端子部温度による最高温度規定について

 

端子部温度による最高温度規定について

2023-05-19

アプリ/機能伸長により、回路の高集積化と電子部品の面実装化、小型化及び高密度実装化が進んでいます。小型化、高性能化に伴って部品の自己発熱が増大し、セット側の部品熱設計は高度化・複雑化してきています。この課題に対して部品側での取り組みについて、一例を紹介いたします。

抵抗器の動向と端子部温度規定について

リード付き抵抗器と面実装チップ抵抗器の熱設計に対する考え方

以前の回路設計にはリード付き部品が多く採用されてきました。リード付き抵抗器から発せられた熱の80~90%は、周囲空間へ放熱されます。つまり、周囲環境温度の影響を受けながら周囲空間に熱をいかに逃がすかが重要でした。
このため、抵抗器は周囲温度を基本に定格電力を保証しています。これを「周囲温度規定」と呼び、現在でも一般的な保証となっています。

しかし現在は、抵抗器に限らず、面実装タイプの部品が多く使用されています。角チップ抵抗器のような面実装部品は、かつてのリード付き部品(表1、左)とは異なり、部品と基板が接触している状態(表1、右)です。

表1 部品種類による放熱イメージ
使用部品 リード部品 面実装部品
熱影響
イメージ
リード抵抗器
リード抵抗器
面実装抵抗器
面実装抵抗器
特徴
  • 接続リード端子が細く長く、実装基板への熱伝導放熱が小さい
  • 表面積が大きく、対流・放射放熱が大きい
    • 接続端子の面積が大きく、実装基板への熱伝導放熱が大きい
    • 表面積が小さく、対流・放射放熱が小さい

      リード付き部品と比較すると面実装部品は、周囲温度の影響に加えて、自部品の発熱や、基板を通じて他部品から伝わる熱の影響を受けやすくなるので注意が必要です。
      周囲温度を基にした設計では、特に負荷印加時 (稼働時)の部品への負荷について、正確な算出が困難になっています。これらを背景に、負荷印加時における端子部の温度上昇に注目することで、正確に部品への負荷を設計する考え方が生まれました。この考え方を基にした最大定格電力の規定を、従来の「周囲温度規定」に対して、「端子部温度規定」と呼びます。

      端子部温度規定の規格化動向

      抵抗器は使用時の負荷により自己発熱しますが、温度が高くなると性能や寿命に悪影響があるため、余裕を持たせながら使用する必要があります。この考え方をディレーティングと呼びます。使用する周囲温度が高温の場合には、印加電力を下げて使用します。このとき、「端子部温度規定」の考え方では周囲温度ではなく、使用環境下での負荷印加時の端子部温度を基準に、印加する電力を設定します。

      図1 概念図 「周囲」温度 ディレーティング
      図1 概念図 「端子部」温度 ディレーティング
      図1 概念図

      この端子部温度に関する規定は国際規格化の動きがあり、検討するグループにはパナソニックをはじめ、日系メーカーが参画しています。

      端子温度の測定方法、及び注意点

      パナソニックの端子温度測定は、電子情報技術産業協会の技術レポート「JEITA RCR-2114 表面実装用工程抵抗器の負荷軽減曲線に関する考察」を参考にしています。代表的な測定方法として、赤外線サーモグラフィーと熱電対の2つがあります。

      表2 端子部温度測定機器例
      使用機器 赤外線サーモグラフィー 熱電対
      概要
      イメージ
      物質が発する赤外線を観測することにより、その物質の表面温度を測定 異種の金属線の先端同士を接触させて回路(熱電対)を作り、接合点に発生する熱起電力を利用して温度を測定 
      メリット 取り扱いが簡単であり、非接触で広範囲の温度測定が可能 環境温度に関わらず、測定が可能
      デメリット
      • 室温での測定が原則であり、測定器の使用可能な温度範囲が限定される
      • 試験槽などガラス越しの被測定物は測定できない
      • 被測定物に光沢があるなど放射率が低い場合は、追加処理が必要(処理例 黒色塗装など)
        • 測定温度や精度によって熱電対の種類を選択必要
        • 取付方法や測定箇所の熱容量の考慮が必要

          実機評価では、熱電対を選択する機会が多くなると推測されますので、以下の注意点を参照ください。

          熱電対測定における注意点

          (1) 熱電対の種類

          熱電対にはいくつかの種類があり、測定する物質や測定する温度範囲によって、使い分けが必要です。チップ抵抗器のように製品の体積が小さく、熱容量の小さい部品については、熱電対への熱移動の影響を抑えるため、熱伝導率の小さいK-typeが向いており、かつ線径の細いものを使用するのが望ましいです。温度誤差についてはT-typeの方が優れていますが、熱伝導性が高く、被測定物の発熱温度熱を奪ってしまうため、熱容量の小さいものには不向きといえます。

