電源回路の基礎知識(3)~スイッチング・レギュレータの設計手順~

 

電源回路の基礎知識(3)
~スイッチング・レギュレータの設計手順~

2019-09-24

今回は、スイッチング・レギュレータの設計フローの一例を簡単に説明します。

スイッチング電源ICを選定する

デジタル機器や家電などに広く用いられているスイッチング電源は、オペアンプなどのディスクリート部品(単体部品)を組み合わせても構成できますが、ゼロからの設計は動作解析や検証に多くの時間を必要とし、部品点数も多くなってしまいます。また、短絡時の電流制限など、各種の保護機能を実装するのも大変です。
そのため、機能が集積されていて動作が保証されている市販のスイッチング電源ICを用いる方法が一般的です(表1)。
システムに供給される電圧(電源の入力電圧)、および、負荷回路が必要とする電圧と電流(電源の出力電圧と出力電流)といった基本的な仕様のほか、見込まれる入力電圧の変動幅、負荷回路の消費電流の変動幅、許容される出力電圧誤差、環境温度範囲といった要求仕様を踏まえながら、ベンダーのウェブサイトに用意されている部品セレクション機能を利用するなどして最適な電源ICを選定していきます。
もちろん、回路サイズ、コスト、変換効率(発熱)、ベンダーの採用実績なども重要なファクターです。

項目 スイッチング・
コントローラIC
スイッチング・
レギュレータIC
スイッチング電源
モジュール
構成 帰還回路やスイッチング周波数の発振回路などの制御回路のみを集積 帰還回路などの制御回路のほか、MOSFETドライバと小型MOSFETを集積 スイッチング電源に必要なほぼすべての部品を単一パッケージに封止
集積度 低 ←--------→ 高
主な外付け
部品
入出力コンデンサ、出力インダクタ、抵抗器、MOSFET、(MOSFETドライバ) 入出力コンデンサ、出力インダクタ、抵抗器 若干のコンデンサ、抵抗器
特徴 MOSFETを選択できるため、出力電流が比較的大きい電源回路向け 出⼒電流が⼩さい電源回路向 け 設計作業がほぼ不要。100Aクラスの高出力版も登場。部品コストがやや高め

表1. 市販のスイッチング電源ICの主な分類
(呼び方は半導体ベンダーによっても異なり、統一されたものではありません)

出力コンデンサと出力インダクタを選定する

スイッチング電源ICを選定したら、スイッチング電源ICのアプリケーションノートなどに記載されている推奨定数などを参考にしながら、受動部品(抵抗/コンデンサ/インダクタ)の選定を進めていきます。なかでも重要なのが出力コンデンサ(図1のCout)と出力インダクタ(図1のL)のふたつです。

図1. スイッチング・レギュレータICで構成したスイッチング電源回路の模式図 img
図1. スイッチング・レギュレータICで構成したスイッチング電源回路の模式図

出力コンデンサの選定

出力コンデンサの選定で注意すべき点は容量特性とESR(等価直列抵抗)です。

たとえば、スイッチング電源によく使われるMLCC(積層セラミックコンデンサ)は、温度やDCバイアスによって容量が低下することが知られています(図2)。

図2. DCバイアスや温度によって容量が変化するMLCCの特性の例 img
図2. DCバイアスや温度によって容量が変化するMLCCの特性の例

このうち温度特性は一般にEIA規格のコードで示されています。「X5R」品は高温になっても容量低下はわずかですが、「Y5V」品は大幅に低下してしまうため注意が必要です。出力コンデンサの周囲温度が動作中にどの程度まで上昇するかを事前に検討し、適切なコンデンサを選択する必要があります。
また、高誘電率系のMLCCは、直流電圧を印加したときに容量が大きく低下する傾向があるため、公称容量だけを見て容量値を選択してしまうと、実使用条件では期待どおりの特性が得られなくなる可能性があります。

これらの課題については技術情報の 「MLCCの課題を導電性高分子コンデンサで解決」 も合わせて参照してください。

コンデンサは静電容量(C)のみであることが理想ですが、実際のコンデンサにはC成分の他に等価直列抵抗(ESR)、等価直列インダクタンス(ESL)、絶縁抵抗(IR)も含まれます(図3)。

