USB PD(USB Power Delivery)とは?
~概要と市場展望~
2024-9-25
近年様々な機器で活用が広まっているUSB Power Delivery(USB PD)は、USB規格をベースとし、その進化の過程で生まれた電力給電の規格です。この記事では、USB PD規格の概要と今後の市場拡大の可能性について解説します。
USBとUSB PD規格の概要
高い給電能力を有するUSB PDは、高速データ転送が可能なUSBインタフェースの上で機能することで、高い汎用性を発揮しています。発展の経緯を踏まえながらその概要について見てみましょう。
転送速度・コネクタ
まず、USB PDのベースとなるUSBについて簡単におさらいします。USB(Universal Serial Bus)規格は、コンピュータと周辺機器をつなぐための汎用インタフェースとして1996年に登場し、その後現在に至るまで広く普及を続けています。USB規格は、定期的に改訂が行われ、データ転送速度が高速化されることでより便利なものとなっていきました。例えば、PCから外付けストレージへのUSB経由のデータ読み書きは、転送速度最大5GbpsのUSB 3.0になってからはそれ以前と比べてストレスなく行えるようになりました。そして最新改定のUSB 4では、最大40Gbpsとなり、USB外付けGPUが登場するほど高速になりました。また、一方でUSBコネクタ形状の改善も定期的に行われていきました。特に大きな進化となったのは2014年に規定されたUSB Type-Cコネクタです。対称形状で使いやすく小型でありながら、先々の性能進化に対応したことで、幅広い用途での共通化が可能となりました。USBコネクタ形状のシェアとしては、現在はType-Aが最も広く使用されていますが、徐々にType-Cへ置き換わっていくことが予想されます。
世代名称 | 策定年 | 最大転送速度 | コネクタ形状 |
---|---|---|---|
USB 1.0-1.1 | 1996~ | 12Mbps | Type A, B |
USB 2.0 | 2000~ | 480Mbps | Type A, B |
USB 3.0 USB 3.1 USB 3.2 |
2008~ 2013~ 2017~ |
5Gbps 10Gbps 20Gbps |
Type A, B Type A, C Type C |
USB 4 | 2019~ | 40Gbps | Type C |

給電能力
また、USBは登場当初から接続された機器に対して電力供給も行うことができました。その能力はUSB 1.0では2.5W、USB 3.0では4.5Wと大きくなっていきました。その後さらに大きな給電能力が求められた結果、電力給電のオプション規格として2010年にUSB BC (Battery Charging)規格が登場し7.5W、そして2012年にはUSB PD(Power Delivery)規格が登場し最大100Wに引き上げられました。但し、2012年当時のUSB PDでは特殊なUSB Type-A・Type-Bコネクタを必要としたため、USB PDの一般的な利用対象となったのは2014年に登場したUSB Type-Cコネクタです。USB PDの利用により、例えば、電力の比較的大きなノートPCにも給電できるモニターが登場し、電源接続の一本化により利便性が向上しました。

そして2021年になると、USB PD規格が改定(USB PD 3.1)され最大給電能力は240Wとなりました。この電力拡張はUSB PD EPR(Extended Power Range)と命名され、従来の最大100W規格はUSB PD SPR(Standard Power Range)として区別されるようになりました。SPRとEPRが対応する一般的な電力・電圧・電流のプロファイルは下表のとおりです。SPRでは最大20Vが使用されてきましたが、EPRでは、大電力供給のためにより高い電圧(28~48V)での動作が追加されました。

注:USB Type-C ≠ USB PD対応
大電力給電ができ便利なUSB PDですが、対応しているUSB Type-Cポートは一部に限られていることは覚えておく必要があります。そのためUSB PDを期待して機器を購入する場合は仕様表での事前確認が必要です。見た目で判別する場合は、Type-Cポート近くのシンボルを確認します。USB規格の管理団体USB-IFが規定するUSB PD対応マークは電池を模したシンボルとなっています。 ![]() ※USB PD対応を示すのは電池のシンボルのみ。それ以外の表記は対応するVer.や通信速度によって変化。 |
USB PDの市場展望
USB PDの市場は今後大きく広がっていくことが見込まれています。そこには主に2つの要因があります。
USB PD EPR規格の登場
EPR規格の登場以前からUSB PDは、私たちがよく使用するスマホ、タブレット、PCへの給電に一般的に使われるようになってきていました。また、これらのデバイスのI/O拡張を担う周辺機器であるドッキングステーションにも使用され、最大100Wの給電能力によって複数のデバイスに同時給電するなど、非常に便利な使い方が可能となっていました。今後は、EPR規格による最大240Wの給電能力によって、更にハイエンドなゲーミングノートPC、モニター、ドッキングステーションなどがUSB PDに対応し、利便性の拡大が期待されています。またEPR規格がもたらす新たな用途として、これまで電力不足で対応できなかった高出力の電動機器・電熱機器での採用が見込まれています。例えば、電動工具、コードレス掃除機、E-モビリティ、ヘアドライヤーなどの製品です。

環境負荷の低減
また、USB PDは環境負荷低減の面からも採用が広がろうとしています。従来のUSB PD非対応機器ではそれぞれの機器ごとに専用ACアダプタが必要でした。一方、USB PD対応機器では一つのACアダプタを複数機器で使いまわすことができます。そのため、対応機器が増えるほど資源節約の面で環境負荷低減効果が大きくなるのです。実際に、最近販売されているUSB PD対応機器では、ACアダプタが標準付属品として含まれていないことも多くなりました。

この動きを国レベルで後押しする動きも出てきています。欧州連合(EU)は2022年10月に携帯型電子機器においてUSB PD対応USB Type-Cコネクタを採用することを義務付ける指令“Common Charger Directive”を制定しました。この義務化は、早いものでは2024年末から適用が開始され、EU圏内で販売される電子機器が対象となりますが、多くの電子機器は世界共通仕様で設計されるため、USB PDの採用が世界的に加速することが見込まれます。なお、インドにおいては欧州と凡そ同様の義務化が適用されることがすでに合意されています。


以上のように、今回はマーケティング的な視点で、USB PD規格の概要と今後の市場拡大の可能性についてご紹介しました。 次回は回路設計の視点で、USB PDにおける電源設計に注目し、その中で考慮すべきポイントと最適なコンデンサの選定について解説していきます。