電気自動車におけるインバータとは? ~高効率で走行用モータへ電力供給が可能なDC/AC変換機器~

 

電気自動車におけるインバータとは?
~高効率で走行用モータへ電力供給が可能なDC/AC変換機器~

2023-08-09

インバータとは、バッテリーから供給される直流(DC)を交流(AC)に変換する装置です。電気自動車のモータはこの交流によって動き、車輪を駆動します。電気自動車全体のエネルギー効率を向上させるためには、インバータのエネルギー損失を最小限に抑えなければなりません。本記事では、インバータの機能とシステム構成について解説し、インバータを構成している電子部品についてもご紹介します。

インバータとは?

インバータの概要

電気自動車におけるインバータとは、バッテリーから供給される直流電力(DC)を交流電力(AC)へ変換する装置です。これは、電気自動車に搭載されているトラクションモータの多くは交流で動くためです。モータの出力(30kW~400kWほど)に合わせてインバータの出力を設定します。

インバータの概要

通常、車に搭載されているインバータの数は1~2個程度です。ただし、インホイールモータ式(タイヤごとに1つのモータで駆動する方式)の場合は、それぞれのモータに対してインバータが必要になります。

モータの種類について

モータは、主にブラシモータとブラシレスモータの2つに分類ができます。ブラシモータは小型機器向けで、直流電圧で動くことから比較的制御が簡単です。ブラシレスモータは、エネルギー効率を重視し、細かな回転数(速度)調整が必要な場合に適しており、走行用のトラクションモータなど向けで使用され、交流で動く事から直流から交流へ変換するインバータが必要不可欠です。

表1 ブラシモータとブラシレスモータの特徴
モータ種類 特徴 供給電力、制御
ブラシモータ
  • 低価格
  • 小型機器向け (ドアミラー等)
  • 回転数(速度)調整は不向き
  • ノイズが大きい
DC電圧等を直接供給
制御回路はなし or 簡易
ブラシレスモータ
  • 高価格
  • 大型機器向け (走行用、パワーウインドウ等)
  • 回転数(速度)調整は可能
  • ノイズが小さい
DCからACへ変換し供給
⇒インバータが必要となる
制御回路はインバータで行う

市場と機器のトレンドについて

電気自動車の車両台数の増加に伴い、搭載されるインバータも増加していくでしょう。また、走行性能向上のトレンドに沿ってモータは高出力化していくことから、インバータも高出力化(高電力)が必要となっていきます。インバータを構成する電子部品にこれから求められる機能・性能として、「高電力化」「高耐熱化」「小型化/軽量化」が挙げられます。それぞれの要件は以下の通りです。

  • 高電力化
    モータの高出力化に対応するためには、インバータも高出力化(高電力)が必要です。高電力化とは、高電圧化(現状400Vから今後800V等へ)と大電流化によることから、インバータを構成する半導体なども高電力化への対応が要求されます。
  • 高耐熱化
    電子部品の小型化が進むにつれ、単位面積当たりの熱が増加します。熱への耐性を持たせることで、部品自体が発する熱や、周囲の部品から受ける熱による劣化を防げます。
  • 小型化/軽量化
    高電力化などにより機器が大型化し重量も増加すると、航続距離へ影響する事から、高電力化に対応しながら、合わせて小型化/軽量化を行う必要があります。

インバータの回路構成について

全体構成

インバータは下記回路によって構成されます。

  • ノイズフィルタ:外部から又は当回路からのノイズを抑制する
  • 電圧計測:変換回路の制御のために電圧計測する
  • 電圧変換回路:FET等によるスイッチングにて、電圧を変換する
  • 電流計測:変換回路の制御のために電流計測する
  • 制御回路:変換回路等を制御
  • DC/DCコンバータ:制御回路向けの電源供給
  • コミュニケーションIF:外部との通信回路
図1 インバータの全体構成
図1 インバータの全体構成

個別回路および構成部品

ノイズフィルタ

ノイズフィルタ回路では、外部から又は当回路からのノイズを抑制し、回路の誤動作を防止します。
フィルタは大型のインダクタと、フィルムコンデンサを組み合わせて用いるのが一般的です。

【使用される部品】

ノイズ除去 ―― 自動車用・産業インフラ用フィルムコンデンサ

POINT
  1. ❶ 高信頼性 : 高耐湿性と高耐熱衝撃性を実現し、AEC-Q200に準拠
  2. ❷ 高安全性 : 保安機構(ヒューズ)により高い安全性を確保 (故障モードがオープン)

