インダクタとは?基本原理から特性や選定ポイントまで解説
公開日:2018-09-03
更新日:2026-06-19
スマートフォンや電気自動車、産業機器など現代のあらゆる電子回路に欠かせない部品がインダクタです。しかし、回路やデバイスの高度な要求に見合うインダクタをどう選定すべきか、判断に迷う場面も増えているのではないでしょうか。
そこで本記事では、インダクタの基本原理や特性といった基礎知識から、設計時に押さえておくべき主要スペックまで詳しく解説します。この記事を読めば、インダクタの基本からノイズ対策やフィルタといった要求される用途に応じた最適な選び方まで体系的に理解できるはずです。
インダクタとは?基本原理とインダクタンスの仕組み
インダクタは、導線を巻くというシンプルな構造ながら、電流の変化を嫌い磁気の力でエネルギーを蓄える性質を持っています。本章ではインダクタの基礎知識を詳しく解説します。
1. インダクタの基礎知識
インダクタは、抵抗器(R)とコンデンサ(C)に並ぶ重要な受動部品で、コイルと呼ぶこともあります。一般にコイルは導線を巻いたもの全般を指し、その中で巻線が1つのものを特にインダクタと呼ぶ傾向があります。(以下、コイルは省略してインダクタとします)
インダクタのシンボルには通常「L」が使われます。この「L」は、電磁誘導に関する「レンツの法則」のレンツ(Lenz)に由来すると言われていますが、諸説があるようです。 インダクタの基本的な構造は導線がコイル状に巻かれたもので、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換しインダクタ内部に蓄えることができます。蓄えられる磁気エネルギー量はインダクタのインダクタンスで決まり、単位はヘンリー(H)です。
1-1. インダクタの役割
インダクタは、基本的に以下の働きをします。
- ① 電流が流れることで磁場を発生し、エネルギーを蓄積する受動部品
→ 電流の磁気作用と逆の電磁誘導による特性
- ② 電流の変化を抑え、ノイズ低減や安定した電源供給に貢献
→ インダクタンスの逆起電力による特性
- ③ フィルタ回路や共振回路で、特定の周波数成分を選択・除去する役割も果たす
→ インダクタの直流・交流のインピーダンスに起因する特性
上記の特性を生かした多種多様な製品が用意されています。
1-2. インダクタはなぜ必要?
インダクタにはノイズ除去、電源まわりなど、目的に応じたさまざまな使い方があります。主なものを以下に示します。
DC-DCコンバータ: エネルギーを蓄えて電圧を変換
高周波回路 : RF回路などで、電源ラインや信号ラインの周波数特性を制御(ノイズ、伝送特性)
以上の通り、電気機器の安定動作のためにも欠かせない部品です。
1-3. インダクタとコンデンサの比較
インダクタの特徴をコンデンサと対比してまとめると下表となります。
このようにインダクタはコンデンサとは真逆な特性を示す電子部品です。
| 項目 | インダクタ | コンデンサ |
|---|---|---|
| 電圧と電流の関係 | 電流の変化率が大きいほど 大きな電圧が発生する |
電圧の変化率が大きいほど 大きな電流が流れる |
| 直流電流 | 通す | 通さない |
| 交流電流 | 高周波になるほど通しにくい | 高周波になるほど通しやすい |
| 電圧に対する電流の位相 | 90°遅れる | 90°進む |
2. インダクタンスとは?定義と単位(H:ヘンリー)の求め方
インダクタンスとは、インダクタに電流を流したとき発生する磁束(磁場の流れ)強さを示す値です。具体的には、インダクタに蓄えられる磁気エネルギー量や、電流変化に応じて発生する電圧の大きさを表す指標になります。
単位はヘンリー(H)です。1ヘンリーは「1アンペアの電流変化率(A/s)に対し1ボルトの逆起電圧(V)を生じさせるインダクタ」と定義されています。
インダクタンスは、電流の変化に対する“慣性”の大きさとも捉えられます。電流を急に増減させようとすると、レンツの法則により逆起電力が発生し、電流変化を妨げる向きに働きます。このとき、同じ電流変化率でもLが大きいほど逆起電力が大きくなり、電流を変化させにくくなるのが特徴です。
3. インダクタの構造と回路記号
インダクタの基本構造と回路記号について、それぞれ特徴を解説します。
3-1. インダクタの基本構造
最も基本的なインダクタは導線をコイル状に巻いたもので、導線の両端が外部端子になっています。近年は、コアを用いてコアに導線を巻いたものが大半を占めています。
