熱対策の基礎知識(2)
~熱対策が必要になる背景~
2019-02-18
はじめに
熱対策は、機器やシステムの特性や寿命、そして安全性を確保するための重要検討事項です。「熱対策の基礎知識」では熱対策を行うための基礎的な知識を、「熱の基礎知識」、「熱対策が必要になる背景」、「熱設計と熱対策」の3回に分けて解説しています。今回は2回目の、「熱対策が必要になる背景」です。
高まる熱対策の重要性
事例として以下のものが挙げられます。
・同一性能の部品の小形化による熱抵抗の上昇。
・半導体素子の処理速度アップによる発熱量の増加。
・半導体集積回路の微細化(集積度アップ)による発熱量の増加
熱が部品や機器に与える影響
部品や機器が高温になることがよくないことは、感覚的に理解できると思います。発熱して高温になる、また、近接する発熱体の高熱に曝されることにより、どのような問題が生じるのか示します。熱による問題は、「機能的問題」、「機械的問題」、「対人的問題」に分類することができます。
1. 機能的問題
電子部品は基本的に動作温度が高くなると寿命が短くなります。例えばアルミ電解コンデンサでは、温度が10℃上昇すると寿命が半分になることが知られています。これは、コンデンサの電解液が封口ゴムに拡散する速度が熱によって加速されるためです。結果として静電容量が大きく低下して、回路が必要とする静電容量が不足することから回路動作に不具合が生じます。
下のグラフは、105℃,2000時間保証のアルミ電解コンデンサの動作温度と推定寿命の例です。グラフが示す通り、温度が高くなると推定寿命が短くなり、前述のようにアルミ電解コンデンサは10℃の温度上昇に対して推定寿命は半分になります。
このように、熱は部品の機能に影響を与え寿命を縮めることから、信頼性に影響を与える重要なファクタになっています。
2. 機械的問題
複数の部材から構成される構造物、例えば電子部品やモジュール、それらを実装したプリント基板などには、温度上昇によって熱応力が生じます。これは各部材の熱膨張率が異なるためで、単純には熱膨張率の差が大きい部材の組み合わせでは熱応力は大きくなります。常温(または低温)状態と高温状態の繰り返し、つまり熱応力の繰り返しにより熱疲労が発生し、機械的な劣化や破壊が発生します。熱は機械的ストレスとなり部品の劣化や故障を誘発し信頼性に影響を与えます。
3. 対人的問題
人が高温になっているものに触れるとやけど(火傷)を負います。また近年では低温やけどが問題になっており、痛みをともなわず気づかないうちに進行することが多いことから、通常のやけどよりも重症化する場合が多いやけどです。
身近な例では、こたつや湯たんぽやカイロのほか、スマートフォンなど携帯型情報機器の事例も報告されています。スマートフォンを長時間ポケットに入れていたところ、スマートフォンの発熱によって低温やけどになったという例です。44℃という熱めの温泉程度の温度でも、6時間以上皮膚に作用すると低温やけどを起こす可能性が確認されています。このように、人が触れたり携帯したりする機器が熱を持つことは、人体に対する安全性の問題を含むことになります。また、発熱から発火し、火災の原因になることもあります。
熱が社会や企業活動に及ぼす影響
前述の熱による機能的問題、機械的問題、対人的問題が及ぼす影響は、部品や製品に対してだけではありません。例えば家電では人がやけどを負ったり、火災の発生により家、財産どころか人命までを失ったりする可能性があります。
大量に販売された製品が問題を起こすことは社会的な問題にもつながります。そして、その製品を販売した企業のイメージは当然ながら悪くなり、リコールや賠償などの多額の出費が生じ、内容によっては法律で罰せられ、大きな社会的責任も負うことになります。
まとめ
近年、機器やシステムの小型化(部品の高密度化)や高性能化にともなって、セットがより高温化する傾向にあります。熱の発生は、製品やシステムに問題を起こし、それは、企業および社会にまで影響を及ぼす可能性があります。したがって、熱対策は製品の性能や信頼性を確保するだけではなく、社会や企業活動に及んで非常に重要であると言えます。
次回は、熱設計と熱対策に関する解説をします。