LCフィルタの種類とローパスフィルタにおける部品選定事例

 

LCフィルタの種類とローパスフィルタにおける部品選定事例

2018-07-23

LCフィルタとは、インダクタ(L)とコンデンサ(C)を組み合わせて、電気信号の特定の周波数帯域をカットしたり通過させたりする回路のことを言います。
コンデンサは、直流電流は遮断し交流の周波数が高いほど通しやすくなるという性質があります。それに対してインダクタは、直流電流はそのまま通過させ交流の周波数が高いほど通しにくくなるという性質があります。
このように、コンデンサとインダクタは全く逆の性質をもった受動部品ですが、この逆の性質をもった部品を組み合わせることで、ノイズをカットしたり特定の信号を抽出したりすることができます。

LCフィルタの種類

LCフィルタを大別すると3種類になります。

① ローパスフィルタ(LPF)

直流や低周波の信号を通過させ、高周波の信号をカットするフィルタ回路です。
最も広く使われるフィルタ回路であり、主に高周波ノイズのカットに使用されます。
またオーディオでは低音用スピーカーの高音/中音成分カットに使用されます。

② ハイパスフィルタ(HPF)

直流や低周波の信号をカットし、高周波の信号を通過させるフィルタ回路です。
可聴域の低周波ノイズのカットや高音用スピーカーの中音/低音成分カットなどに使用されます。

③ バンドパスフィルタ(BPF)

特定の周波数の信号のみ通過させ、それ以外の周波数の信号をカットするフィルタ回路です。
ラジオの選局(周波数合せ)や中音用スピーカーの低音/高音成分カットなどに使用されます。

ローパスフィルタの種類

コンデンサとインダクタは、それぞれ単独でもノイズ除去効果がありますが、2つの部品を組み合わせることで、大きなノイズ除去効果が得られます。直列接続したインダクタは高周波ノイズを遮断し、並列接続されたコンデンサで高周波ノイズをバイパスさせるように働きます。
しかし、入力側と出力側のそれぞれの外部インピーダンスの高低によってもノイズ除去効果は変わります。例えば低インピーダンスのコンデンサでノイズをバイパスしようとしても、出力インピーダンスがそれ以上に低ければ、ノイズは負荷側に流れてしまいます。また逆に、高インピーダンスのインダクタでノイズを遮断しようとしても、出力インピーダンスがそれ以上に高ければ、ノイズは負荷側に流れてしまいます。そのため、外部インピーダンスが高い場合はコンデンサを近傍に配置し、外部インピーダンスが低い場合はインダクタを近傍に配置します。
このように、外部インピーダンスを考慮して、ローパスフィルタは以下の4種類を使い分けます。

① L形フィルタ(1)

入力インピーダンス ⇒ 高
出力インピーダンス ⇒ 低 の場合

② L形フィルタ(2)

入力インピーダンス ⇒ 低
出力インピーダンス ⇒ 高 の場合

③ π形フィルタ

入力インピーダンス ⇒ 高
出力インピーダンス ⇒ 高 の場合

④ T形フィルタ

入力インピーダンス ⇒ 低
出力インピーダンス ⇒ 低 の場合

但し、L形よりもπ形・T形のノイズ除去効果が大きいので、そのことも考慮して回路の選定を行います。

ローパスフィルタにおける部品選定

信号回路において信号波形からノイズを除去しようとする場合は、信号の周波数では減衰せずノイズの周波数で減衰が大きくなる部品定数を選定する必要があります。 電源回路において直流電圧からノイズを除去しようとする場合は、直流の減衰はゼロなので、ノイズの周波数の減衰量だけを考えます。

フィルタの減衰特性(周波数による減衰量の変化)は計算で求めることができますが、実際のコンデンサとインダクタには、純粋な静電容量やインダクタンス以外に性能を左右する成分が含まれるため、単純には計算できません。

L型フィルタにおいて、コンデンサとインダクタの実際の等価回路に基づく回路図を示します。
コンデンサには静電容量(C)の他に等価直列抵抗(ESR)と等価直列インダクタンス(ESL)を含んでおり、インダクタにはインダクタンス(L)の他に直流抵抗(DCR)と寄生容量(Cp)を含んでいます。