インダクタのインダクタンスは、以下の式で求められます。
kμSN2
l
- L
- インダクタンス(H)
- k
- 長岡係数
- μ
- コアの透磁率(H/m)
- N
- コイルの巻数
- S
- コイルの断面積 (m2)
- l
- コイルの長さ(m)

この式から、インダクタンスは(1)断面積Sを大きくする、(2)巻数Nを増やす、(3)コアを用いて透磁率μを高めることで大きくなることが分かります。
一方で実務では、厳密な算出というよりも「どのパラメータでLを稼ぐべきか」を判断するための指針として使われることが多く、次のように読み替えると理解しやすくなります。
小型化(同じLを小さくまとめたい)を行う
小型化したいなら、巻数Nを増やすのではなく、より透磁率μの高い素材に変更するのが定石です。
目標のインダクタンスを満たしつつ部品サイズを小さくしたい場合、単純に巻数Nを増やすとインダクタンスLは増えますが、巻線が増えることで直流抵抗(DCR)が上がりやすく、寄生容量も増えて自己共振周波数(SRF)が下がりやすくなります。
そこで、Nを増やしてLを稼ぐのではなく、コア材の透磁率μを上げてNを抑えるという方向性が有効になります。式は「小型化したいなら“透磁率μでLを稼いで巻数Nを最小化する”」という設計の方向性を示してくれます。
大電流化を行う
大電流用途では、電流が流れていない時点の数値よりも、実際に電流を流した際にどれだけインダクタンスLを維持できるか考えます。
透磁率μを上げるとLを大きくできますが、大きな直流電流が流れる電源回路用途では、コアの磁気飽和によりインダクタンスが低下することがあります。つまり「回路に要求されるLを満たすこと」と同時に「直流電流重畳でLがどれだけ維持されるか」を見なければなりません。式はLを増やす方向性(透磁率μを上げる、巻数Nを増やす)を示しますが、実設計では磁気飽和とのトレードオフがあるため、直流電流重畳特性(ΔL規定)や定格電流を必ずデータシートで確認し、必要ならコア材(フェライト系/メタル系)やシリーズを見直します。
高周波化を行う
高周波用途では、数式でインダクタンスLを大きくすることよりも、その周波数でインダクタとして正しく振る舞うかが判断の基準になります。
なぜなら、数式通りに巻数Nを増やしてLを大きくすると、寄生容量の増加を招き、SRF低下や高周波損失の増加につながるからです。式そのものはLの増やし方を教えてくれますが、高周波で重要なのは「その周波数でインダクタとして振る舞うか」です。したがって、式で概略の方向性を掴んだ後は、インピーダンス—周波数特性やSRFが用途帯域を満たすかを優先して判断します。
置き換え・サイズ変更を検討する
同一シリーズでサイズ違いを選ぶ、別シリーズに置き換える、といった場面では、式の各要素を「インダクタの形状の違い」として捉えると見積もりがしやすくなります。例えば、コア断面Sが増えればLは増えやすく、磁路長lが長くなればLは下がりやすいという傾向が読み取れます。細かな数値計算が難しい場合でも、Sとlの増減から“Lが増える/減る方向”を素早く判断できます。
3-2. 回路記号の種類と使い分け
インダクタの回路記号では、コア材料の有無によってその種類が示されます。以下では、コアがないインダクタとコアがあるインダクタの特徴をそれぞれ説明します。
| 新記号 | 旧JIS記号 | |
|---|---|---|
| インダクタ(コアなし) | ![]() |
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| インダクタ(鉄系コア) | ![]() |
![]() |
| インダクタ(フェライト系コア) | ![]() |
|
| トランス | ![]() |
![]() |
インダクタ(コアなし)
プラスチック、セラミック、空気などの非磁性体をコアとして使用するインダクタは、空芯インダクタとも呼ばれます。強磁性体コアに起因するエネルギー損失がほとんど生じないため、高周波用途に適している点が大きな特徴です。このエネルギー損失は「磁心損失」と呼ばれ、周波数が高くなるほど増加します。
そのため、空芯インダクタは高周波RF回路の同調・フィルタなど、周波数が高くQ値を重視したい用途で選ばれます。一方で、透磁率を稼げない分、同じインダクタンスを得るには巻数が増えやすく、部品が大きくなりやすい/大きなLを取りにくい点には注意が必要です。
インダクタ(コアあり)
