パワー系インダクタ:メタルコンポジットタイプの優れた特性

 

パワー系インダクタ:メタルコンポジットタイプの優れた特性

2017-10-23

インダクタとは

インダクタは、抵抗器(R)とコンデンサ(C)に並ぶ重要な受動部品です。インダクタのシンボルには「L」が用いられます。この「L」は、電磁誘導に関する「レンツの法則」のレンツ(Lenz)に由来すると言われています(諸説あり)。基本的な構造は導線がコイル状に巻かれたもので、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し、インダクタ内部に蓄えることができます。蓄えられる磁気エネルギー量はインダクタンスで決まり、単位はヘンリー(H)です。

インダクタの基本特性

インダクタは、以下の基本特性を持っています。

  1. 電流が流れると磁界が発生し、逆に磁界が変化すると電流が流れる。
  2. 電気エネルギーを磁気エネルギーに変化させ蓄える。
  3. 直流は通すが交流は通しにくく、周波数が高いほど通しにくくなる。

①と②は関連する特性です。インダクタに電流を流すと磁界が発生し、この磁束は電流を止めてもそのまま残ります。これは、インダクタが磁化するためです。つまり、インダクタは電気エネルギーを磁気エネルギーとして蓄えることができます。

③の特性は、直流を印加した場合は単に導線として電流が流れますが、交流の場合は周波数が高いほど電流が流れにくくなります。これは、インダクタのインピーダンスに起因するものです。

インダクタのインピーダンス(Z)は、次式で表されます。
Z = R + j (2πf L)
またインピーダンスの絶対値は次式で計算できます。
|Z| =√R2+(2πf L)2
Z
インピーダンス [Ω]
R
直流抵抗成分 [Ω]
j
虚数
π
円周率 (3.14)
f
周波数 [Hz]
L
インダクタンス [H]

この式から、周波数fが高くなるとインピーダンスが大きくなり、電流が流れにくくなることがわかります。また、インダクタンスLが大きくなっても同様に電流が流れにくくなります。

インダクタの基本構造とインダクタンス

最も基本的なインダクタは、導線をコイル状に巻いたもので、導線の両端が外部端子になっています。近年は、コアを利用したコアに導線を巻いたものが大半を占めています。

インダクタの基本構造とインダクタンス graph

インダクタのインダクタンスは、以下の式で求められます。

L =

kμSN2

l

L
インダクタンス [H]
k
長岡係数
μ
コアの透磁率 [H/m]
N
コイルの巻数
S
コイルの断面積 [㎡]
l
コイルの長さ [m]

インダクタンス

この式からインダクタンスは、1)断面積Sを大きくする、2)巻数Nを増やす、3)コアを入れて透磁率を増す、ことで大きくなることがわかります。

インダクタの主な働き

実際にインダクタはどのような働きをするのか、先に示したインダクタの基本特性①、②、③を基に具体例を示します。

① 電流が流れると磁界が発生し、逆に磁界が変化すると電流が流れる⇒トランスの原理

一次側と二次側に2つの巻線を持つ構造例で、トランスと同じと考えることができます。一次側巻線に電流を流すと磁界が生じ、その磁界によって二次側巻線に電流が発生します。一次側巻線と二次側巻線の巻数比によって任意の電圧に変換できます。

トランスの原理 image

② 電気エネルギーを磁気エネルギーに変化させ蓄える⇒チョークコイルの原理

DC/DCコンバータのインダクタの例です。スイッチをオンにしてインダクタに電流を流すと磁界が生じ、インダクタには磁気エネルギーという形でエネルギーが蓄積します。
スイッチをオフにしてインダクタに流れる電流を止めると、蓄えられていた磁気エネルギーが放出され(磁界が変化し)、電流が流れます。

チョークコイルの原理 image

③ 直流は通すが交流は通しにくく、周波数が高いほど通しにくくなる⇒フィルタ作用

周波数によりインピーダンスが変化することで、交流の流れにくさが変化する性質を利用して、コンデンサと組み合わせてローパスフィルタやハイパスフィルタなどを構成することができます。

フィルタ作用 image

インダクタの主要スペック

インダクタの仕様や性能を示す主要なスペックを示します。規定条件がメーカーや商品によって異なりますので、データシートの注記などをよく確認する必要があります。

スペック例(パナソニック 車載用パワーインダクタ)
スペック項目 規定条件
インダクタンス(L値)[μH] 測定周波数(100kHz)に基づく
直流抵抗(DCR)[Ω] インダクタを構成する導体(銅線)の抵抗成分
定格電流:温度上昇(ΔT)[A] 直流電流印加時の温度上昇が40Kに至る電流定格値
定格電流:直流重畳(ΔL)[A] 直流電流印加時(直流重畳)にL値が初期値から30%低下する定格電流

インダクタの種類

インダクタには様々な種類があります。また、分類の仕方も観点によっていろいろです。下の図は、用途を信号系とパワー系として、それぞれを磁性体(コア)材料と工法によって分類したものです。
この中でパワー系インダクタは、近年の電源に対する大容量化、効率向上、小型化という市場要求に対して、キーアイテムの1つになっています。パワー系インダクタの磁性体(コア)材料はフェライトがポピュラーですが、近年のパワー系アプリケーションの課題に対するソリューションとして、コアに金属磁性体を使用したメタルコンポジットタイプのパワーインダクタが注目されています。

