インダクタ(コイル)の基礎知識(2)
~特性・種類~
2018-10-01
インダクタの基本的な働き
インダクタは、基本的に以下の働きをします。
①電流が流れると磁界が発生し、逆に磁界が変化すると電流が流れる。
②電気エネルギーを磁気エネルギーに変化させ蓄える。
③直流は通すが交流は通しにくく、周波数が高いほど通しにくくなる。
①と②は電流の磁気作用と逆の電磁誘導による特性です。③はインダクタの直流・交流特性でインピーダンスに起因する特性です。 これらの特性がどのように利用されているか、それぞれの具体例を示します。
① 電流が流れると磁界が発生し、逆に磁界が変化すると電流が流れる⇒トランスの原理
一次側と二次側に2つの巻線を持つ構造例で、トランスと同じと考えることができます。 一次側巻線に電流を流すと磁界が生じ、その磁界によって二次側巻線に電流が発生します。 これは電磁誘導によるもので、トランスの場合は相互誘導と言います。 この作用を利用して、一次側巻線と二次側巻線の巻数比によって任意の電圧に変換できます。
② 電気エネルギーを磁気エネルギーに変化させ蓄える⇒チョークコイルの原理
DC/DCコンバータのインダクタの例です。 スイッチをオンにしてインダクタに電流を流すと磁界が生じ、インダクタには磁気エネルギーという形でエネルギーが蓄積します。 スイッチをオフにしてインダクタに流れる電流を止めると、蓄えられていた磁気エネルギーが放出され(磁界が変化し)、電流が流れます。 これも電磁誘導によるもので、単独の巻線で構成されるインダクタの場合は自己誘導と言います。
③ 直流は通すが交流は通しにくく、周波数が高いほど通しにくくなる⇒フィルタ作用
周波数によりインピーダンスが変化することで、交流の流れにくさが変化する性質を利用して、 コンデンサと組み合わせてローパスフィルタやハイパスフィルタなどを構成することができます。 インピーダンス特性に関しては後述します。
インダクタの特性
理想のインダクタと実際のインダクタ (インピーダンス特性)
理想のインダクタとは、インダクタンス以外の成分はまったく持たず、エネルギー損失がないものです。 しかしながら、実際のインダクタには、インダクタンス以外に抵抗成分(直流抵抗:DCR)と静電容量(寄生容量:Cp)を持っています(等価回路参照)。 抵抗は、巻線やコアが持つ抵抗成分です。静電容量は主に巻線の線間容量です。
グラフは、理想インダクタと実際のインダクタの周波数に対するインピーダンス特性のイメージです。 理想のインダクタは周波数が高くなるにしたがってインピーダンスが直線的に増加します。 しかし実際のインダクタは、寄生容量により自己共振現象が発生し、それより高い周波数ではインピーダンスが低下して本来のインダクタとして機能しなくなります。 また、抵抗成分やインピーダンスの低下により損失が発生してしまいます。
インダクタのインピーダンス(Z)は、次式で表されます。
Z=R+1/(1/jωL+jωC)
また、インピーダンスの絶対値は次式で計算できます。
|Z|=√ R2+1/(1/ωL-ωC) 2
- Z
- : インピーダンス [Ω]
- R
- : 直流抵抗成分(DCR) [Ω]
- C
- : 寄生容量(Cp) [F]
- j
- : 虚数
- ω
- : 2πf
(π:円周率 (3.14)、
f:周波数 [Hz]) - L
- : インダクタンス [H]
磁気飽和特性
インダクタは、流れる電流が磁気飽和許容電流(直流重畳許容電流)の最大値を超えると磁気飽和を起こし、インダクタンスが減少します。 インダクタが飽和すると、上述のインピーダンス式からわかるようにインピーダンスは小さくなり、インダクタに流れる電流が異常に大きくなります。 例えば、DC/DCコンバータでは効率の低下や異常動作が起こる可能性があります。 磁気飽和許容電流は、インダクタの重要特性の1つです。
交流抵抗(ACR)
インピーダンスの項では簡易的に直流抵抗(DCR)のみを説明しましたが、実使用上のインダクタには、この他にもコアの渦電流損を発生させる抵抗成分と、 表皮効果と近接効果により増加した導線の抵抗成分も含まれており、これを交流抵抗(ACR)と言います。 この交流抵抗(ACR)は、周波数に比例し値が大きくなり、高周波における電力損失や部品の温度上昇に大きく影響するため、実使用上は考慮する必要があります。 (渦電流損、表皮効果、近接効果については別途解説します)
