データセンターに必須?48V給電の理由と電源設計の課題 (1)
なぜ48V給電?
2021-07-27
5Gの普及が加速し、データセンターやエッジAIサーバーなどに使用されるCPU, GPU, FPGA, ASICなどプロセッサも進化しています。
進化に伴い電源設計では負荷変動や熱などの課題が生まれています。その解決策として48V給電が注目されています。
そこで今回は、48V給電によるデータセンターの課題解決策について解説します。
5G社会を支えるデータセンターの進化
次世代高速通信5Gのサービスがいよいよ始まりました。これから2030年までの10年間、5G技術により過去10年と比べ通信性能が大幅に向上することで、これまで不可能だった様々な利便性の実現が期待されています。通信容量無制限の携帯電話契約の一般化や、MR(複合現実)技術による遠隔医療・遠隔工事、そして汎用的な自動運転まで…。これらの普及を支えるインフラとして、5G無線基地局の技術進化と展開計画が日々クローズアップされています。しかし、同時に忘れてはならないのがその裏でアプリケーションの演算処理を行うデータセンターの進化です。(図1)
実際に、演算を行うCPU, ASIC等の高性能プロセッサは大容量の処理や新時代のアプリケーションに対応するため、多コア化や高クロック化による性能の向上が図られています。また、異種プロセッサの組み合わせによる効率的な性能向上への取り組みも活発です。(図2)
従来データセンターにおける高性能プロセッサはサーバーに使われるCPUとスイッチ・ルータ等に使われる通信処理用ASICが主なものでしたが、現在ではAI実現ためのGPUやASIC、柔軟な処理を可能とするFPGA、データ処理を効率化するDPU等、性能最適化のために使用される高性能プロセッサは広がりを見せています。例えば、2つのCPUを持つサーバーに対して別筐体で8つのGPUを協調動作させるなど筐体を超えた大規模な処理を行うことで、演算性能の飛躍的な向上が図られています。(図3)
データセンターの電力課題
データセンターの進化において、近年問題視されている問題の一つが消費電力の増大です。
主な理由はプロセッサにあります。以前はプロセッサの加工プロセス微細化により演算性能を向上しても、消費電力を抑えることができていました。しかし昨今は物理的な制約により、微細化による電力低減効果は小さくなってきていると言われています。(ムーアの法則が鈍化)
このような背景から、サーバーをはじめとしたデータセンターの機器における消費電力も徐々に増加の傾向にあり、このままでは地球規模での電力枯渇に繋がると懸念する声も上がるほどの状況です。そのため、電力損失の削減、つまり熱となって無駄になってしまう消費される電力を小さくすることがますます重要となります。
データセンターにおける電力効率の代表的な指標としてはPUE(Power Usage Effectiveness) が広く使用されています。PUEは以下の式のように表せられ、この値が小さいほど電力効率が良いことを示します。クラウドサービスを提供する企業各社は、それぞれの技術的なアプローチによりデータセンターのPUEを低く抑える努力をしています。(図4)
引用元:https://sustainablejapan.jp/2017/08/06/pue/27735
引用元:https://www.google.com/about/datacenters/efficiency/
各社の省電力化の取り組みが活発に行われている中で、Google社が2016年に48V直流給電という手法をいち早く導入しました。この手法は広く支持を集め、本日に至るまでデータセンター業界全体での普及に向けて部品や回路の最適化が進められています。
データセンターにおける48V直流給電の現状
48V直流給電の利点
48V直流給電が適用されるのは、AC/DC電源から各演算ボードのDC/DC電源入力までです。例えば、12kWの電力を運ぶ場合、12V,1000Aは48V,250Aと等しくなりますが、配線による電力損失(配電損失=I2R)の観点からは両者には大きな差が生まれます。
仮に配電経路の抵抗を0.1mΩとした場合の配電損失を計算すると、12Vの時は100W、48Vの時は6.25Wという計算になり、16倍の差が出ます。(図5)