鉄やフェライトなどの強磁性体をコアとして使用するインダクタは、非磁性体コアと比べて磁場(インダクタンス)を大きくするように設計されています。同様の原理はトランスにも適用され、強磁性体コアを利用することで大きなインダクタンスを得ることが可能です。
そのため、電源回路(DC-DCコンバータ、チョークコイル)など低〜中周波の用途で広く用いられます。ただし、コア材によっては高周波で磁心の損失が増えたり、直流電流で磁気飽和してインダクタンスが低下したりするため、用途周波数帯と直流電流重畳特性(定格電流・ΔL)をデータシートで確認する必要があります。
3-3. コア材料の種類と特性
前述の通り、コアありインダクタはコア材によって、損失や電流の許容量などの性能が変わります。
電源回路で主に使われるインダクタのコア材として、フェライトと金属磁性材の2種類について、それぞれの強みと使い分けのポイントを解説します。
フェライト
フェライトは、酸化鉄を主成分としニッケルや亜鉛などを混ぜて焼き固めた、磁性を持つセラミックスです。
高周波での使用時でも、電気抵抗が高くコア内部に余計な電流が流れないため、発熱によるエネルギー損失を抑えて効率よく動作します。さらに磁導率μが高いため、少ない巻数でも高いインダクタンスを得やすいのがメリットです。
しかし、磁束密度が飽和点に達した瞬間に、インダクタンスが急落する現象が起こるデメリットもあります。セラミックス特有の脆さがあるため、激しい衝撃や急激な温度変化によって割れや欠けが生じやすい課題もあります。
金属磁性材(メタルコンポジット)
金属磁性材は、絶縁処理を施した金属粉末を樹脂で一体成型した素材です。
金属磁性材は飽和磁束密度がフェライトと比べて2倍以上高い点がメリットです。
飽和磁束密度が高いと、コアを細く小さくしても磁気飽和せず大電流を流せます。
その結果、インダクタンスの低下を緩やかに保ちつつ、同じ定格電流でもインダクタを小型化することが可能です。
樹脂一体成型の素材のため、フェライトに比べて衝撃や熱衝撃に強く、物理的な破壊のリスクが低い点も特長です。エンジンルーム付近のような高温・高振動の過酷な環境でも、安定した電気特性と物理強度を維持できるため、車載ECUの電源回路にも採用されています。
4. インダクタにおける電圧と電流の関係
本章では、インダクタの電圧・電流特性や周波数による影響を解説します。
4-1. 電圧-電流の基本式(自己誘導作用と逆起電力)
( I:電流[A] t:時間[s] )
( ω(角周波数)=2πf f:周波数[Hz] L:インダクタンス[H] )
インダクタは電流変化に応じた電圧を発生する特性を持ちます。これを逆起電力と呼び、磁束変化を妨げる向きの電圧が発生します。インダクタンス(L)が大きいほど、電流変化を抑制します。誘導性リアクタンス、電圧降下の式より、直流では電圧降下が小さいですが、交流では誘導性リアクタンスが大きくなり、その結果として電圧降下も大きくなります。
4-2. 直流・交流における特性の違い
インダクタは、直流ではほぼ抵抗なしの導線として動作します(ZL=0)。交流では、周波数に応じたリアクタンスが発生します。また、インダクタのコア材によっても交流特性(周波数特性)は変化します。以下に示します。
- ケイ素鋼板
低周波領域が得意な材質です。商用周波数帯(50/60 Hz)において、電源トランス、チョークコイルなどに広く利用されます。 - パーマロイ
鉄にニッケルを加えて高透磁率材料としたものをパーマロイと呼びます。低周波信号用のトランス、チョークコイルなどに利用されます。 - ダストコア
電源ラインフィルタ、スイッチング電源の高周波平滑コイルなどに利用されます。 - フェライトコア
高周波用高透磁率材料として広く利用されます。 - 空芯
コアに磁性体を使わないインダクタ。高周波回路などに利用されます。
4-3. 周波数特性とリアクタンスの関係
理想のインダクタは、周波数が高くなるにしたがって、リアクタンスが直線的に増加します。 しかし、実際のインダクタは、寄生容量により自己共振現象が発生し、それより高い周波数では、リアクタンスが低下して本来のインダクタとして機能しなくなります。
高周波ノイズ除去にはフェライトコアインダクタが有効です。フェライトコアでは、通常のコイルに比べレジスタンス(R)成分が非常に大きくなります。ただしノイズ除去の働きは、高インピーダンスによる電流制限効果よりも磁気損失によるノイズエネルギー消費効果のほうがより大きくなります。
5. インダクタの活用方法 - 事例紹介 -
インダクタはノイズ対策や電源回路など、多くの用途で活用されています。以下に具体的な事例を紹介します。
