ローパスフィルタにおける低ESRコンデンサの効果と注意点
2018-02-19
近年、電子機器はスイッチング電源を用いることが多くなっています。スイッチング電源は高効率化や小型化への貢献度が高い反面、その動作に起因したスイッチングノイズが大きなノイズ源になることが少なくありません。また、高速のデジタルデバイスも同様に、電源ラインにノイズを伝播させます。これらのノイズは、特にアナログ回路を含む機器や装置の測定精度やS/N比を悪化させる原因になるので対策が必要です。
ローパスフィルタの特性
次に、各フィルタの周波数に対する減衰率の関係を示します。
LCフィルタは二次フィルタなので、カットオフ周波数fcから-40dB/decで減衰します。周波数が高くなってもこの減衰率を維持するのが理想特性ですが、コンデンサの静電容量とESRによるゼロ点fzが発生するため、fz以降は一次進みにより+20dB/decの減衰が追加となり、減衰率は-20dB/decになります。
RCフィルタは一次フィルタですので、fcから-20dB/decで減衰します。同様に、この減衰率を維持するのが理想特性ですが、fz以降は+20dB/decの減衰が追加されるので減衰率は相殺されてしまいます。
fzは、1/(2π×Cout×ESR)で決まるので、どちらのフィルタもコンデンサのESR(等価直列抵抗)が低いほど理想の減衰特性に近づきます。つまり、fzがより高い周波数にシフトし、理想的な減衰率を維持できる周波数領域がより高い周波数まで伸びます。
コンデンサの静電容量を増やした場合、fc、fzがともに低くなります。静電容量を増やしてもノイズの減衰量が思わしくないときは、fzの影響が要因の場合があります。
コンデンサのESRとローパスフィルタの減衰特性
LCおよびRCによるローパスフィルタは、コンデンサのESRが低いほど高い周波数まで高い減衰率が維持されます。実際の特性を、一般のアルミ電解コンデンサと低ESRを特長とする電解コンデンサで示します。
パナソニックには、電解質に導電性高分子材料を採用した以下の低ESR電解コンデンサのラインアップがあります。低ESRを基本にそれぞれ特長を持っていますが、今回はOS-CONを使用しました。
-
アルミポリマー
(積層)業界トップクラスの
超低ESRコンデンサ -
タンタルポリマー小形・大容量の
低ESRコンデンサ -
アルミポリマー
(巻回)高リプル・高耐圧の低ESRコンデンサ
-
アルミハイブリッド高信頼・高耐圧の
低ESRコンデンサ
●コンデンサ
・OS-CON(品番20SEP33M):20VDC、33μF、ESR=37mΩ(実測値)
・アルミ電解コンデンサ:10VDC、33μF、ESR=1410mΩ(実測値)
●LCフィルタでの比較(L=10μH)
●RCフィルタでの比較(R=5.6Ω)
一般のアルミ電解コンデンサと比較してOS-CONのほうが、LCおよびRCのどちらのフィルタにおいても、高い周波領域まで減衰率が大きいことがわかります。なお、これは常温での比較結果ですが、低温下(0°C以下)では一般のアルミ電解コンデンサは極端にESRが増加するので大幅に減衰率が下がります。対してOS-CONは、低温でもESRの変動が少ないので常温時に近い高い減衰率を維持することができます。
低ESRコンデンサのスイッチング電源出力平滑用コンデンサへの
応用と注意点
スイッチング電源の出力には、右の回路例が示すように、出力電圧平滑用にインダクタLとコンデンサCoutによるローパスフィルタを備えています。このCoutは出力リプル電圧を低く抑えるため、ESRが低いことが重要な要件になっています。そのため、先に示した低ESRの導電性高分子電解コンデンサの有効性が高く評価されています。
しかしながら、CoutのESRが低いことに起因して、スイッチング電源の出力が不安定になり、場合によっては発振を起こすことがあるので注意が必要です。
この回路例は、電圧モードのダイオード整流降圧型スイッチング電源の模式図で、出力電圧が制御回路の誤差増幅器に帰還され安定化制御されることを示しています。帰還ループは、適切な位相余裕がないと不安定になることはよく知られていることで、スイッチング電源回路においても同じです。考え方はオペアンプなどを使った増幅回路と同じで、利得と位相特性におけるポールとゼロの関係に因ります。また、例示の変換方式にかかわらず、リニアレギュレータも含めて帰還ループを持つものには、位相余裕に関する検討が必要になる場合があります。
