コモンモードノイズフィルター基礎講座(4/5)

⑧ コモンモードフィルタの選定 [1]

コモンモードノイズフィルタの選定方法について述べます。
基本的には、デジタル信号を減衰させない、ノイズを減衰する2つのステップとなります。


まずデジタル信号を損失なく通過させるために、差動モード挿入損失が少ないものを選定します。図8-1 に示すように、デジタル信号波形の整形には最低でも3次から5次以上の高調波成分が必要なため、デジタル信号の基本周波数foの3×fo あるいは5×fo 以上のカットオフ周波数を有するものを通常選定します。
一方で近年の高速伝送では、高周波成分の損失を補完するため、出力側でのエンファシス、受信端でのイコライザ処理をしているインターフェイスが多くみられます。この場合、規定のコンプライアンステストをパスし実使用上問題なければ、3×fo 以下のものでも採用される場合があります。

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差動モード 特性インピーダンスの整合

差動モード伝送で、もうひとつ重要なパラメータとして差動(ディファレンシャル)モードの特性インピーダンスが あります。(以下特性インピーダンス) 通常インターフェイスの規格で定められた特性インピーダンスに応じて、伝送線路設計がなされています。例えばUSB なら特性インピーダンス90Ω、HDMI であれば100Ωが規定されています。


もしも伝送帯域においてコモンモードノイズフィルタが大幅にこの特性インピーダンスを外れていた場合、差動信号の反射、損失が起き、信号が劣化します。


図8-2 には、同じカットオフ周波数3GHzを有するコモンモードノイズにて、特性インピーダンスが違う2つ のフィルタのHDMI-1080p-Eye マスクテスト比較した結果を示しています。
特性インピーダンス100Ωを有する当社品に比べて特性インピーダンスが80Ωと低い他社フィルタでは、信号に劣化が見られます。


このように、差動モードの特性インピーダンス整合にも注意を払う必要があります。

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この特性インピーダンス整合を評価する方法には、時間軸で評価するTDR 測定と周波数軸で評価するS-parameter があります。
当社が提供するS-parameter からの演算により、コモンモードノイズフィルタの周波数軸の特性インピーダンス情報が得られます。
TDR 測定ではステップパルスをコネクタ側から入れ、そのレスポンスを観測することで差動モードの特性インピーダンスを測定できます。もし被測定経路中に、入力した規定の特性インピーダンスをもつステップパルスと異なる特性インピーダンスをも部位がある場合、そこで反射、損失が発生します。それを特性インピーダンスの値に処理し直し、経路上の情報として返します。TDR 特性のメリットは、セットを組んだ状態で位置情報とともに特性インピーダンスが観測でき、基板上の不整合箇所が把握できるという特長があります。


TDR測定による差動モード特性インピーダンス整合

TDR 測定の例として、HDMI インターフェイスにおける当社コモンモードノイズフィルタのTDR 特性を示した ものを図8-3 に示します。コネクタ、コモンモードノイズフィルタ、HDMI-IC とそれぞれでの部位での特性インピーダンス情報が得られるのが分かります。


当社コモンモードノイズフィルタは、HDMI の伝送路の特性インピーダンス100Ω±15Ωに十分満たしており、差動伝送において優れた整合性を有していることが分かります。

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⑨ コモンモードフィルタの選定 [2]

次に、コモンモードノイズ減衰周波数特性より、コモンモードノイズを除去したい周波数帯に見合った製品を選定します。


当社では、図9-1 に示すように、スマートフォン向けに無線通信のバンド周波数で高減衰させた製品や、 HDMI のように広帯域のノイズ減衰が必要な製品を取り揃えており、用途に応じて最適なフィルタを提供で きるようにしております。

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⑩ スマートフォンの受信感度改善例

当社のコモンモードノイズフィルタを用いた場合の、スマートフォンのセルラー受信感度測定例を図10-1 に 示します。


LCD のMipi インターフェイス部にコモンモードノイズフィルタを配置し、フレキシブルケーブルからの放射を抑 制することで受信感度を改善している例です。

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