USB PD(USB Power Delivery)とは?~設計課題と最適なコンデンサ選定~

 

USB PD(USB Power Delivery)とは?
~設計課題と最適なコンデンサ選定~

2024-10-25

前回記事では、USB PD規格の概要と今後の市場拡大の可能性について紹介しました。本記事では、USB PDにおける電源回路設計に注目し、その中で考慮すべきポイントと最適なコンデンサの選定方法について解説します。

USB PD対応における設計課題

ここからは、USB PDにおける電源回路設計に注目し、その中で考慮すべき課題とコンデンサの貢献について説明していきます。USB PDが機能するには、商用電源から各機器への柔軟な給電に対応したAC/DCコンバータと、そこからの受電や他機器への給電に対応したDC/DCコンバータが必要です。それぞれについて見ていきましょう。

図 USB PDのACアダプタ対応例
図 USB PDのACアダプタ対応例

AC/DCコンバータ

USB PDのメリットとして1つのACアダプタを使いまわすことができるということを述べましたが、そのためには給電能力が十分に大きなACアダプタを選ぶことが必要です。

図 USB PDのACアダプタ対応関係
図 USB PDのACアダプタ対応関係

ここで問題となるのが “サイズ” です。給電能力の大きさはACアダプタのサイズに比例し、100WのACアダプタともなると非常に大きく重いものとなります。しかし、この点については、近年解消されてきています。AC/DCコンバータのスイッチング素子にGaN半導体を採用することで小型化ができるようになったからです。GaNを使用した小型ACアダプタ製品は年々増えており、従来製品と比べ50%以上もの小型化を実現した製品も存在します。GaNを使用するとなぜ小型化できるのでしょうか?それは、GaNが従来のSiと比べてスイッチング損失が小さいからです。スイッチング損失が小さいと発熱が小さくなります。また、スイッチング周波数を高くした場合でも従来の発熱レベルに抑えることができます。その結果、放熱部品もしくは受動部品の小型化が可能となり、ACアダプタのサイズを小さくできるのです。この時、導電性コンデンサを使用することでより効果的な小型化が可能となります。詳細はこちらの記事をご参照下さい。

図 AC/DCコンバータにおける出力コンデンサの役割
図 AC/DCコンバータにおける出力コンデンサの役割

DC/DCコンバータ

USB PD対応機器では、ACアダプタから電力を受け取る機器の受電側の電源回路にも変化があります。例えば、従来の充電式コードレス掃除機などは、ACアダプタの出力電圧がバッテリの充電に最適な電圧に固定されていました。しかし、USB PDに対応する場合は前述の通りUSB PD様々な出力電圧のACアダプタが接続されることになります。当然、これらの電圧はバッテリの許容充電電圧と一致していません。そのため、USB PDポートとバッテリの間に新にDC/DCコンバータが追加されることで、機器が受け取る受電電圧※からバッテリが必要とする充電電圧への調整が行われます。

※受電電圧はACアダプタの最大出力電圧とは限らず、機器側のUSB PDコントローラによって選択される。

図 USB PD対応による受電側の電源回路の変化
図 USB PD対応による受電側の電源回路の変化

しかし、ここで一つ懸念点が浮上します。USB PD対応によってDC/DCコンバータの付加が必要となるこのような機器の場合、既定の機器サイズを維持しようとすると、利用できる実装スペースは必ずしも十分ではないことです。また、既にUSB PDに対応している機器においても、従来より大電力のUSB PD EPRを採用する場合に同様の問題が想定されます。

図 USB PD新規への対応と大電力化への対応
図 USB PD新規への対応と大電力化への対応

このような場合、DC/DCコンバータのサイズをできるだけ小さく抑えることが好まれるソリューションとなります。小型化につながる最適なコンデンサを選定するために、まずUSB PDに使用されているDC/DCコンバータの動作とコンデンサの関係について見てみましょう。

  1. スイッチングリプル電流
    DC/DCコンバータを使用すると、そのスイッチング動作によってその入出力でリプル電流が発生します。このリプル電流は、周辺回路に伝播しないようにDC/DCの近傍で吸収する必要があります。このリプル電流を吸収(平滑)する役割をコンデンサが担います。
  2. 負荷変動電流
    また、リプル電流以外にも発生する電流変動があります。それはDC/DC前後の回路に起因するものです。DC/DCの後のシステム回路では用途によっては動作負荷の変化により大きな電流変動が発生します。この変動が高速な場合、DC/DCやバッテリからの電流供給が追随できません。この時に必要な電流をバックアップする役割をコンデンサが担います。また、USB ポートから外部機器へ給電する場合も、同様の理由で瞬間的にコンデンサからのバックアップが求められる場合があります。
図 DC/DCコンバータ前後の回路で発生する電流変動
図 DC/DCコンバータ前後の回路で発生する電流変動
図 DC/DCコンバータ前後の回路で発生する電流変動