図3. 理想のコンデンサと実際のコンデンサの等価回路 img
図3. 理想のコンデンサと実際のコンデンサの等価回路

このうち抵抗成分であるESRは電圧降下の原因となり、さらに負荷電流が変動するとそれに応じて電圧降下も変動し、負荷に届く電圧が低下します。また、ESRが高いとスイッチングによって生じるリプル電流の吸収効果が低減したり、ESRとリプル電流による発熱によってコンデンサの寿命が短くなったりします。そのため、ESRが高いコンデンサは使用条件が大きく制限されるため注意が必要です。
一般にタンタルコンデンサやアルミ電解コンデンサはESRが高く、MLCCや導電性高分子コンデンサはESRが低いコンデンサです。
コンデンサのESRについては、技術情報の 「コンデンサの基礎知識(1) ~仕組み・使い方・特性~ 」 「スイッチング電源のMLCC入力/出力コンデンサのハイブリッドコンデンサへの置き換え事例」 も参照してください。

  1. 容量特性
  2. ESR(等価直列抵抗)

出力インダクタの選定

出力インダクタの選定では、ベンダーが示している公称インダクタンスに注意します。公称インダクタンスはある周波数で測定したときの値であり、また一般に±30%程度の誤差を含みます。スイッチング電源の出力インダクタとして使う場合は、スイッチング周波数において所望のインダクタンスが得られることを、データシートの特性グラフなどで確認する必要があります。
また、インダクタは直流電流が重畳するとインダクタンスが減少します。インダクタンスが初期値から-30%低下する電流は「電流定格:直流重畳」といった仕様項目で示されています(表2)。詳しくは技術情報の 「 インダクタ(コイル)の基礎知識(2) ~特性・種類~ 」 を参照してください。
インダクタンスの特性はコンデンサや抵抗の特性に比べると直感的に理解しづらいところもありますので、ベンダーの技術情報を参照したり問い合わせを行うなどして、設計しようとする電源にとって適切なインダクタを選択されることをお勧めします。

スペック項目 意味/条件など
インダクタンス (L値) [µH] 測定周波数(100kHz)に基づく
直流抵抗 (DCR) [Ω] インダクタを構成する導体(銅線)の抵抗成分
定格電流:温度上昇 (⊿T) [A] 直流電流印加時の温度上昇が40Kに至る電流定格値
定格電流:直流重畳 (⊿L) [A] 直流電流印加時(直流重畳)にL値が初期値から30%低下する定格電流
表2. インダクタのスペック項目例

設計の上流過程でノイズ対策を行う

スイッチング電源回路の設計で課題になるのがノイズです。 「電源回路の基礎知識(2)」 で説明したように、スイッチング周波数でスイッチ素子がオンとオフを繰り返すことで電流が大きく切り替わるループが形成され(図4)、電磁ノイズやグランド・ノイズ(グランド・バウンス)が原理的に発生します。

(a). SW1がオンでSW2がオフのとき img
(a). SW1がオンでSW2がオフのとき
(b). SW1がオンでSW2がオンのとき img
(b). SW1がオンでSW2がオンのとき
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ループの差
に注目
図2(a). SW1がオンでSW2がオフのとき img
(c).電流がオン/オフするループが存在
図4. スイッチング電源に原理的に存在する電流ループの模式図

電源で発生したノイズが自らのシステムに重畳すると、動作が不安定になったり、異常動作を引き起こします。いわゆる「自家中毒」と呼ばれる現象です。また、ノイズが外部に放射されると他の機器に影響が及びます。たとえばクルマでは、ノイズに含まれる周波数次第では、AMラジオ(国内では526.5kHzから1606.5kHz)に雑音が混入する可能性もあります。
そのため、電源回路の設計においては、家電や自動車など分野ごとに規定されるさまざまなEMI(Electro Magnetic Interference)規格を満たすように、ノイズの抑制と対策が不可欠です。
ノイズはできるだけ設計の上流工程で対策したほうがコストも時間も抑えられます。具体的には、入力コンデンサを含む電流ループの面積をできるだけ小さくする、ループから他の信号を離す、回路のグランドはできるだけ「ベタ」パターンにする(もしくは多層基板を採用する)、バイパス・コンデンサなどフィルタ素子を適宜配置する、といった基板設計での工夫などが重要です。最近は電磁界解析ツールを活用して基板上の電流やインピーダンスを可視化する手法も使われています。
また、パッケージの工夫などで従来よりもノイズの発生を抑えたスイッチング電源ICも登場していますので、そうしたソリューションを選択するのも一案でしょう。

以上、スイッチング電源を設計する際の一般的な手順と、代表的な注意点を挙げました。実際にはより多くの条件を考慮しながら設計作業を進めていく必要があります。過去の製品で実績のある電源回路や、電源ICベンダーが提供するリファレンス回路なども参考にしてください。

次回は、クルマを制御するECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)の電源について取り上げます。

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