ADAS/ADシステムに使用するRadarとは?

 

ADAS/ADシステムに使用するRadarとは?
~無線電波を利用して自動運転を支援~

2023-06-23

ADAS(先進運転支援システム)やAD(自動運転)システムに欠かせないセンシング技術のひとつに、Radar(レーダー)があります。Radarは、電波によって車両周辺にある物体や障害物を検知する技術です。本記事では、ADAS/ADシステムに使用するRadarについて解説し、Radarシステムを構成している電子部品のラインアップについてもご紹介します。

ADAS/ADシステムに使用するRadarとは?

ADASやADは、運転者の安全運転を支援したり、負担を軽減したりするシステムです。Radarはその技術のひとつで、ミリ波帯の電波を利用して対象物との距離を計測し、周囲のセンシングに利用されます。車載Radarでは主に24GHz、77GHz、79GHzの周波数帯を使用していますが、今後は検知分解能向上に向けて79GHz帯のRadarが増加すると予測されています。

ADAS/ADシステムでは、Radar以外にもカメラやLiDAR(Light Detection and Ranging)といった技術が用いられます。これらのセンサー情報を統合することで、より正確に周囲環境を認識し、安全運転をアシストします。特性の異なるセンサーを組み合わせることで、それぞれの不得意な環境下での性能低下を補完する事が可能となり、多様な環境条件に対応したシステム全体の性能向上に貢献します。

例えば、カメラは色や形状を認識する能力に優れていますが、遠距離の対象物や悪天候下での検知能力に限界があります。LiDARは高い解像度で物体の3D形状を捉えられますが、悪天候下では検知性能が低下します。一方、Radarは悪天候下でも対象物を検知できますが、形状や色の情報までは取得できません。このように、Radarは他のセンシング技術と組み合わせて使用するのが一般的です。

計測と物体認識の方法

Radarの計測と物体認識の仕組みは以下のとおりです。

<距離計測>
電波を目的に向かって発信(放射)し、物体からの反射波を受信することで距離計測を行います。電波の発信から受信までの時間を計測し、物体との距離を算出します。

<物体認識>
電波発信時の座標と、距離計測結果を利用して物体を認識します。このとき点群画像化を行い、物体の形状や位置を特定します。ただし、Radarの解像度は比較的低いため、物体の種類(人、車、建物など)の判定はできません。より詳細に物体を認識させたい場合には、周波数を高くして解像度を向上させるとよいでしょう。

市場と機器のトレンドについて

自動運転車の台数増加と自動運転レベルの向上、自動ブレーキの義務化などにより、Radar搭載数の増加が予想されています。ミリ波の周波数を高くすると、Radarの物体認識の精度(解像度)が向上しますが、データ処理量の増加には注意しなければなりません。今後のRadarを構成する電子部品に求められる機能・性能として、「高電力化」「高耐熱化」「小型化/軽量化」が挙げられます。それぞれの要件は以下の通りです。

●高電力化
高解像度化によりデータの処理量が増加すれば、メインCPUといった半導体の消費電力も増加するため、高電力化が必要不可欠です。

●高耐熱化
電子部品の小型化が進むにつれ、単位面積あたりの熱が増加します。熱による耐性を持たせることで、部品自体が発する熱や、周囲の部品から受ける熱による劣化を防げます。

●小型化/軽量化
上記のような課題に加え、電子部品のサイズダウンを図る必要があります。

Radarシステムの回路構成について

全体構成

Radarシステムは下記部品によって構成されます。図1にシステム構成を示します。

  • 高周波無線回路:無線ミリ波の送受信を行う
  • アンテナ:電波の送受信に使用する。送信側はパワーアンプを使用して、信号を増幅するのが一般的
  • MCU(マイコン):制御指示を、外部のECUに与える
  • トランシーバー:外部と通信するためのデバイスまたは回路(CAN通信)
  • DC/DCコンバータ:バッテリーからの電圧を、電子部品や回路ごとに必要な電圧へと変換する
図1 Radarシステムの全体構成
図1 Radarシステムの全体構成

個別回路および構成部品

DC/DCコンバータ

DC/DCコンバータ回路では、入力部のノイズ除去と、出力部の平滑には導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ、電圧変換には車載用パワーインダクタ、電圧計測にはチップ抵抗(高精度チップ抵抗器)を用いるのが一般的です。

【使用される部品】

ノイズ除去、スイッチング・平滑 ―― 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ

POINT
  1. ❶ 大容量&低ESR&高リプル性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 容量特性の高周波対応により、回路の高周波スイッチング化で発生するノイズの広帯域&高周波除去に貢献

電圧変換 ―― 車載用パワーインダクタ

POINT
  1. ❶ 金属磁性材での低損失&大電流性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 損失特性の高周波化(低ACR)により、回路の高周波スイッチング化における損失抑制に貢献

電圧計測 ―― チップ抵抗器 (高精度チップ抵抗器)

POINT
  1. ❶ 薄膜構造での抵抗値公差、低TCR性能により、回路の出力特性の高精度制御化に貢献
図2 DC/DCコンバータで使用される部品
図2 DC/DCコンバータで使用される部品

トランシーバー I/F

図3に示すように、トランシーバー回路では、2本の線を使って外部の機器と通信します(CAN、Ethernetなど)。ここで注意しなければならないのが静電気とノイズです。通信線から静電気やノイズが混入すると、最悪の場合は電子部品の故障につながるためです。静電気対策用としてESDサプレッサ、ノイズ対策用としてコモンモードノイズフィルタで構成するのが一般的です。

【使用される部品】

静電気対策 ―― チップバリスタESDサプレッサ

POINT
  1. ❶ 幅広い容量特性ラインナップにより、回路の通信品質を維持しながら静電気(ESD)ノイズの抑制に貢献
  2. ❷ チップバリスタは、8~250pFの容量特性により、低速から高速の通信速度に対応
  3. ❸ ESDサプレッサは、0.1pFの容量特性により、高速の通信速度に対応
図3 トランシーバーIFで使用される部品
図3 トランシーバーIFで使用される部品

まとめ

Radarは物体を認識したり、対象物までの距離を計測したりする重要なシステムです。自動運転車の増加と自動運転レベルの向上に伴い、今後ますますRadarの搭載数は増加していくでしょう。

Radarの物体認識精度を向上させるためには、ミリ波の周波数を大きくして、解像度を上げる必要があります。それにはデータの処理量の増加による、電子部品の損失増加に注意しなければなりません。今後、車載電子部品には「大電流」「低損失」「高周波」「小型」といったことがより求められるでしょう。パナソニックインダストリーでは、Radar向けに幅広い商品ラインアップを取りそろえています(表1)。

表1 商品ラインアップと特長一覧
部品 特長 大電流 低損失 高周波 小型化 高精度
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ 低ESR
高信頼性
車載用パワーインダクタ 大電流、低損失
高信頼性
チップ抵抗(高精度チップ抵抗器) 高精度、高耐熱
チップバリスタ 小形・軽量化
ESDサプレッサ 低静電容量
超高速データ I/F

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