5G移動体通信の可能性と技術課題(2)
基地局の概要と構成
2020-08-24
今回は、5G移動体通信の可能性と技術課題の2回目として、無線アクセスネットワーク (RAN) を構成する基地局を取り上げ、その概要と構成について解説します。
無線アクセスネットワーク (RAN) を構成する基地局
超高速 (下りピーク20Gbps) 、超低遅延 (片道1ms) 、多数同時接続 (1km2あたり100万台) の三本を柱とする5G (第5世代移動通信システム) は、従来の3Gや4Gと同様に、大きく次の三つの要素で構成されています。
- スマートフォンや通信モジュールなどの端末機器
- アンテナや基地局で構成される無線アクセスネットワーク (RAN)
- ルーティングなどさまざまな制御を行うバックエンドのコアネットワーク (CN)
このうち基地局は「RAN (Radio Access Network) 」と呼ばれる部分を構成していて、端末機器とCNとを結ぶ役割を担います (図2) 。
RANは、4Gでは無線周波数 (RF) を処理するRRH (Remote Radio Head) 部と無線周波数 (RF) 以外を処理するBBU (Base Band Unit) 部で構成されていました。5Gでは、伝送性能や低遅延などの要件を満たすために3GPP (Third Generation Partnership Project) によって見直しが行われ、おおまかには、BBUの機能を「DU」 (Distributed Unit) および「CU」 (Centralized Unit) に配置し、RRHの機能を「RU」 (Radio Unit) に配置する構成に変更されました (図3) 。
一般に言われる基地局は、ほとんどがRUのみを設備として持つ「子局」として設置されています。一方、DUおよびCUを備える基地局は「親局」と呼ばれ、子局とは「フロントホール」と呼ばれるネットワークで接続されます。親局と子局とはフロントホールに光ファイバを使えば数km離れていても遅延上は問題ないとされています。
なお、RU/DU/CUの三つのブロックをどのように子局と親局に分割するか (ファンクション・スプリット) は、フロントホールの容量、遅延、消費電力などをファクターにいくつかの案が考えられ、上述のようにRUとDU+CUとに分割する方法もあれば、RU+DUとCUとに分割する方法もあります。もっとも標準的なのが、3GPPが定めたoption 7をベースに、RANの仕様を策定する業界団体であるOpen RAN Alliance (O-RAN) によって定められた「O-RAN split option 7-2x」の構成です (図4) 。
なお、RU/DU/CUの三つのブロックをどのように子局と親局に分割するか (ファンクション・スプリット) は、フロントホールの容量、遅延、消費電力などをファクターにいくつかの案が考えられ、上述のようにRUとDU+CUとに分割する方法もあれば、RU+DUとCUとに分割する方法もあります。もっとも標準的なのが、3GPPが定めたoption 7をベースに、RANの仕様を策定する業界団体であるOpen RAN Alliance (O-RAN) によって定められた「O-RAN split option 7-2x」の構成です (図4) 。
すべての子局に設置されるRUに求められる要件
RANを構成するRU、DU、CUのうち、無線周波数 (RF) を扱うのがRUです。送信においてはデジタル信号をアナログ信号に変換しアンテナから送出、受信においてはアンテナが受信したアナログ信号をデジタル信号に変換したのち、フロントホールを介してDUに送ります。
アレイ型のパターンを持つMassive MIMOアンテナを用いて、端末に対して指向性のある電波を送るビームフォーミング制御もRUが担います。一方で変復調処理などはRUではなくDUが行います。
さて、本講座の第一回目で説明したように、5Gには周波数帯として、3.7GHz帯 (n77/n78バンド) 、4.5GHz帯 (n79バンド) 、および28GHz帯 (n257バンド) が割り当てられています。ちなみに4Gは700MHz帯から3.5GHz帯です。
電波は周波数が高いほど直進性が強くなるため建物や街路樹などの陰に届きにくく、さらに空気中のチリや水分も吸収されやすくなります。そのため、高い周波数帯を用いる5Gは子局あたりのカバーエリアが狭く、4Gの数倍から10倍以上の子局を設けてエリアカバレッジを確保しなければなりません。
一方で、新規にアンテナを建てられる場所は限られているため、新たな策として、全国に20万基ほどある信号機のほか、マンホールの蓋、オフィスのガラス窓などに5Gアンテナを設置する案が検討されています。とくに信号機に設置すると自動運転のV2I (Vehecle-to-Infrastracture) などにも適用しやすいため、政府が2019年6月に定めた「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」の中で重点方針のひとつとして明記されています。
結果的に、RUは延べ台数が多くなるとともに、多様な場所に設置されることになります。そのため、メンテナンスの容易さや耐環境性がより一層求められることになるでしょう。具体的には、高耐熱・高信頼性部品の採用、メカ部品であるファンを用いない設計、処理性能を維持しながらも発熱を抑えるローパワー設計、基板や筐体の放熱設計、防水・防滴、リモートまたはRU自身による診断機能や修復機能などが求められます。