コンデンサがC成分だけなら、周波数が高くなるほどインピーダンスが低くなりノイズ吸収効果が大きくなりますが、実際のコンデンサではESRによってインピーダンスの下限値が決まってしまい、更に高周波域ではESLによってインピーダンスが高くなりノイズを吸収しにくくなります。
また、インダクタンスがL成分だけなら、周波数が高くなるほどインピーダンスが高くなりノイズ遮断効果が大きくなりますが、実際にはインダクタに含まれるCpによって高周波域ではインピーダンスが低下し、ノイズの遮断効果が低下します。
更に、それぞれの成分も周波数によって値が変化するので、これらの要因を全て考慮して部品選定することはかなり難しくなります。

そのため、LCフィルタではシミュレーションツールを使用して部品選定する方法がよく用いられます。
一般的にシミュレーションツールでは、部品の品番別に提供されているSパラメーターやSPICEモデルを用いて、周波数毎の正確な減衰量を算出できます。

シミュレーションツールを用いた部品選定事例

当社がWeb公開している「産業・車載用LCフィルタ シミュレーター」を用いて、車載ECUからラジオノイズを流出させないことを目的としたLCフィルタの部品選定事例を紹介します。

ラジオノイズにはAM帯(1MHz付近)とFM帯(80MHz付近)があり、この2つの周波数帯域での減衰量が-60dB以上を満足する部品を選定します。
なお、前提条件として入力/出力インピーダンスは50Ωとします。

・ターゲット周波数 :1MHz, 80MHz
・ターゲット減衰量 :-60dB
・入力/出力インピーダンス :50Ω

1) 回路を選択

L形、π形、T形の中から選択します。
今回はπ型を選択し、入力/出力インピーダンスを50Ωに設定します。

2) 部品を選択

登録されている部品の中から任意のコンデンサ品番とインダクタ品番を選択します。
今回は①100μFのコンデンサと10μHのインダクタ、②10μFのコンデンサと1μHのインダクタの2条件でシミュレーションしました。

選定①
(100μF)
部品構成①
回路番号 品番
C11 EEHZA1H101P
(10μH)
部品構成②
回路番号 品番
L21 ETQP5M100YFM
(100μF)
部品構成③
回路番号 品番
C31 EEHZA1H101P
選定②
(10μF)
部品構成①
回路番号 品番
C11 EEHZA1J100P
(1μH)
部品構成②
回路番号 品番
L21 ETQP3M1R0KVP
(10μF)
部品構成③
回路番号 品番
C31 EEHZA1J100P

3) シミュレーション結果

シミュレーションの結果、目標値を満足したのは選定②の組合せでした。 実際には回路や部品の様々な組み合わせをシミュレーションし、最適な部品を選定します。

今回のシミュレーションでは、C値とL値が大きい組合せよりもC値とL値が小さい組合せのほうが目標値を満足する結果となりました。これは高周波域でコンデンサのESLとインダクタのCpの影響が大きく表れたことによります。
低周波域(概ね0.1MHz以下)ではESLやCpの影響は小さく、ほぼC値とL値だけで減衰量が決まるため、C値やL値が大きい①の減衰量が大きくなります。しかし、FM帯(80MHz)のような高周波域ではESLやCpの値が大きい①の減衰量が小さくなるため、減衰量が逆転しました。
(同一仕様の部品であれば、C値が大きいものがESLも大きく、またL値が大きいものがCpも大きくなります)

このように、LCフィルタの設計においては、コンデンサのESLやインダクタのCpを考慮した部品選定をしなければ、予測と違う結果になるので注意が必要です。

この記事に関する製品情報

LCフィルタシミュレーター

産業・車載用に適した当社のパワーインダクタとアルミ電解コンデンサでフィルタを構成した場合の減衰量特性がシミュレーションできるコンテンツです。産業・車載用フィルタの部品選定に是非ご活用ください。

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