"CASE"時代を迎えた自動車のトレンドと技術課題(1)
48V系マイルドハイブリッド
2019-11-18
"CASE" (Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)が、自動車あるいはモビリティの新たな姿を示す言葉として盛んに使われるようになってきました。そうした中、これまでにないテクノロジーやコンセプトが提唱され、また技術的にさまざまな課題も浮上しています。このコラムでは、そうした自動車を取り巻く技術トレンドから、エレクトロニクスに関連するテーマを取り上げます。
今回は第一回目として、欧州を中心に広がりを見せているマイルドハイブリッド車と、マイルドハイブリッド車の登場を契機に、従来の12V系に追加される形で設けられるようになった48V系を取り上げます。
排ガス規制の厳格化で注目されるマイルドハイブリッド
大規模気候変動の原因の一つと考えられている地球温暖化の進行を防ごうと、自動車が排出するCO2を削減するためにさまざまな取り組みが行われてきました。特に厳しい排ガス規制を行っているのがEUで、今後の更なる規制の厳格化に対して、規制への対応が自動車メーカーにとっては大きな開発負担になります。
その中で、従来のガソリン車あるいはディーゼル車の基本設計を活用しながら、CO2排出を削減できる駆動方式として注目されているのが、「マイルドハイブリッド」です。
マイルドハイブリッドは、小容量の二次電池と補助的なモーターを搭載し、スタート時や加速時にモーターでアシストすることでエンジンの燃料消費を抑える仕組みで、アイドリングストップ機能と組み合わせることで20%程度の燃費向上が実現できるといわれています。
ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車は「ストロングハイブリッド」と呼ばれ、燃費の面ではマイルドハイブリッドよりも優れていますが、構造が複雑で開発に多くの工数を必要とします。
マイルドハイブリッドは既存のシャシーやパワートレインをベースに開発できるため、ドイツを中心とする自動車メーカーの多くは、ストロングハイブリッドではなくマイルドハイブリッドで排ガス規制への対応を進めています。日本の一部の自動車メーカーもマイルドハイブリッドに積極的に取り組んでいます。
48V系によるマイルドハイブリッドの効率化
マイルドハイブリッド車の大まかな構成を図1に示します。
この中で、通常の自動車に対して構成の大きな違いは次のとおりです。
- 48Vの電装系を新たに追加
- 加速時にエンジンをアシストするモーター(減速時にはオルタネータ)と、モーターに電流を供給する二次電池、および、その他の補機類によって48V系を構成
- 48V系と12V系とは双方向DC/DCコンバータで接続
48V系 | 12V系 |
---|---|
モーター(スターターおよびオルタネータ機能統合) 二次電池 パワーステアリング・ユニット エアコン クーリング・ファン |
鉛バッテリー エンジン制御 トランスミッション制御 ブレーキ制御 ADAS インフォテインメント(カーナビなど) |
ポイントのひとつが新たに加えられた48V系です。
自動車は、一部の大型車両を除いて12V出力の鉛バッテリーが伝統的に使われてきました。
しかし、マイルドハイブリッドでは、加速時にモーターを駆動する電力と、減速時にモーターを発電機として使って回収する電力がともに大きく、12V系で構成すると電流値が数百Aにも達してしまいます。
また、鉛バッテリーは急速な充放電はできないため、従来の12V系はそもそもマイルドハイブリッドには適していないという問題もありました。更にパワーステアリングなど一部の補機は、12V系のままでは大容量化に限界がきていて、より高い電圧供給が求められていました。
それであれば、12V系とは別に、マイルドハイブリッドの実現に適した電圧系統を新たに設けようと提案されたのが48V系です。
電圧を4倍にすれば同じ電力を供給するときの電流は1/4で済み、ハーネスでの損失は小さくなり、太く重いハーネスを使う必要がありません。また、電圧としてみたときに48Vはそれほど高いわけではないため、安全対策を含めて回路の構成が容易です。
マイルドハイブリッドと48V化とはイコールではありませんが、こうした背景により、12Vと48Vをペアで用いることが一般的となっています。もちろん48V以外の電圧で構成したマイルドハイブリッドもあります。
自動車の加速時と減速時におけるマイルドハイブリッドの動作
自動車の加速時と減速時におけるマイルドハイブリッドの大まかな動作を以下に示します。
- 加速時
二次電池の電力を使ってモーターを駆動し、加速をアシストすることで、エンジンでの燃料消費を減らし燃費を高めます。(図2) - 減速時
モーターをオルタネータとして用い、エネルギーを二次電池に蓄えます。同時に12V系の鉛バッテリーの充電も行います。いわゆる回生ブレーキと呼ばれる方式です。(図3)
マイルドハイブリッドを構成するモーターは、加速をアシストするだけではなく、減速時には発電機(オルタネータ)として機能します。スターター・モーターの機能を兼ねることも多く、ユニットはISG(Integrated Starter Generator)とも呼ばれます。
二次電池は、減速時にはモーターが発電した電力を短い時間で蓄える役割と、加速時にはモーターが必要とする電力を瞬間的に供給する役割を担います。自動車に搭載されている12V出力の鉛バッテリーは急速な充放電はできないため、マイルドハイブリッドでは特性に優れるリチウムイオンバッテリーが主に使われます。もちろんストロングハイブリッドほどの容量は必要ありません。
12V系と48V系とを結ぶ双方向DC/DCコンバータ
エレクトロニクスの観点でみたときに、マイルドハイブリッドならではの構成要素が双方向DC/DCコンバータです。モーター、二次電池、その他の補機類で構成される48V系と、既存の12V系とを接続する役割を担います。
<12V→48V昇圧動作>
12V鉛バッテリーで48V系の補機類を駆動するとき、あるいは、二次電池の充電レベルがアシスト動作には足りず、12V系の鉛バッテリーから二次電池を充電するときに、昇圧動作を行います。
<48V→12V降圧動作>
48V系のモーター(オルタネーター)で発電した回生電力で12V系の鉛バッテリーを充電するときに降圧動作を行います。
図4は、降圧チョッパ回路と昇圧チョッパ回路とを組み合わせたもっともシンプルな双方向DC/DCコンバータの構成例を示します。
車載ECUに搭載されるスイッチング電源(DC/DCコンバータ)は、 「電源回路の基礎知識(3) ~スイッチング・レギュレータの設計手順~」 や、 「電源回路の基礎知識(4) ~ECU向け電源回路の設計上のポイント~」 で説明したように、基本的には市販のスイッチング電源ICで構成することができます。
一方、マイルドハイブリッドの双方向DC/DCコンバータは、12V系と48V系の状態を監視しながら、12V系から48V系への昇圧動作や48V系から12V系への降圧動作をきめ細かく制御しなければならないこと、電力容量が数kWから10kW以上と大きいこと、容量が大きいがゆえにきわめて高い効率を実現しないと発熱(損失)が課題になること、などの理由により、DSP(Digital Signal Processor)などのデジタル回路を用いてスイッチング動作を制御する、いわゆるデジタル電源による実装が主流となっています。
12Vと48Vの双方向DC/DCコンバータや、48V系に接続される補機類を設計する場合、電子部品の定格電圧には注意が必要です。LV 148規格では、48V系の電圧範囲は36V~52Vと定められているほか、オーバー・ボルテージの上限は60Vとなっていますので、見込まれる動作温度範囲に渡って60V以上が定格として維持される電子部品を選定することが望ましいでしょう。
次回はEVなどに搭載されるバッテリーと周辺回路について取り上げます。