5-1. ノイズ対策(EMC対応・コモンモードノイズ除去)
EMCとは、他の機器に電磁妨害を与えず、かつ他の機器から電磁妨害を受けても本来の性能を維持することを意味し、電磁両立性と呼ばれています。インダクタにより、電源ラインや信号ラインに混入するノイズを抑制し、ノイズ耐量を向上させることによりEMCに対応します。
コモンモードチョークコイルはコモンモードの不要な高周波ノイズのみを除去します。高速差動伝送では、ディファレンシャルモードである高速信号に影響を与えることなくコモンモードノイズを効果的に除去できます。ディファレンシャルモードの通過帯域を広くすると、高速データ通信における高い信号品質と正常動作を確保できます。
フェライトの中にリードを通したものをフェライトビーズといいます。高周波領域では電流のエネルギーがフェライトにおける損失となって失われるため、ノイズを効果的に吸収できます。チップフェライトビーズは積み重ねでインダクタ構造を構成しています。用途に応じて最適なインピーダンスカーブを選べるのが大きな特長で、さまざまな部品が用意されています。
5-2. 電源回路(チョークコイル・DC-DCコンバータ)
インダクタはチョークコイルとしてリップルノイズの低減や平滑化を行うため、電源回路や通信機器でよく利用されます。チョークコイルとは、特定の周波数範囲の信号をブロックまたはフィルタリングするために使用される部品です。直流や低周波交流回路といった低周波回路で主に利用されます。
DC-DCコンバータ(昇圧・降圧回路)においては、インダクタはエネルギー貯蔵と変換を担います。ある範囲の入力電圧を一定の出力電圧に変換する回路をDC-DCコンバータと呼びます。
低損失・高効率な電源設計のためにも、インダクタの特性は重要です。電力損失が大きいと、高熱の発生、電力損失によるコスト上昇、バッテリの消耗が早くなるなど、製品全体の品質低下の大きな要因が発生します。よって、負荷の継続的な大電流に対応し、低抵抗によって電力損失を最小化(=高効率化)することがインダクタには求められます。
5-3. 信号処理(フィルタ回路・発振回路)
インダクタは高周波の信号処理にも欠かせない部品です。フィルタ回路ではコンデンサと組み合わせて周波数特性を作り込み、特定の周波数帯の信号だけを通過させたり遮断したりします。例えば、インダクタとコンデンサを直列または並列に接続したLCフィルタは、組み合わせ方によってローパスフィルタ(低周波だけ通す)、ハイパスフィルタ(高周波だけ通す)など様々な特性を実現できます。インダクタのインピーダンスが周波数によって変化する性質と、コンデンサの性質をうまく利用することで、抵抗器では得られない鋭い周波数選択性を持つフィルタが構成できるのです。
さらに、インダクタとコンデンサを組み合わせて共振回路(タンク回路)を作れば、特定の周波数でエネルギーのやり取りを繰り返す発振回路を構成できます。LC共振回路は、コイルの磁気エネルギーとコンデンサの電気エネルギーが周期的に入れ替わることで、共振周波数の信号を選択・増幅する仕組みです。これに増幅素子を組み合わせてフィードバックさせることで、高周波の正弦波を発生させる発振器(LC発振回路)として利用できます。ラジオや通信機の同調回路も、可変インダクタや可変コンデンサでLC共振周波数を変えて目的の周波数の信号を選択しています。
6. 設計時に押さえておくべき主要スペックの選び方
インダクタを部品選定する際には、データシートに記載される主要な仕様を理解し、用途に適したものを選ぶ必要があります。ここでは設計時に特に注意すべき7つのスペックについて解説します。
- 1. インダクタンス(L)
- 2. 定格電流
- 3. 直流抵抗(DCR)
- 4. 自己共振周波数(SRF)
- 5. Q値
- 6. コア材
- 7. 温度特性
6-1. インダクタンス(L)
回路が許容できるリップル電流の大きさからLを決定するのが望ましいです。
Lが小さすぎると電流の変動が大きくなり、電気的ノイズとなって現れます。電流のピーク値が高くなることで、回路内の抵抗による発熱が増え、全体的な効率が低下してしまう懸念もあります。
逆にLを大きくしすぎると、インダクタ自体のサイズが大きくなり、基板スペースを圧迫する点がデメリットです。急に大きな電流が必要になった際、Lが邪魔をして電流の立ち上がりが遅れシステムの動作が不安定になる可能性も考えられます。
DC-DCコンバータの設計では、最大出力電流の20%〜40%程度をリップル電流として許容し、そこから最低限必要なLを導き出すのが一般的です。
