熱対策の基礎知識(1)
~熱の基礎知識~
2019-01-21
はじめに
熱対策は、機器やシステムの特性や寿命、そして安全性を確保するための重要検討事項です。必要な熱対策を行うための基礎知識として、「熱の基礎知識」、「熱対策が必要になる背景」、「熱設計と熱対策」の3回に分けて解説をして行きます。今回はその1回目として熱に関する定義や用語などを解説します。
熱の基礎知識
熱対策を行うには、熱とは何なのか、その特性、定義や単位などの基礎的なことを知っておく必要があります。
1. 温度と熱
温度とは、物体の熱さや冷たさを示す尺度です。セ氏温度であれば℃、カ氏温度では℉という単位を使い、例えばお風呂の湯温(水の温度)は38℃と42℃であれば42℃の方が熱いということを温度によって示すことができます。辞典などには熱力学的な定義も解説されていますが、ここでは、とりあえず冷温の程度を示す尺度と理解してください。
熱とは、高温部から低温部へ移動するエネルギーで、物体に出入りしてその温度を変化させます。例えば、カップに熱湯を注ぐとカップが熱くなるのは、熱湯(約100℃)の熱=エネルギーがカップ(例えば室温)に移動するからです。
2. 熱量、ジュール
熱量とは、物体間でのエネルギーの流れ、つまり熱の量を数値化したものです。記号はQ(heat QuantityのQ)を使い、単位はJ(ジュール)です。
ジュールとは、物体に力を加え移動させる仕事に必要なエネルギーの量を示す単位です。ジュールはエネルギー量の他に仕事、熱量、電力量の単位としても使われます。例えば、1Jは仕事の1N・m(ニュートン・メートル)に換算できますが、意味することは同じです。
3. 発熱量
発熱量とは、単位時間あたりの熱の発生量や移動量です。熱量の単位はジュール(J)ですが、発熱量には主にワット(W)を使用します。ワットはジュールと時間(秒)で定義されます。
- W=J/s
- W
- 発熱量
- J
- エネルギー量
- s
- 時間(秒)
ちなみに、熱量の単位の1つである「カロリー」の基本的な定義は、「1gの水の温度を標準大気圧下で1℃上げるのに必要な熱量」です。また、1カロリーは、4.184Jになります。
4. 比熱と熱容量
比熱とは、物質1gの温度を1℃上昇させるときに必要な熱量のことです。
記号はcが使われ、単位は、J/K・gです。(K:絶対温度(+1℃ = +1K))
比熱は物質ごとに異なります。
熱容量とは、ある一定量の物質の温度を1℃上昇させるときに必要な熱量のことです。記号はCが使われ、その物質の比熱にグラム数を掛け算した値になります。
5. 熱の性質:熱移動(伝熱)、熱平衡
重要な熱の性質として、以下の2つがあります。
・熱は必ず高温側から低温側の物質に伝わる
⇒ 熱移動(伝熱)
・両者の温度が等しくなると、熱移動しなくなる
⇒ 熱平衡
これらは日常的に経験していることですので、すぐにイメージできると思います。熱が高温側から低温側に伝わることを熱移動または伝熱と言います。両方の温度が同じなると熱の移動が止まり、これを熱平衡(ねつへいこう)状態と言います
6. 熱移動の種類
熱移動(伝熱)には3つの種類があります。物質が熱を運ぶ「熱伝導」と「対流」、電磁波で熱が伝わる「熱放射」です。焚き火の図がそれぞれをわかりやすく示しています。焚き火は発する熱は、金属の棒を媒介として伝わり(熱伝導)、暖まった空気が上昇する(対流)ことで手に届き、同様に放射(熱放射)によっても手に届きます。
熱伝導
熱の特性に従い、熱は高温側から低温側へ伝導します。熱は、気体より液体、液体よりは固体の方が伝導しやすくなります。
高温
低温
気体 < 液体 < 固体
熱伝導率は、長さ1m当り1℃の温度差がある場合、単位時間1secで単位断面積1m2を移動する熱量であり、単位は(W/m・K)です。熱伝導率の数値が大きいほど熱が伝わりやすいことを意味します。熱伝導率は物質によって異なります。また先ほど記した、「熱は気体<液体<固体の順で伝わりやすい」というのは、熱伝導率が気体<液体<固体の順で高いということです。もちろん、固体の中でも種類によって熱伝導率は異なります。
以下に、各種材料の熱伝導率を示します。
対流
高温
低温
熱放射
機器の冷却における熱伝導、対流、熱放射の役割
熱伝導:温度の均一化に寄与
対流:平均温度の低減に寄与(放熱量約80%)
熱放射:対流の補助的役割(放熱量約20%)
この例では、熱伝導により電子部品が発する熱は実装基板に伝導し分散します。部品および実装基板の熱により対流が起こり、周囲温度が平均化することで温度が下がります。この場合、実装基板の熱放射は対流の補助的役割をします。
まとめ
熱対策を行うための基礎として、熱の基本特性と用語を中心に解説してきました。熱は比較的身近なものなので、日常における経験などと照らし合わせることで、特性などはイメージしやすかったと思います。
用語の意味に関しては、重要なポイントをピックアップして簡潔に記しました。もし、詳細が必要な場合は辞典などを併用してください。次回は熱対策がなぜ重要なのか、その背景などを含めた内容を予定しています。