この例のようにラック当たりの電力が10kWを超えるようになると、従来の12V直流給電で発生する電力損失は許容できないレベルになると言われおり、48V直流給電化は、データセンターの省電力化に大きな効果があります。
電源構成の選択
48V直流給電を使用すると、その後段のDC/DCコンバータの電源構成も12V直流給電の場合と異なってきます。大別すると、48Vから一つの電源で一気に負荷電圧まで降圧する1段階方式、48Vから中間電圧に一旦落とした後に2段目の電源で負荷電圧に変換する2段階方式があります。(図6)
この1段階方式と2段階方式では、それぞれ以下のメリットとデメリットがあり、サイズ・コスト等の設計要件に応じて選択されます。(表1)
方式 | メリット | デメリット |
---|---|---|
1段階方式 | 電力回路のサイズを小さくできる。 | 回路や部品が十分揃っていない。 =高コスト |
2段階方式 | 豊富な回路・部品の選択肢。=低コスト 既存の12Vサーバーと互換設計も可。 |
電源回路のサイズが大きくなる。 |
この2つの方式のうち、まず主流になると考えられているのは2段階方式です。その理由は、48V導入期においては既存12Vサーバーとの互換性や安定した部品供給が重視されるためです。互換性を実現するもっとも簡単な方法として、小型48V-12V変換ボードを既存12Vサーバボードに後付けする方法があります。
電源効率については、電源が2段階に増えることで、従来のままであれば大幅な悪化となりますが、下記のような工夫で全体効率の維持が取り組まれています。
- ・電源自体の改善 …
- 非安定化出力や共振スイッチング方式等の利用(1段目)や低入力電圧(2段目)による高効率化
- ・電圧・経路の調整 …
- 各電源の配電電圧と経路長の最適化によるトータル配電損失の低減
高性能・高品質バルクコンデンサ(*1)の重要性
このような2段階の電源構成を高信頼・安定動作させるには、1st stageと2nd stageのDC/DCコンバータに最適な部品選定が重要となります。
48V給電の1st stageおよび2nd stageの入出力部それぞれで、適切なパナソニックのコンデンサを下記に示します。(図7, 表2)
箇所 | バルクコンデンサ 定番定格 |
商品 | 設計者の声 |
---|---|---|---|
(1) 1st stage入力 (40-60V) |
47μF ~100μF |
Aluminum
Electrolytic Capacitors |
安価・大容量を支持 (液体電解質による温度特性・容量抜け懸念あり)。 |
OS-CON
|
全固体による温度安定性と長寿命・信頼性を支持 (信頼性重視の場合E-cap使用不可)。 | ||
Hybrid
|
半固体によるE-capとOS-CONの中間の特徴を支持。 | ||
(2) 1st stage出力・ 2nd stage入力 (5-15V) |
100μF ~470μF |
OS-CON
|
大電流変動バックアップや電源平滑に大容量+高リプル電流特性が有効。 |
POSCAP
|
基板背面に実装が必要となる高密度サーバーやアクセラレータカード等の大電流変動バックアップに2㎜の部品高さが有効。 | ||
(3) 2nd stage出力 (<1.xV) |
220μF ~1000μF |
SP-Cap
|
大電流変動バックアップに大容量+低ESR特性が有効。出力の基板表面は面積余裕少ないケースが多く背面実装可能な2㎜の部品高さが有効。 |
POSCAP
|
小型・大容量で高密度サーバーやアクセラレータカード等に最適。 |
パナソニックの導電性高分子コンデンサは、電源安定化に重要なバルクコンデンサ(*1)として有効とされています。
次回は1st stageと2nd stageのDC/DCコンバータの入出力部のそれぞれの箇所で、コンデンサ選定時に考慮するべきポイントをより詳しく解説していきます。
(*1) バルクコンデンサ
電源回路の各箇所で一番大きな容量を有するコンデンサ。より小容量のコンデンサと並列使用されている。
主に入力・出力影響による電流増加・減少の際に電流を供給・吸収し、電圧変動を抑制する役割。