インダクタとは?基本原理から特性までわかりやすく
2025-06-17

この記事では、インダクタの基本原理や特性、回路記号、活用方法について解説します。
1. インダクタの基礎知識
インダクタは、抵抗器(R)とコンデンサ(C)に並ぶ重要な受動部品で、コイルと呼ぶこともあります。一般にコイルは導線を巻いたもの全般を指し、その中で巻線が1つのものを特に近年はインダクタと呼ぶ傾向があります。(以下、コイルは省略してインダクタとします)
インダクタのシンボルには通常「L」が使われます。この「L」は、電磁誘導に関する「レンツの法則」のレンツ(Lenz)に由来すると言われていますが、諸説があるようです。
インダクタの基本的な構造は導線がコイル状に巻かれたもので、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換しインダクタ内部に蓄えることができます。蓄えられる磁気エネルギー量はインダクタのインダクタンスで決まり、単位はヘンリー(H)です。
1-1. インダクタの役割
インダクタは、基本的に以下の働きをします。
- ① 電流が流れることで磁場を発生し、エネルギーを蓄積する受動部品
→ 電流の磁気作用と逆の電磁誘導による特性 - ② 電流の変化を抑え、ノイズ低減や安定した電源供給に貢献
→ インダクタンスの逆起電力による特性 - ③ フィルタ回路や共振回路で、特定の周波数成分を選択・除去する役割も果たす
→ インダクタの直流・交流のインピーダンスに起因する特性
上記の特性を生かした多種多様な製品が用意されています。
1-2. インダクタはなぜ必要?
インダクタにはノイズ除去、電源まわりなど、目的に応じたさまざまな使い方があります。主なものを以下に示します。
DC-DCコンバータ: エネルギーを蓄えて電圧を変換
高周波回路 : RF回路などで、電源ラインや信号ラインの周波数特性を制御(ノイズ、伝送特性)
以上の通り、電気機器の安定動作のためにも欠かせない部品です。
1-3. インダクタとコンデンサの比較
インダクタの特徴をコンデンサと対比してまとめると下表となります。
このようにインダクタはコンデンサとは真逆な特性を示す電子部品です。
項目 | インダクタ | コンデンサ |
---|---|---|
電圧と電流の関係 | 電流の変化率が大きいほど 大きな電圧が発生する |
電圧の変化率が大きいほど 大きな電流が流れる |
直流電流 | 通す | 通さない |
交流電流 | 高周波になるほど通しにくい | 高周波になるほど通しやすい |
電圧に対する電流の位相 | 90°遅れる | 90°進む |
2. インダクタの構造と回路記号
インダクタの基本構造と回路記号について、それぞれ特徴を解説します。
2-1. インダクタの基本構造
最も基本的なインダクタは導線をコイル状に巻いたもので、導線の両端が外部端子になっています。近年は、コアを用いてコアに導線を巻いたものが大半を占めています。