端的には、帰還ループにおいて位相遅れが360°になると発振を起こします。一般的には、40°前後以上の位相余裕がないと制御が不安定になると考えられています。例示した回路の帰還は負帰還であることから、もともと180°の位相遅れを持っています。それにループ内の出力LCフィルタによる位相遅れが追加されるので、LCフィルタの位相遅れが140°(全体の位相遅れ320°)を超えたあたりから動作が不安定になる可能性があります。
LCフィルタの位相に対するESRの影響
LCフィルタの減衰率(利得)とコンデンサのESRの関係は前述の通りですが、ESRは位相遅れに対しても影響を与えます。右の図は、実際のLCフィルタの周波数に対する利得(減衰率)と位相特性を示しています。理想的な利得と位相は、各細かい破線で示されています。
LCフィルタは二次フィルタなので、理想特性としての位相遅れは180°になります。これでは、負帰還のループにLCフィルタを入れた時点で単純に発振してしまいますが、実際にはゼロ点により理想的にはなりません。
位相はカットオフ周波数から遅れが始まり、ゼロ点まで遅れます。ゼロ点からはCoutの容量とESRによる一次進みにより90°遅れになるまで進みます(青の実線)。ここで、ポイントになるのは、ゼロ点における位相遅れです。ゼロ点での位相遅れが、40°前後の位相余裕を確保できる140°を超えるとループは不安定になります。
ゼロ点は、1/(2π×Cout×ESR)で決まります。ESRが低くなればゼロ点周波数が高くなり理想特性に近づくので、その分位相は遅れて180°に近づきます。つまり、位相余裕は少なくなり、最悪は発振を起こしてしまいます。加えて注意しなければならないのは、部品の特性のばらつきや温度変化です。位相余裕がマージナルな場合、常温では問題ないが低温で発振するなどの問題が潜在している可能性があります。
この問題は、帰還ループの位相補償によって対処できます。基本的な考え方や方法は通常の増幅回路の位相補償とほぼ同じですが、トポロジーや制御モードによっては複雑になる場合があります。
スイッチング電源用のICを使う電源回路であれば、多くの電源用ICは位相補償用の端子を備えています。また、IC自体に位相補償回路を搭載し外部補償が不要なタイプもあります。基本的には使う電源ICのデータシートや設計マニュアルに位相補償方法が記されているので、それに則ります。必要な部品は抵抗とコンデンサが数個程度です。
また、電源ICのループ周波数特性を単純に測定することが困難なことから、一般的には負荷過渡応答特性の最適化をもって位相補償を行います。これは負荷装置とオシロスコープがあれば可能で、スタートの標準回路と部品定数も提供されているので現実的で比較的簡単です。もし、周波数特性分析機(FRA)を所有しているなら、実際の周波数特性を測定しながら調整することができます。
まとめ
スイッチング電源や高速ロジックデバイスはノイズ源となり得ることから、ノイズ対策の1つとしてLCフィルタやRCフィルタが使われます。両方共に、使用するコンデンサのESRとフィルタ性能には関連があり、低ESRのコンデンサを使うことで、フィルタの減衰特性を理想に近づけることが可能です。パナソニックの導電性高分子電解コンデンサは、低ESRであることから有効な選択肢になっています。
また、スイッチング電源の出力平滑フィルタのCoutは、リプル電圧低減のためにESRが低いことが必須の要求になっています。これにも低ESRの導電性高分子電解コンデンサが有効なソリューションになりますが、Coutの低ESR化はスイッチング電源の出力を不安定にする可能性があることに注意が必要です。電源の帰還ループの位相補償を行うことで対処が可能で、電源ICを使う電源回路では、多くの場合電源ICに位相補償端子があるので、比較的簡単に調整ができます。この点を踏まえていれば、出力リプル電圧の小さいスイッチング電源設計が可能です。
この記事に関する製品情報
LCフィルタシミュレーター
産業・車載用に適した当社のパワーインダクタとアルミ電解コンデンサでフィルタを構成した場合の減衰量特性がシミュレーションできるコンテンツです。産業・車載用フィルタの部品選定に是非ご活用ください。
LCフィルタシミュレーター »