コンデンサの歴史と選び方(前編)
2025-5-26

本記事では、パナソニックインダストリーが販売する一般電解コンデンサと導電性高分子コンデンサ商品について、その成り立ちと主要な機器への採用理由を振り返りながら、それぞれの商品の特長と使い分けについて解説していきます。
1. パナソニックの一般電解コンデンサと導電性高分子コンデンサ
まず、コンデンサの分類を簡単に振り返ります。下記の図のように最も基本的なコンデンサの種類の一つとして、アルミやタンタルなどの一般電解コンデンサがあります。そして、一般電解コンデンサの発展形として登場したのが導電性高分子コンデンサです。

パナソニックインダストリーは一般電解コンデンサと導電性高分子コンデンサについて、小型・面実装品を中心に以下の5つの商品を展開しています。
- 一般アルミ電解コンデンサ 巻回型
- 導電性高分子アルミ電解コンデンサ 巻回型(OS-CON)
- 導電性高分子アルミ電解コンデンサ チップ型(SP-Cap)
- 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ 巻回型
- 導電性高分子タンタルコンデンサ チップ型(POSCAP)
それぞれの特長・使い方への理解を深めるために、商品・用途展開の経緯を踏まえながら解説していきます。
2. 一般電解コンデンサから導電性高分子コンデンサへの進化と用途展開
2-1. 電解コンデンサの登場(1970年代以前)
電解コンデンサは1930年代に商業的な量産が開始され、その後大容量化が進展していきました。大容量化においては様々なノウハウが用いられていますが主要な手法として、アルミ電解コンデンサではアルミ箔のエッチング微細化、タンタル電解コンデンサではタンタル粉末微細化により、電気を蓄える誘電体の表面積を拡大することで大容量化が更新されていきました。大容量化の結果、サイズの小型化も進んでいきました。パナソニックでは1970年からアルミ電解コンデンサを量産しています。
2-2. 一般電解コンデンサの普及(1980年代)
電解コンデンサは一般的なコンデンサの種類としての地位を確立し、様々な電子機器に使用されるようになりました。その採用理由は多くの場合、他種のコンデンサと比べて大容量を得やすい点にあると言えます。1980年代においては、ビデオデッキ、CDプレイヤー、家庭用ゲーム機などオーディオ・ビジュアル機器が普及しました。これらの機器の中には小型の一般電解コンデンサが多く使用されました。

2-3. 導電性高分子コンデンサの普及(1990年代)
1990年代においては、DVDプレイヤー、MDプレイヤー、新型家庭用ゲーム機など、1980年代に普及したオーディオ・ビジュアル機器が更なる高性能化を遂げました。また、1990年代後半からはWindows 95の発売を契機に、PCが普及していきました。これらの機器に搭載された高性能な半導体では、回路微細化による動作電圧の低下などにより、よりシビアな電源安定化が求められるようになっていました。
この頃、この課題を効果的に解決できることで普及が進んでいたのが、一般電解コンデンサの発展形である有機半導体コンデンサです。この種類のコンデンサは1983年に「OS-CON」という名称で三洋電機(現パナソニック)が世界で初めて量産を開始し、その後材料の改良により1999年に導電性高分子コンデンサへと移行しました。これらのコンデンサは従来の一般電解コンデンサと同等の大容量に加え、低い内部抵抗(低ESR)を実現したことで、より少ない員数で電源安定化を達成し、機器の高性能化・小型化実現への選択肢を提示しました。また、同時に固体電解質であることで機器の信頼性向上というメリットも提示しました。
例えば、初期のデスクトップPCでは多くの一般電解コンデンサが使用されていましたが、OS-CONに置き換わっていきました。CPUの高性能化により電流・発熱が大きくなっていく中、一般電解コンデンサでは、員数が増加したり、一部製品において液漏れ不具合が多発したためです。OS-CONはこのような優れた特性・信頼性が認知されることで、産業機器や通信機器などの様々な用途への活用が広まっていきました。