6-2. 定格電流
定格電流は、直流重畳許容電流(ΔL)と温度上昇許容電流(ΔT)のうち、低い方の値を上限として選定します。
- 直流重畳による定格電流(ΔL)
インダクタに直流電流を重畳(流し続け)したときに、インダクタンス値Lが初期値から一定割合(例えば30%低下)まで減少してしまう電流値です。コアが磁気飽和を起こすことでインダクタンスが低下するため、この電流値以上ではインダクタが本来のインダクタンスを維持できなくなります。一般的には「インダクタンスが初期値の70%になる電流」が直流重畳許容電流とされることが多いですが、こちらもメーカーによって基準が異なる場合があります。 - 温度上昇による定格電流(ΔT)
一定の直流電流をインダクタに流した際、自己発熱によってインダクタの温度が規定値(通常は周囲温度+40℃など)上昇する電流値です。この値はインダクタの直流抵抗やコア損失による発熱に基づき決められます。メーカーや製品によって基準とする温度上昇値が異なる場合もありますが、多くはΔT=40℃(温度上昇40℃)の電流が定格とされています。
用途によって温度上昇(ΔT)を重視すべきかインダクタンス低下(ΔL)を重視すべきかは異なります。
たとえば高温環境や密閉筐体内での使用では温度上昇による影響が深刻なのでΔT定格内で収めることが重要です。一方、大電流が流れる電源回路ではインダクタンスの保持(必要なLを維持すること)が求められるためΔL定格内で使う必要があります。もしデータシートに両方の値がなく判断に迷う場合は、メーカーに確認して安全な範囲を見極めることも大切です。
6-3. 直流抵抗(DCR)
可能な限りDCRが低いインダクタを選択すべきです。
インダクタの損失の多くは、巻線抵抗に電流が流れることで発生する銅損です。銅損は電流の2乗に比例して増大するため、DCRの僅かな差が製品全体の熱設計やバッテリ寿命に影響を及ぼします。DCRを下げるアプローチは、基板上のスペース許容度によって変わります。
サイズ制限が緩い場合は、一回り大きなサイズのインダクタを採用するのが、コストを抑えつつDCRを下げる手法です。部品を大きくすることで、より太い巻線を使用できるようになり、低抵抗化を実現できます。
サイズ制限が厳しい場合、高磁束密度コア材や接合レス構造の採用が必要です。
- 高磁束密度コア材
磁気飽和しにくい素材を用いることで、コアを細くしても大電流に耐えられるようになり、空いたスペースに太い巻線を通すことが可能になり、小型と低抵抗を両立できます。 - 接合レス構造
巻線と外部端子の接合を無くし、巻線をそのまま端子にする構造です。接合部のわずかな接触抵抗さえもゼロにできます。
6-4. 自己共振周波数(SRF)
インダクタの自己共振周波数(Self-Resonant Frequency, SRF)も重要なスペックの一つです。インダクタには微小な寄生容量が存在し、ある周波数でコイルのインダクタンスとその寄生容量が共振回路を形成してしまいます。この共振点が自己共振周波数です。
自己共振周波数ではインダクタのインピーダンスが最大となり、それ以上の周波数ではインダクタの振る舞いが事実上失われます。電流の変化を妨げる役割を果たせなくなるため、高周波信号を扱う設計では、この自己共振周波数より十分低い周波数範囲でインダクタを使用する必要があります。目安としては、動作周波数の10倍以上のSRFを持つインダクタを選定するのが一般的です。
特にフィルタ回路や共振回路では、インダクタが所定のインダクタンスを保っている周波数範囲内で使わないと期待通りの性能が得られません。
また、高周波領域で使うインダクタにはQ値(品質係数)やインピーダンス特性のグラフが示される場合もあります。これらも含め、インダクタの周波数特性を把握した上で適切な製品を選定することが、安定した回路動作のために重要です。
6-5. Q値
信号用フィルタや共振回路では、Q値が高い製品を選定します。
Q値はインダクタのエネルギー損失の少なさを示す指標であり、数値が高いほど狙った周波数だけをピンポイントで通す能力が高くなるからです。Q値が低いと、本来信号として送りたいエネルギーが熱となって逃げてしまい、信号が弱くなります。
電源用のチョークコイルではQ値はそれほど重視されませんが、通信用の高周波フィルタではQ値の差が信号品質に直結します。注意すべきは、Q値が固定値ではなく周波数によって変化する点です。データシートのグラフを確認し、利用する周波数帯でQ値がピーク付近にある製品を選びます。
