高速差動データ伝送のコモンモードノイズと無線への内部干渉対策

 

2018-03-05

ノイズ対策

技術情報

高速差動データ伝送のコモンモードノイズと無線への内部干渉対策

 
 

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近年の急速なデジタルネットワーク機器の進化を支えるデータ通信においては、データ量の増大に伴う高速化や機器のモバイル化や小型化が進みセット機器内部のノイズがより複雑化しており、様々なノイズ対策方法の検討がされています。

ノーマルノイズとコモンモードノイズ

ノイズは大きく分けて「伝導ノイズ」と「放射ノイズ」分けることができます。そして、「伝導ノイズ」については、その伝わり方によって、「ノーマルモードノイズ」と「コモンモードノイズ」に分類することができます。

ノーマルモードノイズは、ノイズ電流が電源や信号源のラインを通って電子回路に至り、回路のグランドラインを通って電源や信号源に戻るループを描き、行きと帰りのノイズ電流の向きが逆になっています。このようなノーマルモードのノイズ電流による放射ノイズは、ノイズ電流のループ面積を小さくするようにしたり、コンデンサやインダクタやLCフィルタを入れたりすることで低減を図ります。

コモンモードノイズは、寄生容量などを通じて流れ出たノイズ電流が、電子機器のグランドプレーン等を経由して同様に寄生容量などを通じて戻ってくるノイズです。電流ノイズの向きが、電源や信号源ライン側(+)と回路のグランドライン側(-)で同じことから、コモンモード(同相)ノイズと呼ばれます。コモンモードノイズはグランドプレーンなどを大きなノイズ電流ループを描くため、ノイズ電流が小さくても大きなノイズ放射が起きることがあります。

近年のUSBやHDMIなどのデジタルデータ通信(有線)は非常に高速で、その多くが差動伝送方式を採用しています。それは、お互いに逆相で同じ振幅をもつ2つの信号間の伝送にすることで、ノーマルモードの放射ノイズが減少し、また、同相(コモンモード)ノイズがデータ通信ラインに重畳した場合、受信側で差分をとることでキャンセルするので外来ノイズやグランドの影響を受けにくく、高速データ伝送に適しているからです。
しかしながら、このようなメリットのある差動伝送においてもコモンモードノイズが発生する場合があり、昨今、差動伝送におけるコモンモードノイズ対策が非常に重要になっています。

例えば、右図に示すように、差動デジタルデータ信号においても、信号レベル異なる場合や、信号のタイミングのずれ(スキュー)などでバランスが崩れた場合にコモンモードノイズが発生します。しかもコモンモードノイズの周波数成分と差動デジタルデータ信号の周波数成分がほとんど同じような帯域にあり従来の周波数分離型のLCフィルタではフィルタリングができません。このようなケースでは、コモンモードノイズフィルタが有用になります。

ノイズの種類 特性 対策
ノーマルモード 電源/信号源と同一経路で、往復のノイズ電流の方向が逆 コンデンサ、フェライトビーズ、LCフィルタなど
コモンモード 往復経路でノイズ電流の方向が同じで、グランド等を伝わり大きなノイズ電流ループを描く コモンモードノイズフィルタ

コモンモードノイズフィルタとは

コモンモードノイズフィルタは、差動伝送路においてD+、D-に接続される2つのコイルを備え、2つのコイルは磁気結合された構造になっています。基本的な機能としては、差動信号は通過させコモンモードノイズは除去するフィルタです。また、差動信号のスキューを低減し、コモンモードノイズの発生を抑えます。

以下の図は、コモンモードノイズフィルタに差動信号とコモンモードノイズが入ってきたときに、どのような作用によりコモンモードノイズを除去するかを示しています。

内部模式図 信号/ノイズ 作用(コイル断面) 等価機能

D+、D-間で磁気結合

差動
(差動デジタル信号)

磁束はキャンセルされインピーダンスは低い

伝送線路

同相
(コモンモードノイズ)

磁束は強めあいインピーダンスは増加

インダクタ

差動信号の場合は、磁気結合回路においてD+信号とD-信号により発生した磁束がキャンセルされ、インピーダンスは発生しません。コモンモードノイズの場合は、D+信号とD-信号により発生した磁束は互いに強めあい、高いインピーダンスが発生します。つまり、コモンモードノイズフィルタは、差動信号に対しては伝送線路として働き差動信号を通過させ、コモンモードノイズに対してはインダクタとして働きコモンモードノイズの通過を阻止します。このように、D+とD-の伝送路間のコイルによる磁気結合構造によって、差動信号とコモンモードノイズを分離します。

また、コモンモードノイズフィルタは差動信号のスキューを低減し、コモンモードノイズを抑制する効果もあります。 コモンモードノイズフィルタは、1対のコイルが磁気結合した状態になっており、内部磁束の変化を打ち消すように働きます。右図はコモンモードノイズフィルタの内部の1対のコイルの磁気結合状態を示す等価図です。この図に示すように、スキューにより信号の立ち上り部に基づく磁束に変化がおきた場合に、それを打ち消すように、もう1つのコイルに誘導起電力が誘起され、スキューを低減しコモンモードノイズを低減します。