          表3 熱電対の種類
          熱電対
          記号
          クラス1 クラス2
          温度範囲 許容差 温度範囲 許容差
          K −40 ℃以上375 ℃未満 ±1.5 ℃ −40 ℃以上333 ℃未満 ±2.5 ℃
          375 ℃以上1000 ℃未満 ±0.004・| t | 333 ℃以上1200 ℃未満 ±0.007 5・| t |
          T −40 ℃以上125 ℃未満 ±0.5 ℃ −40 ℃以上133 ℃未満 ±1.0 ℃
          125 ℃以上350 ℃未満  ±0.004・| t | 133 ℃以上350 ℃未満 ±0.007 5・| t |

          * | t |は,測定温度の+,−の記号に無関係な温度(℃)で示される値
           参考:JIS C 1602:2015

          (2) 熱電対の先端処理及び測定部への取付について

          熱電対を使用する場合は、2本線の接点部に特にご注意ください。

          1. 熱電対は異種金属の起電力の差を基にしているため、先端部分は接触している必要があります。先端部分が接触していないと温度測定できません。
          2. 熱電対の先端は、小型スポット溶接機などで溶接してください。先端を撚り合わせるのみの接続や、はんだ付けによる接続の場合、目的箇所の温度測定が正しくできない恐れがあります。
          3. 溶接部がクロスしていたり、溶接部サイズが不適切だったりする場合、端子部にはんだ付けする際に適切な位置に固定ができません。熱電対は接触点の温度を測定します。接触点よりも先に余分な線があると、放熱によって測定温度の値が不安定になります。放熱を抑えるためには、熱電対の先端を適切に溶接することが重要です。
          図2 熱電対の使い方 正しい接続方法
          図2 熱電対の使い方 誤った接続方法
          図2 熱電対の使い方

          正しく溶接できたら、熱電対の先端を端子部のはんだフィレットの中央に固定します。端の方に寄っていたり、熱電対の先端がフィレットから露出したりしていると、正確な温度が測れません。

          (3)温度補正

          熱電対による温度測定では、実測値との誤差が発生する場合があります。誤差の原因には主に以下の2つが考えられ、これらを考慮した上で測定を行いましょう。

          1. 熱電対の起電力誤差 ―― 熱電対製造ロットなど
          2. データロガーの電圧測定誤差 ―― チャンネルごとの測定誤差など

          端子部温度規定による部品選定、電力設定方法

          セット設計や、実機でのご評価については、先に示したJEITAの技術レポートを一読いただき、ここで挙げた注意項目に留意ください。また、パナソニック抵抗器製品におけるデータシートの規定温度の読み方は、以下を参照ください。

          *例) 耐サージ固定抵抗器 ERJPA3 シリーズ
          図3に示すように、2種類の製品定格仕様が記載されている場合、グラフ1(定格周囲温度)、グラフ2(定格端子温度)に従って、印加する電力を調整してください。

          図3 ERJPA3 シリーズカタログ例 (カタログ内容は、2023年4月現在)
          図3 ERJPA3 シリーズカタログ例 (カタログ内容は、2023年4月現在)
          グラフ1
          周囲温度にて定格を設定する場合は、左グラフ1に従って、定格電力を軽減してください。

          Ex.
          周囲温度 105℃の場合、負荷電力100%まで
          周囲温度 135℃の場合、負荷電力40%まで
          グラフ2
          端子温度にて定格を設定する場合は、左グラフ2に従って、定格電力を軽減してください。

          Ex. 
          端子温度 130℃の場合、負荷電力100%まで
          端子温度 135℃の場合、負荷電力80%まで

          このとき、製品温度がカテゴリ上限温度以下になる条件で使用してください。定格周囲温度と定格端子部温度のどちらを使用するか疑義が生じる場合には、定格端子部温度を優先してください。

          まとめ

          リード付き部品と比較して、面実装部品は自己発熱やあおり熱を受けやすい傾向にあります。一層の小型化、高密度化が進む中での設計開発において重要な考え方が「端子部温度規定」です。端子部の温度測定には熱電対を採用することが多く、精度良く測定を行うためには、熱電対の取り扱い方法を十分に理解しておく必要があります。また、パナソニックでは、データシート上に定格端子部温度を掲載していますので、回路設計の際にご活用ください。

          参考文献

          • 表面実装用工程抵抗器の負荷軽減曲線に関する考察(JEITA RCR-2114)

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