ESCとは?~車両のスキッドを防いで運転時の安定性を向上させる技術~

 

ESC(Electronic Stability Control)は、自動車の操縦安定性を高めるための技術です。車輪がスキッド(回転が止まったまま路面を滑ること)するのを防ぎ、ドライバーが意図した方向に車を保つようにアシストをします。この働きによって、カーブや滑りやすい道路での車両の安定性が向上し、事故リスクを低減します。本記事では、ESCの機能とシステム構成について解説し、構成している電子部品についてもご紹介します。

ESCとは?

ESCの概要

ESCとは、ABS(Anti-lock Braking System)、TCS(Traction Control System)、ヨー制御(Yaw control)の3つを組み合わせた技術です。姿勢安定、滑り防止、ブレーキアシストの機能を集約することで、車両の安定性向上が期待できます。具体的には、各種センシング情報を基に、4輪に装着されたブレーキをそれぞれ制御することで、細かな姿勢制御を行います。特に、滑りやすい道路条件や急な回避操作が必要な状況下において、事故リスクを減らすのに役立ちます。

図1 ESCの役割
図1 ESCの役割

ABSとESCの違い

ABSとESCは似て非なるものです。ABSは、急ブレーキを掛けた時に車輪がロックすることを防ぐことが主な目的です。ブレーキ中の車両の操縦性を保ち、スキッドを減少させますが、横滑り回転は制御できません。
一方、ESCでは、車両のスリップやスキッドを防ぎ、運転手が意図した通りに車両を制御できるようにします。この働きによって、カーブや不安定な路面での車両の安定性を向上させます。ABSと異なる点は、車の横滑り回転の制御が可能なところです。

システム 制御内容 効果
ABS 4輪の各ブレーキは同じ圧力で制御する
タイヤの回転をロックしない様に断続的に制御する
ABS無い場合の制動距離に対し、短縮出来る
車の横滑り回転は制御出来ない
ESC 4輪の各ブレーキは異なる圧力で制御する
タイヤの回転をロックしない様に断続的に制御する
車の横滑り回転を抑制する様に各ブレーキの圧力を変える
ABS無い場合の制動距離に対し、短縮出来る
車の横滑り回転は制御可能
図2 ABSとESCの違い
図2 ABSとESCの違い

市場と機器のトレンドについて

ABSとESCは既に多くの車両に搭載されており、車両台数の増加につれて、今後も増加の見込みです。機器としては、車両の一層の走行性能向上に向けて、ブレーキ制御の高精度化を図る必要があります。加えて、航続距離伸長に向けて機器の小型化や、安全性確保のためシステムの冗長化などの進化が求められています。これらの「高精度化」「小型・軽量化」「冗長化」を実現するために、電子部品においては、損失増加(発熱、電力)や耐熱性などの課題をクリアする必要があります。

ESCの回路構成について

全体構成

  • トランシーバー:外部と通信するためのデバイスまたは回路(CAN通信)
  • MCU(マイコン):データの処理や判断、モータ、ブレーキ圧力バルブの制御を行う。
  • DC/DCコンバータ:MCU、トランシーバー向けの電源供給
  • モータ駆動回路:モータ駆動電源
  • バルブ駆動回路:ブレーキ圧力バルブ駆動電源
  • モータ:油圧システム全体の圧力を制御する
  • バルブ:各ブレーキの圧力調整弁の制御
図3 ESCの全体構成
図3 ESCの全体構成

個別回路および構成部品

トランシーバー

トランシーバー回路では、2本の線を使って外部機器と通信します(CAN、Ethernetなど)。このとき、通信線から静電気ノイズが混入すると、トランシーバーICが故障する恐れがあります。そのため、トランシーバー回路には静電気ノイズ対策用としてチップバリスタを組み込むのが一般的です。

【使用される部品】

ESDノイズ除去  ―― チップバリスタ

POINT
  1. ❶ 幅広い容量特性ラインナップにより、回路の通信品質を維持しながら静電気(ESD)ノイズの抑制に貢献
  2. ❷ チップバリスタは、8~250pFの容量特性により、低速から高速の通信速度に対応
図4 トランシーバーで使用される部品
図4 トランシーバーで使用される部品