コモンモードノイズフィルタの使用例

コモンモードノイズフィルタの使用例を示します。下図はUSB2.0の放射ノイズの抑制効果を示したもので、コモンモードノイズフィルタをつけることで高調波ノイズが抑制されていることがわかります。 また、下図左は差動デジタル信号でスキューのある場合のD+,D-のデータを示しており、実際にコモンモードノイズが発生しています。これをコモンモードノイズフィルタに通すことによりスキューが低減され、コモンモードノイズも抑制させていることがわかります。

USBでの使用例を示しましたが、他にPC、ディスプレイ、デジタルカメラ、スマートフォンなど、様々な機器に採用されている各種高速差動データ伝送にコモンモードノイズフィルタは使用されています。

  • LVDS/MIPI/V-by-One/eDP

  • HDMI
     

  • LAN(100/1000Base-T)

Wi-Fiへの内部干渉対策

機器内部のデジタル信号ラインからのノイズが無線に干渉

スマートフォンやタブレットに代表される携帯端末には、カメラやLCDを制御するMIPIや、USBといったデジタル信号ラインがあります。また狭い筐体内に、セルラー、Wi-Fi、Bluetooth、GPSといった無線通信機能が搭載されています。下図に示すように近年のデジタル差動データ通信の伝送周波数帯は、無線通信の帯域とオーバーラップしていることがわかります。特に2.4GHz帯のWi-Fi(無線LAN)は、比較的低い周波数帯のためノイズの影響が大きく、さらに電子レンジなどにも使用されているISM帯であり非常に込み合った干渉が起こりやすい無線通信です。そのため、機器内のデジタル信号ラインからのノイズが無線通信用のアンテナに飛び込み、受信感度が低下することが問題になっています。

IoT機器にも内部干渉に対する対策が必要

同様に、近年様々な分野で広がりを見せているIoT機器に関しても同じことが言えます。特に、ディスプレイ、カメラ、USBなどを備えるマルチデバイスはスマートフォンやタブレットと同じで、2.4GHz帯Wi-Fiへの干渉に注意が必要です。
このような背景から、機器内のデジタル信号ラインからのノイズによる内部干渉対策の1つとして、コモンモードノイズフィルタがスマートフォンやタブレットに加えてIoT機器でも広く使われはじめています。

コモンモードノイズフィルタによる受信感度改善の例

このデータは、受信感度測定器を使い、シールドボックス内でスマートフォンのWi-Fi(無線LAN 11g)の受信感度を測定したものです。グラフは、カメラのMIPIデータラインとUSBのデータラインにコモンモードノイズフィルタのあり/なしでの受信感度を示しています。赤のトレースがフィルタなし、青がフィルタありです。受信感度は、スマートフォンが受信できた送信器(測定器)の送信電力とエラーレートの関係からの相対比較です。両方共に5dBmほど低い電波を受信できる改善が確認できます。

これはスマートフォンを使った実験ですが、これらの結果からも、高速差動データ伝送を行うデバイスと特に2.4GHz帯Wi-Fi無線が混在するIoT機器には、高速差動データ伝送ラインにコモンモードノイズフィルタを挿入することが効果的だと言えます。

実際のコモンモードノイズフィルタの特性

このような用途で使用する場合には、該当の無線通信帯域に入るノイズ発生を抑制するため、コモンモードノイズフィルタのノイズ減衰特性(周波数特性)は無線の周波数帯域をカバーしている必要があります。下表に、IoT機器向けの小型のコモンモードノイズフィルタの品番と代表特性図を示します。

Series P/N
for MIPI,USB
Size
(mm)
特 徴 フィルタ周波数特性

EXC14CT
series

0806
■Scc21高減衰
-10dB@0.3~4.5GHz
-20dB@1.2, 1.6GHz

※数値例はEXC14CT500

代表例 EXC14CT500U

EXC14CH
series

0806

■Sdd21低損失
-1.1dB typ.@2.5GHz
-2.2dB typ.@5GHz

■低直流抵抗
1.5Ω max

■Scc21広帯域減衰
-10dB@0.55-5GHz typ.

※数値例はEXC14CH350U

代表例 EXC14CH350U

EXCX4CH
series

0605

EXCX4CZ
series

0605

0806mm
サイズも
開発中

■Sdd21低損失
-0.6dB typ.@2.5GHz
-1.1dB typ.@5GHz

■Scc21高減衰
-30dBtyp.@2.4GHz

※数値例はEXCX4CZ200X

代表例 EXCX4CZ200X

フィルタ周波数特性の青のトレースは、差動信号の挿入損失を示しています。したがって、0dBであることが理想的です。赤のトレースはコモンモードノイズの挿入損失(減衰)を示しています。カバーしている帯域(広帯域/狭帯域)と減衰特性(減衰量)を検討して選択します。

まとめ

高速の差動データ伝送ラインからのコモンモードノイズが、機器内の無線デバイスのアンテナから侵入し、無線受信感度を低下させる内部干渉が問題化しています。この問題はIoT機器においても発生し、その改善対策の一つとしてコモンモードノイズフィルタが機器内の差動データ伝送ラインに広く用いられています。

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