チップ抵抗器の故障要因と故障メカニズム・対策(2)
2021-10-25
前回の記事では、「故障事象の概要」と、下表における「マイグレーション」、「電解腐食」、「硫化」について解説しました。
[前回記事はこちらをクリック!]
今回はそれに続き「電極剥がれ」から「抵抗体劣化」までの4項目について解説します。
No. | 故障事象 | 使用環境 | 故障部位 | 該当チップ 抵抗器タイプ |
故障モード |
---|---|---|---|---|---|
1 | マイグレーション | ハロゲン成分の 付着 |
内部電極 | 全て | 抵抗値低下/ ショート(短絡) |
2 | 電解腐食 | 抵抗体 | 薄膜タイプ | 抵抗値増大/ オープン(断線) |
|
硫黄を含む 雰囲気 |
抵抗体 | 薄膜タイプ | |||
3 | 硫化 | 内部電極 | 全て | ||
4 | 電極剥がれ | 過度な機械的 応力 |
中間電極 | 全て | |
5 | はんだクラック | 実装はんだ | 全て | ||
6 | 抵抗体焼損 | 電気的過負荷 | 抵抗体 | 全て | |
7 | 抵抗体劣化 | 抵抗体 | 厚膜タイプ | 抵抗値低下 |
電極剥がれ
電極剥がれとは、チップ抵抗器に強い応力が加わり、内部電極と中間電極の間が剥離する故障です。
電極剥がれのメカニズム
リフロー時の過度なはんだ収縮やプリント基板のたわみ及びモールド樹脂の硬化収縮により、中間電極に強い応力が加わり剥がれることで、抵抗値が増大し、最終的にはオープン(断線)となります。
これは、はんだ量が過多であった場合や、推奨リフロー条件を超えるプロファイルで実装した場合に発生します。
また、高温はんだなどクラックが起きにくい特殊はんだを使用した場合も電極剥がれに繋がる可能性があります。
なお、モールド樹脂の場合は、端子だけでなく製品自体の割れなどにも繋がります。
電極剥がれの解決方法
電極剥がれを防止するには、適正なはんだ量と推奨リフロー条件以内のプロファイルによる実装が必要です。
適正なはんだ量の目安としては、以下となります。
T ≧ t ≧ T/3
T : チップ抵抗器高さ
t : はんだフィレット高さ
推奨リフロー条件については、当社製品の場合、商品仕様として公開していますので参照してください。
はんだクラック
はんだクラックは、主にお客様の使用環境における熱衝撃ストレスにより発生する故障事象です。
はんだクラックのメカニズム
実使用時に繰り返される温度変化(温度サイクル)により、チップ抵抗器とプリント基板の熱膨張/収縮率の違いに起因した応力で実装はんだが割れる場合があり、特に車載用途など、温度差が大きい用途では注意が必要です。
はんだクラックが発生すると抵抗値が増大し、最終的にはオープン(断線)となります。
はんだクラックの解決方法
実使用時に繰り返される温度変化(温度サイクル)への対策は、適正なはんだ量を遵守することや適切な部材(PCB、はんだ)を選定することが重要ですが、熱衝撃に対する信頼性が高い部品(ダウンサイズ品や長辺電極抵抗)を採用することも有効です。
当社では、ソフト電極材料の採用によりストレス耐久性を向上しはんだクラックの進行を抑制しています。特に、-55℃/+175℃熱衝撃試験1000サイクル保証*を実現した 「高耐熱チップ抵抗器」をラインアップしています。
*-55℃/+175℃熱衝撃試験1000サイクル保証は、はんだ、基板、実装ランドなど当社推奨条件で実装された場合であり、詳細は当社製品仕様を確認ください。
抵抗体損傷
抵抗体損傷は、過負荷、過度なESD、過度なサージ・パルス等により発生する故障事象です。
抵抗体損傷のメカニズム
過負荷、過度なESD、過度なサージ・パルスにより瞬間的に大きな電流が流れ、抵抗体が発熱、破壊損傷し、抵抗値増大や断線(オープン)に至ります。
抵抗体損傷の解決方法
チップ抵抗器には定格電力が決まっているので、この定格電力以下で使用することが基本です。
よって、チップ抵抗器の印加電力が定格以下となるよう設計してください。
しかし、ESD (静電気放電)やサージ(開閉サージ等)のような瞬時の大電力負荷まで定格電力以下とすることは困難であるため、ESDやサージが加わる場合の対策としては以下の2つが考えられます。
- ① 回路上にESD・サージ対策部品を併用して、回路全体でESD・サージの影響を最小化する。(ESDサプレッサ、バリスタ等の使用)
- ② ESD・サージに強い部品を選定する。
当社ではESD・サージへの耐性が高い「高耐久・高信頼性薄膜チップ抵抗器」、「小形高電力チップ抵抗器」をラインアップしています。
抵抗体劣化
抵抗体劣化とは、抵抗体が過負荷による発熱によって変質する現象です。
これは、抵抗体材料が導電性粒子とガラスで構成されている厚膜チップ抵抗器で発生する故障です。
抵抗体劣化のメカニズム
厚膜チップ抵抗器に非常に短時間の過負荷(過電流、ESD,サージ含む)が印加された場合、抵抗体が溶融に至らず、抵抗体を構成しているガラス(絶縁部)が絶縁低下し抵抗値が低下することがあります。
抵抗体劣化の解決方法
抵抗体劣化を防ぐ方法は「抵抗体損傷」と基本的には同じです。
但し、抵抗体劣化の場合は厚膜タイプにおける現象であるため、厚膜タイプでESD・サージへの耐性が高い部品として、当社では「小形高電力チップ抵抗器」をラインアップしています。