EPSとは? ~ステアリング操作をモータでアシストするシステム~

 

2023-12-22

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EPSとは? 
~ステアリング操作をモータでアシストするシステム~

EPSとは、ステアリング操作の際に必要な運転者の力を、モータによって軽減・アシストする機器です。さらに、EPSを採用することによって燃費は向上し、車両の重量削減も期待できます。本記事では、EPSの機能とシステム構成について解説し、構成する電子部品も紹介します。

EPSとは?

EPSの概要

EPS(Electric Power Steering)とは、モータによってドライバーのハンドル操作をアシストするパワーステアリングの一種です。従来の油圧式パワーステアリングでは、エンジンの動力を利用して、油圧ポンプを動かすことでアシストしていました。EPSの場合は、ステアリングの操作情報を基に電気的制御でアシストを行います。油圧式と比較して、エンジンの動力を使わないため、燃費の向上が期待できます。

図1 EPSの動作
図1 EPSの動作

パワーステアリングの技術的変化のトレンド

  • 電動化
    バッテリーの電力で駆動し、燃費向上、機構簡素化が進む。自動運転化の際は自動車側が完全に制御する必要があるため、電動化は必須となります。

  • By-Wire
    ハンドルの軸と車輪軸は機械的に分離され、電気的につながる。機械的に分離されるため、より細かな操作制御が可能となる。自動運転レベルが上がれば、自動車による操作が主となり、ドライバーは副となっていき、人が操作するステアリングの必要性は低下し、最終的にはステアリング無しで車軸側のみとなると予測されます。
    図2 By-Wireによる構成変化
    図2 By-Wireによる構成変化
  • 冗長化
    安全性や信頼性向上のため、モータ駆動のインバータ回路などは2回路で構成し冗長化されていきます。
    図3 冗長化による構成変化
    図3 冗長化による構成変化

市場と機器のトレンドについて

EPSの搭載率は今後増加の見込みです。現在生産されている自動車の自動運転レベルはLv2以下が多くを占めますが、自動運転レベルが高くなれば、その分By-Wireが増加すると推測されています。By-Wireでは機械的な接続に代わりモータの数が増え、EPS全般では安全性と信頼性向上に向けて、モータ制御回路の2系統化(冗長化)も進めば、消費電力の増加が懸念されます。これらの課題を解決するため、EPSを構成する電子部品には、「低損失」「高耐熱」「高精度(温度)」「小型化」が要求されています。

EPSの回路構成について

全体構成

  • ノイズフィルタ:外部から又は当回路からのノイズを抑制する
  • 電圧変換回路:FETなどによるスイッチングで電圧を変換する。また、FETなどの温度計測を行う
  • ゲートドライブ回路:スイッチング素子のゲートを制御
  • 制御回路:回路全体を制御
  • DC/DCコンバータ:制御回路向けの電源供給
  • コミュニケーションI/F:外部との通信回路
図4 EPSの全体構成
図4 EPSの全体構成

個別回路および構成部品

ノイズフィルタ

ノイズフィルタ回路では、外部または自回路からのノイズを抑制し、回路の誤動作を防止します。フィルタには大型のコイルとコンデンサを組み合わせて用いるのが一般的です。

【使用される部品】

ノイズ除去・平滑 ―― 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ

POINT
  1. ❶ 大容量&低ESR&高リプル性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 容量特性の高周波対応により、回路の高周波スイッチング化で発生するノイズの広帯域&高周波除去に貢献

電圧変換 ―― 車載用パワーインダクタ

POINT
  1. ❶ 金属磁性材での低損失&大電流性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 損失特性の高周波化(低ACR)により、回路の高周波スイッチング化における損失抑制に貢献

電圧変換回路

電圧変換回路では、複数のスイッチング素子によって電圧の変換を行います。スイッチング素子をOn/Offすることで変換動作を行いますが、On/Offの際にノイズが発生するため、素子(FET)のゲート端子に抵抗器を用い駆動ノイズを抑制します。また高電力の動作により、スイッチング素子等が規定以上に発熱した場合の故障防止のために、NTCサーミスタを用いて温度計測するのが一般的です。

【使用される部品】

スイッチング素子ゲート駆動ノイズ抑制, フィルムコンデンサの放電 ―― チップ抵抗器 (小形高電力チップ抵抗器)

POINT
  1. ❶ 独自の抵抗パターン、電極構造などにより小型高電力化を実現し、回路の小型化に貢献

スイッチング素子等の温度計測 ―― NTCサーミスタ(チップ形)

POINT
  1. ❶ 小型、高耐熱かつ独自の外電形成技術により高信頼性により、回路の温度補償の高精度化に貢献

DC/DCコンバータ

DC/DCコンバータは主にFET、コイル、コンデンサで構成されています。入力部のノイズ除去と出力部の平滑には導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ、電圧変換には車載用パワーインダクタ、電圧計測にはチップ抵抗(高精度チップ抵抗器)を用いるのが一般的です。

【使用される部品】

ノイズ除去、スイッチング・平滑 ―― 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ

POINT
  1. ❶ 大容量&低ESR&高リプル性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 容量特性の高周波対応により、回路の高周波スイッチング化で発生するノイズの広帯域&高周波除去に貢献

ノイズ除去 ・平滑 ―― 車載用パワーインダクタ

POINT
  1. ❶ 金属磁性材での低損失&大電流性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 損失特性の高周波化(低ACR)により、回路の高周波スイッチング化における損失抑制に貢献
図5 DC/DCコンバータで使用される部品
図5 DC/DCコンバータで使用される部品

コミュニケーションI/F

コミュニケーションI/F(通信)回路では、2本の線を使って外部機器と通信します(CAN、Ethernetなど)。このとき、通信線からノイズや静電気が混入すると、トランシーバーICが故障する恐れがあります。そのため、トランシーバー回路には静電気対策用としてチップバリスタで構成するのが一般的です。

【使用される部品】

ESDノイズ除去 ―― チップバリスタ

POINT
  1. ❶ 幅広い容量特性ラインナップにより、回路の通信品質を維持しながら静電気(ESD)ノイズの抑制に貢献
  2. ❷ チップバリスタは、8~250pFの容量特性により、低速から高速の通信速度に対応
図6 コミュニケーション I/Fで使用される部品
図6 コミュニケーション I/Fで使用される部品

まとめ

EPSは、ドライバーのステアリング操作をモータでアシストするシステムです。今後、自動運転レベルが高くなれば、電気的制御のみで行うBy-Wireが増加すると推測されており、結果としてEPSの搭載率は増加すると予測されます。油圧式パワーステアリングなどの機械的な接続に代わるモータの数が増加すれば、クルマ全体の消費電力は大きくなります。さらに、自動運転レベルが高くなると、さらに安全性と信頼性向上のため、モータ制御回路の冗長化も進むと予測されています。これらの技術進化に対応するために、EPSを構成する電子部品は「低損失」「高耐熱」「高精度(温度)」「小型化」への対応が必須となります。パナソニックインダストリーでは、EPS向けに幅広い商品ラインアップを取りそろえています(表1)。

表1 商品ラインアップと特長一覧
部品 特長 低損失 小型化 高耐熱 高精度
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ 低ESR
高信頼性
車載用パワーインダクタ 大電流、低損失
高信頼性
高精度、高耐熱
チップバリスタ 小形・軽量化
NTCサーミスタ(チップ形) 小形、高耐熱

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