"CASE" 時代を迎えた自動車のトレンドと技術課題 (4) ~コネクテッドカー~

 

"CASE"時代を迎えた自動車のトレンドと技術課題(4)
コネクテッドカー

2020-05-18

今回は、"CASE" 時代を迎えた自動車のトレンドと技術課題の4回目として、高度な通信機能を備えたコネクテッドカーを取り上げます。

高度な運転制御や道路管制を実現するコネクテッドカー

自動車のトレンドを表す「CASE」は、四つのキーワードの頭文字を並べた用語で、それぞれ以下を意味しています。
C:Connected
A:Autonomous
S:Shared & Services
E:Electric

このうち "E" の電動化については第1回目と第2回目で、"A" の自動運転については第3回目で取り上げた通りです。そして今回取り上げるのが "C"、すなわち "Connected" です。
コネクテッドとは、自動車が他車や外部ネットワークなどと接続されている状態を表し、そうしたネットワーク機能を持つ自動車は「コネクテッドカー」と呼ばれます。
現在のテレマティクスサービスでは、ネットワークインタフェースとして3Gまたは4G(LTE)の公衆網(移動体通信)が使われ、渋滞情報の取得やカーナビ地図データの更新などが主な用途となっています。
一方のコネクテッドカーでは、高速データレートと低レイテンシを特徴とする5Gが活用されるとともに、自動車と自動車とが直接通信するV2V(Vehicle to Vehicle)などの機能を通じてより多くの情報がやりとりされ、自動運転を含む高度な運転制御や道路管制が実現される見込みです(図1、表1)。
図1 コネクテッドカーのイメージ図 img
図1 コネクテッドカーのイメージ図
略語 フルスペル 通信対象 接続方式(*はC-V2X)
V2V Vehicle to Vehicle 車車間 狭域通信(DSRC、LTEのPC5*、5G NRのサイドリンク*など)
V2I Vehicle to Infrastructure 路車間
V2P Vehicle to Pedestrian 車=歩行者間
V2N
V2C
Vehicle to Network
Vehicle to Cloud
車=ネットワーク間 広域通信(4G*または5G*)
P2N Pedestrian to Network 歩行者=ネットワーク間
I2N Infrastructure to Network 路側機器=ネットワーク間
表1. コネクテッドカーで重要となる主な通信形態。これらを総称してV2Xと呼ぶ。

日本における路車間通信テクノロジーの歩み

日本の路車間通信テクノロジーは1970年代に始まる

現在のコネクテッドカーへとつながるテクノロジーは、日本では1973年に登場しました。悪化する交通渋滞を減らそうと、路車間通信を通じて経路誘導を行う「自動車総合管制システム(CACS:Comprehensive Automobile Traffic Control System)」が通産省(当時)の工業技術院によって開発され、実装実験も行われました。

道路にループアンテナを埋め込み、その上を車両下部にアンテナを組み込んだ自動車が通過したときに、144ビットのデータをビットレート4800bpsにて送信していたそうです。

より実用的な取り組みが始まったのは1996年で、ナビゲーションシステムの高度化、自動料金収受システムの確立、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化などを目的に、警察庁、通産省、運輸省、郵政省、建設省(各省庁名は当時)によって「高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)推進に関する全体構想」が策定されました。

この取り組みから誕生したサービスが、現在、一般財団法人 道路交通情報通信システムセンターによって提供されている「VICS(Vehicle Information and Communication System)」です。FM多重放送、電波ビーコン、光ビーコンを通じて、渋滞や交通規制などの情報を車に送信。それらの情報はカーナビのルート検索や渋滞表示などに使われています。

また、高速道路の入り口でおなじみのETCも国のITS戦略の一環として開発、実用化されました。ETCは2.5GHz帯を使う従来のETCから、5.8GHz帯を使って双方向で通信するETC 2.0 (ITSスポット)への切り替えが進められています。
VICSやETCはもっとも身近なV2Iシステムと言えます。

VICSやテレマティクスが日本で普及

VICSで取得できるのは道路交通情報だけですが、より多くの情報をやり通りすることで自動車の利便性を高めようと実現されたのがテレマティクスサービスです。ちなみにテレマティクスとはテレコミュニケーション(通信)とインフォマティクス(情報処理)とを組み合わせた造語で、日本では1990年代半ばにサービスが始まりました。

3Gモデムや4G(LTE)モデムを自動車に搭載しておき、カーナビ地図の更新、走行履歴の管理(タコグラフ)、現在位置の把握(プローブ情報)、診断と故障の通知、盗難車両の追跡、事故発生時に救急や警察に自動通報する「eCall」(欧州では2018年4月から義務化)などのさまざまなサービスが個人向けおよび法人向けに提供されています。