6-6. コア材
回路の目的に合わせて、適切なコア材を選択します。
素材によって磁束密度の大きさと、磁気飽和の仕方が異なるからです。用途に応じて以下のようにコア材を使い分けます。
- 空芯
芯に磁性体がなくLが変化しないため、高周波RF回路の同調・フィルタなど、周波数が高く損失(Q)を重視したい用途に向いています。 - フェライト
高周波・小電流での効率を優先する場合に適しています。磁気の損失が少ないため、負荷の軽い電源回路や信号用フィルタに向いています。 - 金属磁性材(メタルコンポジット)
大電流・小型化・高信頼性を求める電源回路に最適です。磁束密度が高いため、コアを細く小さくでき緩やかな飽和特性を両立できます。
6-7. 温度特性
カタログの25℃環境データだけでなく、必ず高温時の使用制限を考慮し、最悪条件での挙動を確認することが大切です。
インダクタは周囲が熱くなると、安全のために流せる電流を減らす必要があります。周囲温度と自己発熱の合計が部品の耐熱限界を超えると、絶縁破壊や熱暴走を招くからです。
常温では十分な性能を保っていても、夏場の車内や密閉された筐体内の過酷な環境下では、磁気飽和が前倒しで発生し、想定より低い電流でシステムがダウンするトラブルが起き得ます。設計時にはデータシートの温度別重畳特性グラフを確認し、125℃や150℃といったワーストケースの動作温度においても、回路が必要とするインダクタンスが確保されているかを見極める必要があります。
7. インダクタに関するよくある質問(FAQ)
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Q1. インダクタ(コイル)とフェライトビーズの違いは何ですか?A. 特定の機能を実現するならインダクタを、ノイズを除去するならフェライトビーズを選択します。インダクタは磁場にエネルギーを蓄え、電源の平滑化やフィルタ/共振など「回路動作を作る」目的で使う部品で、インダクタンス(H)が主指標です。フェライトビーズは主に高周波ノイズ対策向けで、フェライトの損失を利用してノイズ成分を減衰させます。評価はインダクタンスよりも周波数ごとのインピーダンス特性(Ω)が重視されます。
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Q2. インダクタに極性(向き)はありますか?A. 一般的なインダクタには電解コンデンサのような極性はなく、どちら向きに実装してもインダクタンスや直流抵抗などの特性は変わりません。ただし、隣接部品への磁気ノイズ干渉を抑えるために、向きを揃えることがあります。その際は、パッケージにあるマーキングを目印にして向きを統一するのが一般的です。
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Q3. 定格電流を超えて使用するとどうなりますか?A. インダクタが本来の性能を発揮できなくなり、出力電圧の激しい変動や異常なノイズといった回路の誤作動を招きます。具体的には、磁束の飽和によってインダクタンスが低下し、電流の抑制効果が弱まってリップル電流が増大するほか、熱による絶縁劣化や短絡を引き起こす可能性があります。設計時には定格に十分な余裕を持たせ、過電流が流れないよう保護も含めて検討することが不可欠です。
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Q4. インダクタとコンデンサの性質の違いを簡単に教えてください。A. インダクタとコンデンサは、電気の通し方が真逆の性質を持ちます。インダクタは電流の変化を嫌うため、一定の流れである直流はスムーズに通しますが、変化の激しい高周波はブロックします。対してコンデンサは電圧の変化を嫌うため、変化のない直流は遮断し、変化の激しい高周波だけをスルーすることが特徴です。
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Q5. 「巻線型」と「積層型」のインダクタは、どう使い分ければよいですか?A. 大電流の電源回路には巻線型、小型化を優先する信号回路には積層型を選ぶのが基本です。巻線型は低損失で大電流に強い一方、サイズは大きめで電源回路など損失を抑えたい用途に向きます。積層型は小型・低背で漏れ磁束も抑えやすいため高密度実装や高周波機器で使われます。ただし巻線型に比べて許容電流が小さいので、電源用途では直流重畳特性や発熱余裕を見て選定します。