では、これらの電流変動に対して小型設計を達成できる最適なコンデンサはどのようなものでしょうか。
リプル電流平滑の目的においては、MLCCが一般的な選択肢です。DC/DCコンバータのスイッチングは数百k~数MHzで発生するため、この領域でインピーダンス・ESRが小さく、小型で許容電流の大きなMLCCが有効となります。但し、軽負荷時のDC/DCコンバータの間欠動作など、可聴領域の低周波で大きなリプル電流が流れることで、音鳴きが発生する場合があることに注意が必要です。音鳴きはMLCC特有の逆圧電効果による伸縮で基板が振動することで発生します。音鳴きを抑制する必要がある場合は、音鳴きが発生しない導電性コンデンサと音鳴きの起こりにくい小型MLCCを組み合わせるなどの対策があります。

図 コンデンサの種類による鳴きの有無
図 コンデンサの種類による鳴きの有無

電流バックアップの目的においては、導電性コンデンサの使用が一般的です。負荷変動電流はスイッチングリプル電流よりも低周波で発生し振幅が大きいため、大容量のコンデンサが必要となるためです。MLCCは定格だけを見ると小型大容量の製品が存在しますが、印可電圧によって容量が大幅に減少するバイアス特性があるため、実際においては多くの員数が必要となり、面積を消費します。また、員数を最適化しようとすると、この特性変化に対する十分な検証が必要です。一方で、導電性コンデンサの場合、容量は印可電圧によって変化せず、安定した大容量を得ることができます。その結果、少ない労力で小型化を実現できるソリューションとなります。

図 導電性コンデンサによる小型化
図 導電性コンデンサによる小型化
図 導電性コンデンサによる小型化

では、導電性コンデンサの中でも特に小型化に最適な製品はどのようなものでしょうか。
導電性コンデンサは、形状に着目した場合、缶タイプとモールドタイプの製品が存在しますが、できるだけ小型化が必要な場合には、モールドタイプの製品が最適です。缶タイプのコンデンサは最も背の低い製品で高さ6~5mm(定格による)となっておりラインナップも限られています。一方でモールドタイプの場合は高さ4mm以下の小型大容量のラインナップが充実しています。高さ2mm以下の製品も一般的であるため、基板両面への実装も可能であり、缶タイプと比べ高い容量密度を得ることができます。

図 モールドタイプの導電性コンデンサのメリット
図 モールドタイプの導電性コンデンサのメリット

また、導電性コンデンサは、誘電体材料に着目した場合は、アルミタイプとタンタルタイプの製品が存在します。これも小型化に関係する要素のひとつであり、タンタルタイプの方が比誘電率が高く、多くの場合において小型大容量に優れています。パナソニック インダストリーが販売する導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ(POSCAP)は、モールド形状とタンタル誘電体を使用することで、小型大容量を実現しているコンデンサです。POSCAPは、タンタル粉末の微細化や構造の改善により、容量密度の向上を続けており、35V定格のコンデンサにおいて大容量化した製品を拡充しました(35TQT56M35TQS68ME2)。これらの製品は導入が開始されたUSB PD EPR 28Vアプリケーションにおいて、実装面積課題の解決に貢献します。

図 POSCAPの容量密度の進化
図 POSCAPの容量密度の進化

ICメーカーのリファレンスボード採用事例

パナソニック インダストリーの導電性コンデンサPOSCAPとOS-CONは、アナログICのリーディングカンパニーであるTexas instruments様のUSB PD向けDC/DCコンバータのリファレンスボードにご採用頂いています。

① 24-VIN, 240-W, 98% efficient, compact 5S battery charger with USB On-The-Go (OTG) reference design(PMP22805 reference design | TI.com
【概略仕様】
入力5~24V、出力15~21 V 10 A (240W)
【電源IC】
BQ25731 (USB Type-C PD サポート、I2C、1 ~ 5 セル、NVDC 昇降圧バッテリ充電コントローラ)
【用途】
バッテリ駆動の各種機器、電動工具、パワーバンクなど
【採用コンデンサ】
パナソニック製導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ(POSCAP)
25TQC68MYF (25V, 68uF, 70mΩ, 7.3x4.3xH2.8mm)
25TQC15MYFD (25V, 15uF, 90mΩ, 7.3x4.3xH1.9mm)
② BQ25756 evaluation module for 1- to 14-cell bidirectional buck-boost battery charge controller(BQ25756EVM Evaluation board | TI.com
【概略仕様】
入力4.2~55V、出力3.3~55V 10 A (400W)
【電源IC】
BQ25756 (MPPT機能搭載、スタンドアロンまたは I²C 制御、70V、双方向、昇降圧充電コントローラ)
【用途】
電動工具、パワーバンク、eバイク、コードレス掃除機、掃除ロボット、ソーラ―チャージャ、他USB PD EPRアプリケーション
【採用コンデンサ】
パナソニック製導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ(OS-CON)
80SXV56M (80V, 68uF, 28mΩ, φ10xH12.6mm)

また、USB PD向けAC/DCコンバータのリファレンスボードにもパナソニック インダストリーの導電性コンデンサは採用されています。こちらをご参照ください。

まとめ

このように、パナソニック インダストリーはUSB PDに有用な導電性コンデンサを数多くラインナップしています。今後USB PD活用がますます広がっていく中で、市場のニーズに応じた商品を拡充していくことで、USB PD採用アプリケーションの小型化や利便性向上を後押しして行きます。
パナソニック インダストリーの導電性コンデンサラインアップ
パナソニック インダストリーの導電性コンデンサラインアップ

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