インダクタのインダクタンスは、以下の式で求められます。
kμSN2
l
- L
- インダクタンス(H)
- k
- 長岡係数
- μ
- コアの透磁率(H/m)
- N
- コイルの巻数
- S
- コイルの断面積 (m2)
- l
- コイルの長さ(m)
この式からインダクタンスは、1)断面積Sを大きくする、2)巻数Nを増やす、3)コアを入れて透磁率µを増す、ことで大きくなることがわかります。
2-2. 回路記号の種類
インダクタの回路記号では、コア材料の有無によってその種類が示されます。以下では、コアがないインダクタとコアがあるインダクタの特徴をそれぞれ説明します。
新記号 | 旧JIS記号 | |
---|---|---|
インダクタ(コアなし) | ![]() |
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インダクタ(鉄系コア) | ![]() |
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インダクタ(フェライト系コア) | ![]() |
|
トランス | ![]() |
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インダクタ(コアなし)
プラスチック、セラミック、空気などの非磁性体をコアとして使用するインダクタは、空芯インダクタとも呼ばれます。強磁性体コアに起因するエネルギー損失がほとんど生じないため、高周波用途に適している点が大きな特徴です。このエネルギー損失は「磁心損失」と呼ばれ、周波数が高くなるほど増加します。
インダクタ(コアあり)
鉄やフェライトなどの強磁性体をコアとして使用するインダクタは、非磁性体コアと比べて磁場(インダクタンス)を大きくするように設計されています。同様の原理はトランスにも適用され、強磁性体コアを利用することで大きなインダクタンスを得ることが可能です。
3. インダクタにおける電圧と電流の関係
本章では、インダクタの電圧・電流特性や周波数による影響を解説します。
3-1. 電圧-電流の基本式
( I:電流[A] t:時間[s] )
( ω(角周波数)=2πf f:周波数[Hz] L:インダクタンス[H] )
インダクタは電流変化に応じた電圧を発生する特性を持ちます。これを逆起電力と呼び、磁束変化を妨げる向きの電圧が発生します。インダクタンス(L)が大きいほど、電流変化を抑制します。誘導性リアクタンス、電圧降下の式より、直流では電圧降下が小さいですが、交流では誘導性リアクタンスが大きくなり、その結果として電圧降下も大きくなります。
3-2. 直流・交流における特性の違い
インダクタは、直流ではほぼ抵抗なしの導線として動作します(ZL=0)。交流では、周波数に応じたリアクタンスが発生します。また、インダクタのコア材によっても交流特性(周波数特性)は変化します。以下に示します。
・ケイ素鋼板
低周波領域が得意な材質です。商用周波数帯(50/60 Hz)において、電源トランス、チョークコイルなどに広く利用されます。
・パーマロイ
鉄にニッケルを加えて高透磁率材料としたものをパーマロイと呼びます。低周波信号用のトランス、チョークコイルなどに利用されます。
・ダストコア
電源ラインフィルタ、スイッチング電源の高周波平滑コイルなどに利用されます。
・フェライトコア
高周波用高透磁率材料として広く利用されます。
・空芯
コアに磁性体を使わないインダクタ。高周波回路などに利用されます。
3-3. 周波数特性とリアクタンスの関係
理想のインダクタは、周波数が高くなるにしたがって、リアクタンスが直線的に増加します。 しかし、実際のインダクタは、寄生容量により自己共振現象が発生し、それより高い周波数では、リアクタンスが低下して本来のインダクタとして機能しなくなります。
高周波ノイズ除去にはフェライトコアインダクタが有効です。フェライトコアでは、通常のコイルに比べレジスタンス(R)成分が非常に大きくなります。ただしノイズ除去の働きは、高インピーダンスによる電流制限効果よりも磁気損失によるノイズエネルギー消費効果のほうがより大きくなります。
4. インダクタの活用方法 - 事例紹介 -
インダクタはノイズ対策や電源回路など、多くの用途で活用されています。以下に具体的な事例を紹介します。
4-1. ノイズ対策(EMC対応・コモンモードノイズ除去)
EMCとは、他の機器に電磁妨害を与えず、かつ他の機器から電磁妨害を受けても本来の性能を維持することを意味し、電磁両立性と呼ばれています。インダクタにより、電源ラインや信号ラインに混入するノイズを抑制し、ノイズ耐量を向上させることによりEMCに対応します。
コモンモードチョークコイルはコモンモードの不要な高周波ノイズのみを除去します。高速差動伝送では、ディファレンシャルモードである高速信号に影響を与えることなくコモンモードノイズを効果的に除去できます。ディファレンシャルモードの通過帯域を広くすると、高速データ通信における高い信号品質と正常動作を確保できます。
フェライトの中にリードを通したものをフェライトビーズといいます。高周波領域では電流のエネルギーがフェライトにおける損失となって失われるため、ノイズを効果的に吸収できます。チップフェライトビーズは積み重ねでインダクタ構造を構成しています。用途に応じて最適なインピーダンスカーブを選べるのが大きな特長で、さまざまな部品が用意されています。
4-2. 電源回路(チョークコイル・DC-DCコンバータ)
インダクタはチョークコイルとしてリップルノイズの低減や平滑化を行うため、電源回路や通信機器でよく利用されます。チョークコイルとは、特定の周波数範囲の信号をブロックまたはフィルタリングするために使用される部品です。直流や低周波交流回路といった低周波回路で主に利用されます。

DC-DCコンバータ(昇圧・降圧回路)においては、インダクタはエネルギー貯蔵と変換を担います。ある範囲の入力電圧を一定の出力電圧に変換する回路をDC-DCコンバータと呼びます。
低損失・高効率な電源設計のためにも、インダクタの特性は重要です。電力損失が大きいと、高熱の発生、電力損失によるコスト上昇、バッテリの消耗が早くなるなど、製品全体の品質低下の大きな要因が発生します。よって、負荷の継続的な大電流に対応し、低抵抗によって電力損失を最小化(=高効率化)することがインダクタには求められます。