5G 移動体通信の可能性と技術課題 (4) ~ ローカル5Gの概要とスマートファクトリー ~

 

5G移動体通信の可能性と技術課題(4)
ローカル5Gの概要とスマートファクトリー

2021-01-26

5G移動体通信の可能性と技術課題の4回目となる今回のコラムでは、事業者や自治体が所定のエリアを対象に自前で構築できるローカル5Gを取り上げます。

事業者や自治体などが独自に構築できるローカル5G

2020年3月から国内でサービスが始まった5G。これまでの技術講座でも説明してきましたように、「超高速」(下り20Gbps・上り10Gbps)、「超低遅延」(片道1ms)、「多数同時接続」(1km2あたり100万台)という三つの大きな特徴があり、それらを生かした新しいアプリケーションの登場に期待が集まっています。

5Gにはもうひとつの新しい特徴があります。それは、通信事業者(いわゆるキャリア)以外の事業者あるいは自治体などが、限定したエリアでサービスを行う「ローカル5G」を、構築、提供できることです。ローカル5Gは、IT技術の活用によって効率化や利便性の向上を目指すスマートファクトリー、スマートプラント、スマート農業、スマートキャンパス、スマートシティなどを実現する要素技術のひとつとして捉えられているほか、建設現場の無人操縦やさまざまな監視による防災減災への活用が検討されています (図1)。
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図1. 5ローカル5Gの利用イメージの一例 (出典:総務省)

左上:建設現場での建機や重機の遠隔操作
左下:工場でのセンシングやロボットの遠隔制御
右上:農業の効率化
右下:防災・減災のセンシング

移動体通信を管轄する総務省もローカル5Gを重要戦略のひとつとして位置付けていて、周波数帯の割当、制度整備、実証実験の推進、インフラ整備の支援などを進めています。また、「サイバー空間 (仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と内閣府が定義する「Society 5.0」において、ローカル5GはICT地域インフラとしての役割が謳われています。

基地局 (RAN)やコアネットワーク(5GC)の構成は基本的に通常の5Gと変わりませんが、通常の5Gほどのトラフィックは発生しないと考えられるため、より簡易的に構築できるシステムの開発が進められています。また、そうした機器を利用してローカル5Gをサービスとして提供する事業者も登場しています。

超高速・超低遅延・多数同時接続を享受できるローカル5G

ローカル5Gを構築するメリットを挙げてみましょう。

  1. 5Gの特徴である「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」を活用することができます。「超高速」を利用した4Kクラスの高精細画像の収集、「超低遅延」を利用したリアルタイムに近い遠隔制御、「多数同時接続」を利用した多数のセンサーノード(エッジノード)の設置、などが考えられます。
  2. 一般の5Gはキャリアの設備計画に従い基地局が設置されサービスが提供されますが、ローカル5Gであれば事業者のニーズに応じて基地局を設置することができます。
  3. ローカル5Gは、初期投資こそ必要ですが、電波利用料が基地局1基あたり2,600円/年、端末1台あたり370円/年と安価です。通常の5Gを使用して月額通信料をキャリアに支払う場合に比べて、運用コストを抑えられます。
  4. 通常の5Gで万が一通信障害が発生しても影響が及びません。

スマートファクトリーの進化を促すローカル5G

ローカル5Gのアプリケーションのひとつがスマートファクトリーです。工場内の機器や設備のセンシングおよび遠隔制御を通じて、無駄の排除、品質の改善、使用エネルギーの節減、設備等の故障検知や予防保守、ロボットなどの設備の自律制御などを実現するのが狙いで、すでに一部で実証実験も始まっています。

ローカル5Gの使い方の好例が自律型ロボットや自律型無人搬送車(AGV)の遠隔制御です。ロボットや搬送車に装着した高精細なカメラ映像をローカル5G経由でサーバー(またはクラウド)に送り、サーバー側で周囲のマップを作成し、自律的かつ安全な移動制御をする、またロボットが把持する対象物をサーバー側で認識して作業指示を送る、といった応用が考えられます。

労働者人口の減少も背景に、自律型ロボットや自律型無人搬送車は今後大きく導入が進むと見られていて、とくに作業者と並んで作動する協働ロボットに注目が集まっています。また、ラインの自動化もさらに進むでしょう。

そのため今後は、ロボットやAGVのコントローラ、モーターコントローラ、自動化ラインを制御するPLC等がより多く必要になると見込まれ、それらには、さらなる高性能化、高精度化、ローパワー化 (ファンレス)、および小型化が求められていくでしょう。

また、ロボットや自律型無人搬送車においては、周囲の人や物に危害や損害を与えないよう安全対策が義務化されています。産業機器全般を対象にしたIEC 61508、PLC向けのIEC 61311-6、電子制御モーター向けのIEC 61800、生活支援ロボット向けのISO 13482など、さまざまな機能安全規格が定められていて、「安全関連システム」というサブシステムを搭載するか安全機能を司る安全PLCを組み合わせる必要があります。

コントローラやPLCの台数の増加、それぞれの性能要件や精度要件の高度化、安全機能の実装などを背景に、高性能かつ高信頼な電子デバイスへのニーズがますます高まっていくと見込まれます。パナソニックが提供する導電性高分子アルミ電解コンデンサ (SP-Cap)、導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ (POSCAP)、大電流対応高信頼性パワーインダクタ (PCC)などの部品は、こうした目的に最適と言えます。

通信設備やコントローラの需要が拡大

5Gの概要を4回にわたって説明してきました。2020年3月にサービスが開始されて以来、5G対応のスマートフォンの機種数も増え、サービスエリアも広がり始めています。また、ローカル5Gについては、いくつかの事業者が試験的なサービスを開始するとともに、工場を持つメーカーなどと連携して実証実験が進められている段階です。

今後、1年から3年程度の間に5Gのメリットがフルに得られるスタンドアロン (SA)での運用も始まる予定であり、5Gおよびローカル5Gの普及や活用に伴って、第2回で説明した基地局 (RAN)、第3回で説明したコアネットワーク (5GC)、今回説明したコントローラやPLC、5G対応の端末装置 (エッジ装置やゲートウェイ)など、機器や設備の市場は大きく成長していくでしょう。また、関連サービスやアプリケーションを提供する新たなプレーヤーの参入も予想されます。

5Gおよびローカル5Gのこれからの発展と応用拡大に注目です。

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5G移動体通信の可能性と技術課題
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