スイッチング電源のMLCC入力/出力コンデンサのハイブリッドコンデンサへの置き換え事例

2018-12-10

課題解決事例

技術情報

スイッチング電源のMLCC入力/出力コンデンサのハイブリッドコンデンサへの置き換え事例

はじめに

近年、スイッチング電源回路の入力コンデンサや出力コンデンサとしてMLCC(積層セラミックコンデンサ)が使われることが多くなっています。スイッチング電源にとってESRやESL特性が優れるMLCCは有用ですが、大容量化、員数、コストなど課題がないわけではありません。これらのMLCCを、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ(以下、ハイブリッドコンデンサ)で置き換えた事例を紹介します。

スイッチング電源回路の入力コンデンサに使用されているMLCCの置き換え

スイッチング電源回路の入力には、一般にCINと呼ばれる入力コンデンサが必要です。入力コンデンサは、パワートランジスタのスイッチングによる放電と入力電源からの充電によるリプル電流や、入力電圧の変動によるリプル電流などを許容し入力電圧を安定に保ち、これらに起因するノイズを低減する役割を持っています。したがって、入力コンデンサにはスイッチング電流に対応するリプル電流定格、発熱も含めた温度定格、低ESR(等価直列抵抗)などが要求され、一般的にMLCCやアルミ電解コンデンサなどが使用されています。特に小型サイズのMLCCは、ESR特性、ESL(等価直列インダクタンス)特性に優れることから入力コンデンサとして使用されていますが、電源回路の周波数特性によってはMLCCからハイブリッドコンデンサへの置き換えが可能です。

ハイブリッドコンデンサは、電解質に導電性高分子と電解液を融合させたコンデンサです。導電性高分子と電解液の両方の優れた特性を兼ね備え、大容量、低ESR、低漏れ電流、高信頼が特長です。

・MLCC置き換え事例:車載ECU(Body制御ユニット)内の降圧DC/DCコンバータ

車載ECU(Body制御ユニット)内の降圧DC/DCコンバータ graph

スイッチング電源回路の入力コンデンサのMLCCを、ハイブリッドコンデンサで置き換えた事例を示します。この降圧DC/DCコンバータのスイッチング周波数は100kHz~300kHzで、入力コンデンサにはMLCCとしては比較的静電容量が大きい50V 10µF(3225mm)が2個使用されていました。これを、50V 22µF(Φ6.3×5.8mm)のハイブリッドコンデンサ1個で置き換えることができました。

MLCC 50V 10uF x 2pcs (3.2x2.5mm) graph
MLCC
50V 10uF x 2pcs
(3.2x2.5mm)
ハイブリッドコンデンサ 50V 22uF x 1pc (Φ6.3x5.8mm) graph
ハイブリッドコンデンサ
50V 22uF x 1pc
(Φ6.3x5.8mm)

この置き換えができたのは、右上の周波数特性のグラフが示すように、この降圧DC/DCコンバータのスイッチング周波数である100kHz~300kHzにおいて、このハイブリッドコンデンサのインピーダンスが元のMLCCのインピーダンスと同等以下であるためです。

しかしながら、高周波領域ではMLCCのほうのインピーダンスが低く、高周波ノイズの削減効果はより高いことがグラフから推測されます。もし、実際に高周波ノイズが問題になるようであれば、汎用的にデカップリングなどに使われる小容量のMLCCを追加することで、高周波領域のインピーダンス低減を図ることが可能です。

右下のグラフは、ハイブリッドコンデンサに0.1µFと4.7µFのMLCCを1個ずつ追加した周波数特性で、高周波領域のインピーダンスが改善されていることがわかります。

周波数特性比較 ハイブリッド vs. MLCC

周波数特性比較 ハイブリッドvs.MLCCのグラフimg

スイッチング電源回路の出力コンデンサに使用されているMLCCの置き換え

スイッチング電源回路の出力には出力コンデンサ(COUT)が必要で、例えば降圧DC/DCコンバータでは出力のインダクタとLCフィルタを構成し出力電圧を平滑します。出力コンデンサは、出力電流を中点にしたスイッチングによる三角波のリプル電流(インダクタ電流)の充放電を繰り返します。スイッチング電源の出力リプル電圧を低減するには、出力コンデンサに対してはESRを下げる、静電容量を増やす、といったアプローチを採ります。また、出力リプル電圧は単純にリプル電流とESRに比例するので、ESRは重要なファクタとなります。出力コンデンサには、一般的にMLCCやアルミ電解コンデンサなどが使用されています。MLCCは、出力コンデンサにおいてもESR特性、ESL特性に優れることがポイントになっていますが、入力コンデンサ同様に電源回路の周波数特性によってはMLCCからハイブリッドコンデンサへの置き換えが可能です。

・MLCC置き換え事例:EV車の絶縁型降圧DC/DCコンバータ

EV車の絶縁型降圧DC/DCコンバータ graph

これは、EV車の絶縁型降圧DC/DCコンバータの出力コンデンサを、MLCC+アルミ電解コンデンサの構成からハイブリッドコンデンサ構成に置き換えた事例です。元の出力コンデンサは、25V 10µF(3216サイズ)のMLCCを並列40個、そして25V 330µF(Φ10×10.2mm)のアルミ電解コンデンサを並列2個という構成でした。これを、25V 330µF(Φ10×10.2mm)のハイブリッドコンデンサ並列12個で置き換えることができました。

MLCC 25V10uFx40pcs (3.2x1.6mm) graph
MLCC
25V10uFx40pcs
(3.2x1.6mm)
MLCC graph
E-Cap 25V330uFx2pcs (Φ10x10.2mm) graph
E-Cap
25V330uFx2pcs
(Φ10x10.2mm)
ハイブリッドコンデンサ 25V330uFx12pcs (Φ10x10.2mm) graph
ハイブリッドコンデンサ
25V330uFx12pcs
(Φ10x10.2mm)

この置き換えが可能だったのは、この絶縁型降圧DC/DCコンバータのスイッチング周波数が100kHz~300kHzであり、この周波数帯域におけるハイブリッドコンデンサ構成のESRとインピーダンスが、元のMLCC+アルミ電解コンデンサ構成と同等以下だったためです。

グラフは、元のMLCC+アルミ電解コンデンサ構成(黒)と、置き換えたハイブリッドコンデンサ構成(ピンク)の周波数特性で、各実線がインピーダンス、破線がESR特性です。DC/DCコンバータのスイッチング周波数範囲の100kHz~300kHzにおける特性はESRとインピーダンスともにハイブリッドコンデンサ構成のほうが優れています。高周波ノイズが問題になる場合は、入力コンデンサの置き換えで示したように、小容量のMLCCを追加する対処が可能です。

周波数特性比較 ハイブリッド vs. MLCC

周波数特性比較 ハイブリッドvs.MLCCのグラフ img

まとめ

スイッチング電源回路の入力コンデンサや出力コンデンサとして使用されているMLCCを、ハイブリッドコンデンサで置き換えた事例を紹介しました。入力コンデンサと出力コンデンサ、どちらの事例も電源回路のスイッチング周波数が100kHz~300kHzであり、この周波数帯域においてはハイブリッドコンデンサ構成のインピーダンスやESRを、元のMLCC構成と同等以下にできることが代替を可能にした理由です。いずれにしても、電源回路全体としてのノイズやEMI要求を満足する必要がありますが、静電容量の大きなMLCCをハイブリッドコンデンサによって置き換えられる可能性を今回示しました。

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