その他特性
上記以外のインダクタの特性や関連する用語についてまとめました。
- Q値
- : ある周波数におけるインダクタの誘導性リアクタンスと抵抗の比で、 インダクタの性能を示す指数です。Q値が高ければ高いほど、理想的インダクタに近づきます。 誘導性リアクタンスXL(=ωL=2ΠfL)をACRで割った値で、周波数に対してどれだけの損失があるかを示しており、 算式からACRが小さいとQが高くなることがわかります。
- 銅損
- : 導線に電流が流れるときの抵抗成分による損失を銅損と言います
- 鉄損
- : コアに磁束が通るときのコア内に生じる損失(ヒステリシス損と渦電流損)を鉄損と言います。
- 表皮効果
- : 導体に流れる電流の周波数を高くすると電流は導体の表面だけを流れるようになり、 表面部分の電流密度が高くなり抵抗値が増加します。これを表皮効果と言います。
- 近接効果
- : 複数の導線が近接している場合、巻線それぞれの形成する磁場が渦電流を誘導し、 高周波では導体内の電流が近接する導線と接する狭い領域に集中して流れるため近接部分の電流密度が高くなり抵抗値が増加します。 これを近接効果と言います。
- 渦電流損
- : 電磁誘導より変化する磁場は導体のコアの中に渦状の電流を発生させます。 この電流を発生したエネルギーはコア材の電気抵抗によって熱に変換され損失となります。 これを渦電流損と言います。
- ヒステリシス損
- : コア内の磁場を変化もしくは反転させると、ヒステリシス(コア素材のBH図で示されるヒステリシスループ)をともなってもとの状態に戻ります。 このヒステリシスの動きのために消費するエネルギーが熱として損失します。 これをヒステリシス損と言い、ヒステリシス損はヒステリシスループの面積に比例します。
インダクタの主要スペック
インダクタの主要なスペックを示します。 前章でインダクタの様々な特性を説明しましたが、すべての特性がスペックとして規定されているわけではありません。 ここでは、インダクタのデータシートに規定がある代表的なものをまとめました。 ただし、項目の有無や規定条件はメーカーや商品によって異なりますので、データシートの注記などをよく確認する必要があります。
スペック項目 | 意味/条件など |
---|---|
インダクタンス(L値)[μH] | 規定周波数における公称インダクタンス |
直流抵抗(DCR)[Ω] | インダクタを構成する導体(銅線)の抵抗成分 |
定格電流:温度上昇(ΔT)[A] | 直流電流印加時の温度上昇が40Kに至る電流定格値 |
定格電流:直流重畳(ΔL)[A] | 直流電流印加時(直流重畳)にL値が初期値から規定の率に低下する定格電流 |
「インダクタンス」は、当然の必須の項目で、決められた周波数における値が示されており、例えば±30%といった許容差を持ちます。
「直流抵抗」は、先にも説明した通り巻線の抵抗が主たるもので、±20%などの許容差が示されています。 同じく抵抗成分として説明した交流抵抗(ACR)は、スペックに示されていない場合が多いので必要に応じてメーカーに確認することになります。
「定格電流」には、2つの項目があります。 「温度上昇」は、直流電流印加時の温度上昇が40Kになる電流定格が規定されていることが多いですが、 メーカーや製品によって条件が異なる場合があります。 もう1つの「直流重畳電流」は、一般にはインダクタンスが-30%になる電流の最大値が示されていることが多いですが、 やはりメーカーや製品によっては条件が異なります。
定格電流は重要なスペックですが、必ず両方が提示されているとは限りません。 どちらか1つの場合はその定格にしたがうことになりますが、場合によってはメーカーに確認することが必要かもしれません。
その他に、「自己共振周波数」が規定されている場合があります。先の説明したように、 インダクタとして機能する限界の周波数を示しています。
インダクタの種類
インダクタには様々な種類があります。 また、分類の仕方も観点によっていろいろです。下の図は、用途を信号系とパワー系として、それぞれを磁性体(コア)材料と工法によって分類したものです。
この記事に関する製品情報
●インダクタ (コイル)