インダクタの種類 map

メタルコンポジットインダクタとは

メタルコンポジット(以下MC)タイプは現在、パワー系アプリケーション向けに展開されており、電源回路のDC/DC変換や入力フィルタに利用されています。

下の図は、パワー系のMCタイプとフェライトタイプ、そして信号系/高周波系インダクタのインダクタンスと許容電流(Idc)のカバレッジを示したものです。

MCタイプはフェライトタイプに対し、より大きな電流を扱えることがわかります。

<インダクタンス vs 許容電流>
インダクタンス vs 許容電流 inductance vs allowable current graph

メタルコンポジットタイプの特長

パナソニックのMCタイプのパワーインダクタは、独自の金属磁性材と一体成形構造の採用により、フェライトタイプに対し小型化と大電流化を可能にしながら、車載対応の高い信頼性を実現しています。

下の比較表が示すとおりフェライトタイプに比べ、インダクタの重要特性である磁気飽和特性、熱安定性、耐熱性、耐振性、ACR(交流抵抗)、振動うなり音量が優れていることが特長です。

フェライト品 MC品
磁気飽和特性と熱安定性

MCタイプとフェライトタイプの磁気飽和特性(=直流重畳特性)を、それぞれ25℃、100℃、125℃、150℃の条件別にプロットしたデータの一例を示します。磁気飽和特性は、インダクタに直流を印加した場合、ある電流値で磁気飽和が発生し急激にインダクタンスが低下する特性で、先の「主要スペック」でも示した重要特性の一つです。

一般的にフェライトタイプは、顕著な飽和特性を持っていることがよく知られており、グラフが示すとおりDCバイアスを大きくすると急激にインダクタンスが低下し、また温度によっても飽和特性は変動します。それに対してパナソニックのMCタイプは、飽和と見られる急激なインダクタンスの低下は発生せず、温度に対してもほとんど変動がありません。これは周囲温度の変動はもちろん、発熱をともなうパワー系インダクタでは重要なポイントです。

フェライトタイプvsMC glaph
耐熱性、耐振性

パナソニックのMCタイプインダクタは、車載アプリケーションに対応する高い信頼性を備えており、厳しい信頼性試験を実施しています。熱衝撃:-40℃⇔150℃/2000サイクル、および耐熱150℃/2000時間の信頼性が保証されています。以下に標準的な車載用試験項目および条件を示します。

信頼性試験例(車載標準)
試験項目 条件 試験回数/時間 判定基準
熱衝撃試験 -40(10分)/+150℃(10分) 2000サイクル
  • L値は初期値の±10℅以内
  • DCRは初期値の±5℅以内
  • 絶縁抵抗は10kΩ以上
  • 外観、構造に異常のないこと
  • 断線、機械的損傷のないこと
振動試験 10G(5Hz ~ 2kHz) XYZ(各4時間)
30G(5Hz ~ 2kHz)
高温寿命試験 150℃、DC定格A 2000時間
湿中寿命試験 85℃/85℅RH、定格電流 2000時間
耐寒試験 -40℃ 2000時間

※前処理条件 : 85±2℃、85℅RH、168h後、リフロエージング3回

交流抵抗(ACR)

導線に流す電流の周波数を高くすると表皮効果や近接効果によって電流は導線の表面部分に集まり、中心部分は低密度に、表面部分は高密度になります。これにより、高周波において抵抗成分は大きくなり、インダクタにおいてはこの増加した抵抗成分を交流抵抗(ACR)と呼びます。
下のグラフはMCタイプとフェライトタイプの交流抵抗(ACR)比較です。周波数が上がりACRが増加すると、交流損失が増加し発熱が大きくなります。グラフが示すように、MCタイプのACRの増加はフェライトタイプより小さく、よって高周波数でも損失=発熱が小さいことがわかります。

Mc vs フェライト ACR
振動うなり音量

インダクタは条件や構造によって、機械的な振動うなり音を発する場合があります。フェライトコアは、コアの急激な飽和を緩和するために構造にエアギャップを設けている場合が多く、このエアギャップが振動うなり音の大きい要因になっています。パナソニックのMCタイプは、一体成形構造のためエアギャップが存在せず(「メタルコンポジットタイプの特長」の構造図参照)、振動うなり音は小さくなっております。フェライトのタイプとの比較においては約20dB=1/10になっています。

可聴帯域駆動時のBUZZ NOISE比較

メタルコンポジットタイプのアプリケーションと今後

MCタイプは、前述のように優れた特性と高い信頼性を持つことから、車載アプリケーションに広く採用されています。基本的に様々なECUの、電源回路のDC/DC変換部や入力フィルタに使用されています。

パナソニックでは今後、MCタイプのバリエーションを拡充し、他の車載アプリケーションに展開していく予定です。

MCタイプパワーインダクタのアプリケーション例
MCタイプパワーインダクタのアプリケーション例

この記事に関する製品情報

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