また、テレマティクスで取得した運転特性などの情報を元に自動車保険料を算定する「テレマティクス保険」も登場しています。

路車間通信と車車間通信がコネクテッドカーの鍵

新たなキーワードとして注目されている「コネクテッドカー」は、前述のITSやテレマティクスの進化系と言えます。

総務省が発行している「情報通信白書」では、コネクテッドカーを、以下と定義しています。
コネクテッドカーとは、インターネット接続等、ICT端末としての機能を有する自動車のことであり、「路車・車車間無線通信」によって、自動運転等の高度運転支援や車両の状態や周囲の道路状況などの様々なデータの集積・分析を通じた新たなサービスや価値の創出が期待されるものである。(出典「情報通信白書」平成28年版)

また、その背景として、以下の3点を挙げています。
  • 無線通信の高速・大容量化
  • 車載情報通信端末の低廉化、スマートフォン等による代替化
  • ビッグデータの流通の大幅な増加
    (出典「情報通信白書」平成27年版)
コネクテッドカーと従来のテレマティクスとの大きな違いのひとつが、安全支援機能や自動運転機能とのより高度な連携・連動です。信号機などの路側機器(V2I)、周囲を走行する他車(V2V)、スマートフォンを携帯する歩行者(V2P)、クラウドサーバー(V2N/V2C)などと大量かつ多種の情報をやり取りすることで、道路状況把握の精度向上や危険の事前察知という狙いがあります。

注目が集まるC-V2X

コネクテッドカーにおけるV2Xの通信手段としては、表1の右側の欄に示したように、2種類に大別されます。

  • V2VやV2Iなど:狭域通信
    ITSスポット(5.8GHz)やITS Connect(760MHz)などのDSRC(Dedicated Short Range Communication、専用狭域通信)、LTE PC5、5G NRサイドリンク
  • V2Nなど:広域通信
    4G公衆網および5G公衆網

これらのうち、DSRCを除いた狭域通信と広域通信のV2Xは、Cellular V2Xを略して「C-V2X」と呼ばれ、C-V2Xの開発を加速するために「5GAA (5G Automotive Association)」という業界団体が2016年に組織されるなど、とくに欧州で取り組みが活発化しています。

5GAAの提案により、LTEの規格を決める3GPP(3rd Generation Partnership Project)にて、4Gをベースにした「LTE-V2X」(LTE Release 14)仕様がすでに策定されています。また、自動運転には5Gをベースにした「LTE Release 16」仕様が適用される見通しです。後者は新しい無線を意味するNR(New Radio)から「NR-V2X」とも呼ばれます。

開発のポイントはEMC(電磁両立性)の向上

コネクテッドカーをエレクトロニクスの観点で見たときに課題のひとつになるのが、電磁ノイズです。
自動車に多くの通信機器が搭載されるようになったことで、EMC(電磁両立性)の条件がより厳しくなっています。対策すべき周波数帯も広くなっており(図2)、これらの機能に対して影響を与えないレベルにEMIを抑えなければいけません。

図2. 日本におけるコネクテッドカーで使われる周波数帯の例 img
--- 周波数 ---
図2. 日本におけるコネクテッドカーで使われる周波数帯の例

電磁ノイズ対策としては、スイッチング電源やケーブルなどから発せられる電磁ノイズを抑えると同時に、外部から入る電磁ノイズによる誤動作を防がなければなりません。送受信エラーが生じると、安全に関わる重要な情報を取得できなくなる可能性があるためです。

もうひとつの課題が、受信信号を歪みなく後段に伝えるための、高周波のアナログ・フロントエンド回路における直線性(リニアリティ)とノイズ性能です。とくに、位相と振幅を多段階に設定してデータをシンボルとして送るQAM変調(直交変調、I/Q変調)を利用した通信では、リニアリティが十分でないと、ごくわずかな位相差や振幅差を後段で判別することができなくなってしまいます。

また、通信モジュール(TCU:Telematics Control Unit)の電源のバックアップも考えなければなりません。たとえば事故発生時に救急や警察に自動通報する「eCall」は、車両が破損して+12Vバッテリからの電力供給が途絶えた状態でも、位置情報の取得機能と緊急通報機能を維持しなければなりません。そのためTCUには小型のバッテリと充電回路が必要で、規定時間以上にわたって動作できるよう、通信制御回路もできるだけローパワーで設計することが望まれます。

価値やサービスの創出に向けた課題

自動車がコネクテッドカーへと進化することで、利便性、快適性、安全性がそれぞれ向上すると期待されています。
一方で、テクノロジーの標準化、5GやV2Iのインフラ整備、サービス創出とマネタイズ、セキュリティ、データのプライバシー、相互運用性(互換性)、接続信頼性、ネットワーク機能を持たない従来の自動車との共存など、まだまだ課題も多いのが実態です。また、欧州、米国、日本のそれぞれで利用できる電波帯が異なるため、開発の共通化をどのように図っていくかといった課題も指摘されています。規格やサービスの覇権争いも激しく、いずれが業界標準になるかは不透明です。
さらに、受益者である自動車の所有者が、費用を負担してまでコネクテッドカーで実現される各種の機能やサービスを利用するだろうか、という問題もあります。
当面はさまざまなアイディアやテクノロジーの実証実験が行われると見込まれ、自動運転機能の実用化と合わせて、引き続き動向に注視が必要と言えます。

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