電圧計測

電圧計測の回路では、電圧変換回路の制御を行う為に入力の電圧を計測します。
計測は複数の抵抗を接続して抵抗の両端電圧を測定するのが一般的です。

【使用される部品】

電圧計測 ―― チップ抵抗器 (高精度チップ抵抗器)

POINT
  1. ❶ 薄膜構造での抵抗値公差、低TCR性能により、回路の出力特性の高精度制御化に貢献

電圧変換回路

電圧変換回路では、複数のスイッチング素子によって電圧の変換を行います。
スイッチング時の入力電圧変動がノイズとなるため、大型のフィルムコンデンサを用いてノイズ抑制と平滑化を行います。また車両停止後に大型のフィルムコンデンサに蓄積されたエネルギーを放電しなければ誤動作が発生する可能性があるため、抵抗器を接続して放電するのが一般的です。
スイッチング素子をOn/Offさせることで変換動作を行いますが、素子のOn/Offの際にノイズが発生するため、素子ゲート端子に抵抗器を用い駆動ノイズを抑制します。
また高電力の動作により、スイッチング素子等が高温状態となり、規定以上に発熱した場合の故障防止のために、NTCサーミスタを用いて温度計測するのが一般的です。

【使用される部品】

ノイズ抑制、電圧平滑化 ―― 自動車用・産業インフラ用フィルムコンデンサ

POINT
  1. ❶ 高安全性 : 保安機構(ヒューズ)により高い安全性を確保 (故障モードがオープン)
  2. ❷ 小型化 : 高耐圧PPフィルム採用によるフィルムの薄膜化により小型化を追求
  3. ➌ 高出力化 : 独自の蒸着応用技術による自己発熱低減(低ESR化)でインバータの高出力化に対応

スイッチング素子ゲート駆動ノイズ抑制、フィルムコンデンサの放電 ―― チップ抵抗器 (小形高電力チップ抵抗器)

POINT
  1. ❶ 独自の抵抗パターン、電極構造などにより小型高電力化を実現し、回路の小型化に貢献

スイッチング素子等の温度計測 ―― NTCサーミスタ(チップ形)

POINT
  1. ❶ 小型、高耐熱かつ独自の外電形成技術により高信頼性により、回路の温度補償の高精度化に貢献

DC/DCコンバータ

DC/DCコンバータ回路では、入力部のノイズ除去と出力部の平滑には導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ、電圧変換には車載用パワーインダクタを用いるのが一般的です。

【使用される部品】

ノイズ除去、スイッチング・平滑 ―― 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ

POINT
  1. ❶ 大容量&低ESR&高リプル性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 容量特性の高周波対応により、回路の高周波スイッチング化で発生するノイズの広帯域&高周波除去に貢献

電圧変換 ―― 車載用パワーインダクタ

POINT
  1. ❶ 金属磁性材での低損失&大電流性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 損失特性の高周波化(低ACR)により、回路の高周波スイッチング化における損失抑制に貢献

コミュニケーション I/F

コミュニケーションI/F(通信)回路では、2本の線を使って外部機器と通信します(CAN、Ethernetなど)。このとき、通信線からノイズや静電気が混入すると、トランシーバーICが故障する恐れがあります。
そのため、トランシーバー回路には静電気対策用としてチップバリスタで構成するのが一般的です。

【使用される部品】

ESDノイズ除去 ―― チップバリスタ

POINT
  1. ❶ 幅広い容量特性ラインナップにより、回路の通信品質を維持しながら静電気(ESD)ノイズの抑制に貢献
  2. ❷ チップバリスタは、8~250pFの容量特性により、低速から高速の通信速度に対応

まとめ

インバータは、バッテリーから供給される直流電力を、交流電力へ変換する役割があります。今後、電気自動車の生産台数増加に伴い、インバータの搭載数も増加すると考えられます。インバータには高出力化が求められ、それに加えて小型化も目指す必要があります。インバータを構成する電子部品についても「高電力化」「高耐熱化」「小型化/軽量化」に対応していかなければなりません。パナソニックインダストリーでは、インバータ向けに幅広い商品ラインアップを取りそろえています(表2)。

表2 商品ラインアップと特長一覧
部品 特長 高電圧 大電流 低損失 小型化 高耐熱 高精度
自動車用・産業インフラ用フィルムコンデンサ 高信頼性
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ 低ESR
高信頼性
車載用パワーインダクタ 大電流、低損失
高信頼性
高精度、高耐熱
チップバリスタ 小形・軽量化
NTCサーミスタ(チップ形) 小形、高耐熱

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