2-4. 低背チップ型導電性高分子コンデンサの普及(2000年代)
2000年代においては、BDプレイヤー、MP3プレイヤー、高性能家庭用ゲーム機、薄型テレビといったように、オーディオ・ビジュアル機器の進化が引き続き進みました。しかし、この時期の電子機器の関心の中心はPCの進化でした。PCは、オーディオ・ビジュアル機器同様に映像・音楽・ゲームが楽しめる万能性に加え、インターネットとの連携により膨大なコンテンツへのアクセスが可能となったためです。その利便性を最大に活用するために、会社および家庭の両面においてPCを携行する需要が向上していき、2000年代はノートPCの需要がデスクトップPCを追い抜くこととなりました。
当然ながら、ノートPCはより薄く軽い製品が好まれます。従来のデスクトップPCにはOS-CONが一般的に使用されていましたが、多くのノートPCにおいてはその背の高さがネックとなりました。一方、従来の一般タンタル電解コンデンサは低背製品があり、部品高さ要求には適合していましたが、ESRが大きく、材料に酸素を含むことで偶発的に発火する不具合が認知されていたため、選択肢とはなりませんでした。このような状況の中、課題を解決し広く普及したのが、1990年代から量産が始まっていた低背チップ型の導電性高分子コンデンサです。世界初の量産製品はパナソニックの「SP-Cap」で、1990年に量産が開始されました。その後、三洋電機(現パナソニック)からは同様な低背チップ型の製品として「POSCAP」が1997年から量産されました。
両者の用途はオーバーラップする部分がありますが細かな違いがあり、使用箇所・目的によって使い分けられています。SP-Capはアルミ積層構造により低ESRを得意とするため、特に大電流プロセッサへの電源出力電圧の安定化を目的として活用されています。一方、POSCAPはタンタル粉末技術・焼結体構造により高い容量密度を発揮し、小型サイズ・高耐圧化への対応も得意としており、特に実装面積・高さ制限が厳しい小型機器や電源入出力で最適なものとなっています。



2-5. 導電性高分子コンデンサの需要拡大(2010年代)
PCは仕事や個人において情報処理のための高性能なツールとして需要が続いていきましたが、2010年代においては、使い勝手の面でより優れたスマートフォンが情報通信端末の主役として特に普及しました。スマートフォンの前身である携帯電話は1980年代から存在しており、その後小型化が進んで普及していきましたが、PCと比べると万能なものではありませんでした。ところが、2010年代に通信網とスマートフォンの高性能化によって動画・ゲーム・SNSも楽しめる端末となり、PCよりも携帯性や電源面での利便性が高いことから急速に普及していきました。しかし、スマートフォンの利便性は機器単体によるものではなく、多くのアプリケーションやサービスはクラウド上のサーバーやストレージ機器との連動が欠かせないものとなっています。また、クラウドとスマートフォンを繋ぐための基地局・通信機器も不可欠です。これらの機器では、スマートフォンの爆発的な普及による通信量・情報量の急増に対応するために、年々より高性能なプロセッサを使用するようになりました。PCやスマートフォンよりも高い温度で動作するため、コンデンサには高い信頼性と電源安定化能力が求められます。そのため一般電解コンデンサより、SP-Cap、POSCAP、OS-CONのような導電性高分子コンデンサが標準的な選択肢となりました。

2010年代は、導電性高分子コンデンサの有用性が様々な車載機器に展開していった時期でもあります。背景にあるのは燃費向上・安全性向上・環境保護などを目的とした電装化の進展です。油圧・機械制御系の置き換えに始まり、走行動力として電池・モータを搭載したxEVへの移行、ADAS(先進運転支援システム)の搭載など、車に搭載される電子回路が増加していく中で、限られた実装サイズと重量をクリアするために従来使用されていた一般電解コンデンサの小型化・員数削減が求められていました。電子回路増加により大電流化への対応が必要となる他、車載機器ではバッテリの節約やショートの防止などの安全性も求められます。パナソニックはこの要求に対応して、導電性高分子コンデンサと一般電解コンデンサとの融合形であるハイブリッドコンデンサの量産を2012年に開始しました。ハイブリッドコンデンサは導電性固体電解質と液体電解質の両方を保持することで、低ESRと低漏れ電流(高い絶縁修復性)の両立を実現しました。その結果、前述の要求を満足し、様々な車載機器におけるLCフィルタ、DC/DCコンバータ、インバータなどへ普及しました。また、従来の導電性高分子コンデンサと同様に、産業機器・情報通信インフラなどにも採用されていきました。