なお、パナソニックでは、この高耐熱・高信頼性要求に対応したコンデンサ(導電性高分子コンデンサ)や高信頼性パワーインダクタ(商品名:車載用パワーインダクタ)、及びファンレスに対応した高熱伝導シート(商品名:Graphite TIM)などを取り揃えています。
アレイ型のパターンを持つMassive MIMOアンテナを用いて、端末に対して指向性のある電波を送るビームフォーミング制御もRUが担います。一方で変復調処理などはRUではなくDUが行います。
さて、本講座の第一回目で説明したように、5Gには周波数帯として、3.7GHz帯 (n77/n78バンド) 、4.5GHz帯 (n79バンド) 、および28GHz帯 (n257バンド) が割り当てられています。ちなみに4Gは700MHz帯から3.5GHz帯です。
電波は周波数が高いほど直進性が強くなるため建物や街路樹などの陰に届きにくく、さらに空気中のチリや水分も吸収されやすくなります。そのため、高い周波数帯を用いる5Gは子局あたりのカバーエリアが狭く、4Gの数倍から10倍以上の子局を設けてエリアカバレッジを確保しなければなりません。
一方で、新規にアンテナを建てられる場所は限られているため、新たな策として、全国に20万基ほどある信号機のほか、マンホールの蓋、オフィスのガラス窓などに5Gアンテナを設置する案が検討されています。とくに信号機に設置すると自動運転のV2I (Vehecle-to-Infrastracture) などにも適用しやすいため、政府が2019年6月に定めた「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」の中で重点方針のひとつとして明記されています。
結果的に、RUは延べ台数が多くなるとともに、多様な場所に設置されることになります。そのため、メンテナンスの容易さや耐環境性がより一層求められることになるでしょう。具体的には、高耐熱・高信頼性部品の採用、メカ部品であるファンを用いない設計、処理性能を維持しながらも発熱を抑えるローパワー設計、基板や筐体の放熱設計、防水・防滴、リモートまたはRU自身による診断機能や修復機能などが求められます。
なお、パナソニックでは、この高耐熱・高信頼性要求に対応したコンデンサ(導電性高分子コンデンサ)や高信頼性パワーインダクタ(商品名:車載用パワーインダクタ)、及びファンレスに対応した高熱伝導シート(商品名:Graphite TIM)などを取り揃えています。
DUとCUは汎用サーバーを用いた仮想化 (vRAN) へと進化
新たな技術トレンドとして登場しているのが、「vRAN」 (virtual RAN) と呼ばれるRANの仮想化です。DUとCUをそれぞれ専用の機器で構成すると、特定のベンダーに縛られるいわゆるベンダーロックインの問題が生じたり、機能の柔軟な変更や拡張が難しいといった課題が浮上します。
そこで、サーバーなどの汎用ハードウェア上にソフトウェアによって機能を実装することで、マルチベンダー化や柔軟な機能拡張に対応しようとvRANが構想されました。こうした仮想化はCNでは以前から行われてきましたが、汎用サーバーの性能向上やソフトウェアアーキテクチャの進化などを背景に、RANへの適用が始まっています。
ハードウェアがきわめて高い性能を持っていれば、一台のサーバーの上にDUとCUの両方を搭載することも可能になり、親局設備の小型化も図れます。 (初期の段階では、変復調を扱わないCUのみを仮想化したり、CUとDUをそれぞれ異なる汎用ハードウェア上に仮想化する手法が採用される見込みです。)
今後vRANは、親局に置いた物理サーバーをプライベートクラウドとして運用し、仮想CU (vCU) や仮想DU (vDU) のアプリケーションをマイクロサービスやコンテナといったテクノロジーを用いて動作させる「クラウドネイティブ・アーキテクチャ」へと進化していくでしょう。さらに物理サーバーを親局に置かない形態へと発展する可能性もあります。
vRANが普及することで、CNにおけるサーバー設備と合わせて、サーバーの需要増が見込まれます。
次回はCNとサーバーについて取り上げます。
※本稿は一般的な情報に基づいており、キャリア各社の実際の実装とは異なります。
そこで、サーバーなどの汎用ハードウェア上にソフトウェアによって機能を実装することで、マルチベンダー化や柔軟な機能拡張に対応しようとvRANが構想されました。こうした仮想化はCNでは以前から行われてきましたが、汎用サーバーの性能向上やソフトウェアアーキテクチャの進化などを背景に、RANへの適用が始まっています。
ハードウェアがきわめて高い性能を持っていれば、一台のサーバーの上にDUとCUの両方を搭載することも可能になり、親局設備の小型化も図れます。 (初期の段階では、変復調を扱わないCUのみを仮想化したり、CUとDUをそれぞれ異なる汎用ハードウェア上に仮想化する手法が採用される見込みです。)
今後vRANは、親局に置いた物理サーバーをプライベートクラウドとして運用し、仮想CU (vCU) や仮想DU (vDU) のアプリケーションをマイクロサービスやコンテナといったテクノロジーを用いて動作させる「クラウドネイティブ・アーキテクチャ」へと進化していくでしょう。さらに物理サーバーを親局に置かない形態へと発展する可能性もあります。
vRANが普及することで、CNにおけるサーバー設備と合わせて、サーバーの需要増が見込まれます。
次回はCNとサーバーについて取り上げます。
※本稿は一般的な情報に基づいており、キャリア各社の実際の実装とは異なります。
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