DC/DCコンバータ

DC/DCコンバータは主にFET、コイル、コンデンサで構成されています。入力部のノイズ除去と出力部の平滑には導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ、電圧変換には車載用パワーインダクタ、電圧計測にはチップ抵抗(高精度チップ抵抗器)を用いるのが一般的です。

【使用される部品】

ノイズ除去、スイッチング・平滑 ―― 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ

POINT
  1. ❶ 大容量&低ESR&高リプル性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 容量特性の高周波対応により、回路の高周波スイッチング化で発生するノイズの広帯域&高周波除去に貢献

電圧変換 ―― 車載用パワーインダクタ

POINT
  1. ❶ 金属磁性材での低損失&大電流性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 損失特性の高周波化(低ACR)により、回路の高周波スイッチング化における損失抑制に貢献

電圧計測 ―― チップ抵抗器 (高精度チップ抵抗器)

POINT
  1. ❶ 薄膜構造での抵抗値公差、低TCR性能により、回路の出力特性の高精度制御化に貢献
図5 DC/DCコンバータで使用される部品
図5 DC/DCコンバータで使用される部品

モータ駆動回路

モータ駆動回路では、複数のスイッチング素子によって、電圧の変換を行います。スイッチング時の入力電圧変動がノイズとなるため、コイルとコンデンサを用いてノイズフィルタを構成します。また、スイッチング素子をOn/Offすることで変換動作を行いますが、素子のOn/Offの際にノイズが発生するため、ゲート端子に抵抗器を配して駆動ノイズを抑制します。

【使用される部品】

ノイズ除去・平滑 ―― 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ

POINT
  1. ❶ 大容量&低ESR&高リプル性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 容量特性の高周波対応により、回路の高周波スイッチング化で発生するノイズの広帯域&高周波除去に貢献

ノイズ除去・平滑 ―― 車載用パワーインダクタ

POINT
  1. ❶ 金属磁性材での低損失&大電流性能により、回路の小型・大電力化(低電圧&大電流)に貢献
  2. ❷ 損失特性の高周波化(低ACR)により、回路の高周波スイッチング化における損失抑制に貢献

スイッチング素子ゲート駆動ノイズ抑制 ―― チップ抵抗器 (小形高電力チップ抵抗器)

POINT
  1. ❶ 独自の抵抗パターン、電極構造などにより小型高電力化を実現し、回路の小型化に貢献
図6 モータ駆動回路で使用される部品
図6 モータ駆動回路で使用される部品

バルブ駆動回路

バルブを動かすソレノイドをON/OFFするための回路です。ソレノイドとサージ保護用ダイオード、ソレノイドをON/OFFを制御するためのFETから構成されています。FETのOn/Offの際にノイズが発生するため、ゲート端子に抵抗器を配して駆動ノイズを抑制します。

【使用される部品】

スイッチング素子ゲート駆動ノイズ抑制 ―― チップ抵抗器 (小形高電力チップ抵抗器)

POINT
  1. ❶ 独自の抵抗パターン、電極構造などにより小型高電力化を実現し、回路の小型化に貢献
図7 バルブ駆動回路で使用される部品
図7 バルブ駆動回路で使用される部品

まとめ

ESCはABS、TCS、ヨー制御を統合した車両安全技術です。この技術によって、車の姿勢を安定させ、滑りを防いでブレーキをアシストします。現在、ABSとESCは多くの車両に搭載されており、今後もその数は増加する見込みです。機器としては、ブレーキ制御の精度を高めるとともに、機器の小型化と冗長化が求められています。また、機器を構成している電子部品の低損失化と、耐熱性の向上が必須となります。パナソニックインダストリーでは、ESC向けに幅広い商品ラインアップを取りそろえています(表1)。

表1 商品ラインアップと特長一覧
部品 特長 低損失 小型化 高耐熱
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ 低ESR
高信頼性
車載用パワーインダクタ 大電流、低損失
高信頼性
高精度、高耐熱
チップバリスタ 小形・軽量化

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