間プロセッサはフル稼働を続けるため、その間に故障することのないよう十分な信頼性を考慮して設計されています。また長期稼働時の基板温度は、放熱機構の設計や冷却方式にもよりますが、一般的にはプロセッサの高性能化に従い以前より要求が厳しくなっています。そのため、周辺に使われる部品も高温に耐性があり長期信頼性の高い製品が求められています。このようなハードウェアの要求に応えるため、パナソニック インダストリーは、高温環境での長期使用に耐える導電性コンデンサ製品を開発しました。プロセッサ近辺が高温になる場合にも信頼性を担保できるコンデンサとして、有効な選択肢となっています。以下の図表に従来品の他社類似コンデンサとの耐久性試験(105℃2000H)におけるESR、および容量変化を比較した結果を紹介します。コンデンサは容量・ESR スペックが同じものが選択されているにも関わらず、信頼性の違いにより、長期使用後の電圧安定化能力には大きな差が出る結果となっています。パナソニック インダストリーの導電性コンデンサ(SP-Cap)は試験後もほとんど特性が変化せず、高い信頼性を実現しています。
導電性高分子コンデンサの生成AI 用ハードウェア全体への貢献ポイント
従来のWeb サービスに使用されるサーバーでは、プロセッサに供給される電力は、サーバーラックにあるAC/DC コンバータから12V で配電されるというのが一般的です。一方で、生成AI に使用されるサーバーはプロセッサの搭載数が多いことで、48V で配電するケースが多くなっています。12Vで配電すると、非常に大きな電力損失が発生しますが、48V にすることで電流を1/4、電力損失1/16 にできるためです。この時、プロセッサ向けの電圧は48V からDC/DCコンバータ(1st stage)を介して中間電圧に変換した後、後段のDC/DC コンバータ(2nd stage)を使ってプロセッサが使用する1.x V下に変換されることが一般的です。また、12Vを使用するデバイス(PCIe やSSD など)に対しては、48Vから別のDC/DC コンバータを介して12V が配電されます。
当社の導電性高分子コンデンサがプロセッサへ高速な大電流を供給するため使用されていることは前述のとおりですが、回路全体を見るとそれぞれの電源(DC/DC コンバータ)の入出力にもコンデンサが配置されています。これらのコンデンサも、入力側からの電流供給の遅延を補い、安定的にシステムを動作させるために配置されています。生成AI において電源の不具合によりシステムがダウンすることは大きな損失となるため、電源回路全体にわたる信頼性の確保はハードウェア設計の最重要事項の一つです。前述のとおり、当社の導電性高分子コンデンサは、高安全・高信頼という特長を持つため、生成AI 用ハードウェア全体にわたって有効な選択肢となっています。
使用箇所 | バルクキャパシタ 定番定格 |
商品群 | 設計への貢献ポイント |
---|---|---|---|
(1) 1st stage入力 (40-60V) |
47-100uF | E-cap | 安価・大容量持 (液体電解質による温度特性・容量抜け懸念あり) |
OS-CON | 全固体による温度安定性と長寿命・信頼性 (信頼性重視の場合、E-cap使用不可) |
||
Hybrid | 半固体によるE-capとOS-CONの中間の特徴 | ||
(2) 1st stage出力・ 2nd stage入力 (5-15V) |
100-470uF | OS-CON | 大電流変動バックアップや電源平滑に大容量+高リプル電流特性 が有効。 |
POSCAP | 基板背面に実装が必要となる高密度サーバーやアクセラレータカード等の大電流変動バックアップに2㎜の部品高さが有効。 | ||
(3) 2nd stage出力 (<1.xV) |
220-1000uF | SP-Cap | 大電流変動バックアップに大容量+低ESR特性が有効。出力の基板表面は面積余裕少ないケースが多く背面実装可能な2㎜の部品高さが有効。 |
POSCAP | 小型・大容量で高密度サーバーやアクセラレータカード等に最適。 |
まとめ
生成AIサービスの急速な発展と普及においてカギとなるハードウェアの進化について、中心的な役割を果たすプロセッサの構成事例を紹介し、合わせてその計算処理性能に大きく寄与するコンデンサについて当社の商品群の事例を紹介しました。パナソニックインダストリーの導電性高分子キャパシタは、省面積や高信頼性といったハードウェアの要求に対応し、進化する生成AIハードウェアの安定動作の実現に寄与していきます。
要求 | ハードウェアの期待 | 導電性キャパシタの貢献 |
---|---|---|
① 省面積 | 大電流供給が必要だが、基板サイズに制約があり電源面積増加はなるべく抑えたい。 | 大電流に対応する大容量・低ESR特性を備えている。 基板背面に搭載可能な2mmの部品高さの製品が充実。 |
② 信頼性 | 回路基板は非常に高温になるが、長期連続稼働させたい。 | 温度・電圧による容量減少が無く、長期信頼性が高い。 高信頼製品を拡充し、高温・長寿命要求に対応。 |