チップ抵抗器の採用事例(2)

2022-4-18

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チップ抵抗器の採用事例(2)
~高耐熱のチップ抵抗器が可能にするインバータやBMSの小型化、長寿命化~


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低炭素社会に向け、各国はEVへのシフトを前提とした規制強化を始めています。ヨーロッパのいくつかの国や米国のカリフォルニア州、カナダのケベック州などはガソリン車やディーゼル車の新車販売を2035年に禁止するといった政策を発表しています。自動車大国となった中国も2035年にすべての自動車を電動車にすることを目標として掲げ、日本も2035年までに新車のすべてをEV(ハイブリッド車を含む)にするとしています。

EVの爆発的増加という未来を前に、懸念されていることの1つにバッテリー問題があります。充放電サイクルを繰り返して劣化したバッテリーは廃棄や交換となりますが 、数百万台~数千万台となったEVから排出される廃バッテリーは膨大な数であり、またそうしたバッテリーは処理も難しく膨大なエネルギーとコストを必要とします。この問題を解決するのは簡単ではありませんが、EVのバッテリーの電力を効率的に使って航続距離を最大化したり、バッテリーの劣化をできるだけ遅らせたりすることは可能です。この航続距離やバッテリー寿命に大きく寄与するのが、バッテリーからの直流を駆動モーターが必要とする交流に変換するインバータや、バッテリーの劣化をできるだけ抑えて長期間性能を維持するためのBMS(バッテリーマネジメントシステム) です。

インバータやBMSの回路に多数使用される抵抗器では、用途によって要求される特性が異なりますが、パナソニックの抵抗器は小型、高電圧、高温 、耐候性、長寿命などの優れた特長を評価され、多くのお客様に採用いただいています。今回はそうした採用事例の中から2つをご紹介します。

BMSに不可欠の放電抵抗や分圧回路を高耐熱品 で小型化

インバータで使われる整流回路やBMSで使われている平滑コンデンサにたまった電力を、故障時などに二次被害を防ぐため放電させるという規格がありますが、その放電の役割を担っているのが抵抗です。抵抗値精度はあまり必要とされませんが、非常に高熱となるため高い耐熱性が要求されます。

放電抵抗の分圧回路向けに提案した事例をご紹介します。500Vを印加する分圧抵抗で、抵抗値は80kΩ程度のもの、消費させる電力は3W程度、周辺温度は105℃になるという条件でした。パナソニックの厚膜抵抗器の高耐熱製品「ERJH」シリーズであれば、2012(2×1.2mm)サイズで56kΩ、定格電力0.50W(周囲温度105℃)の抵抗器を3個直列にして2並列(≒84.0kΩ)でカバーできるため、従来の部品数から約33%の削減ができるということで、採用いただきました。

一般的なチップ抵抗器では、カテゴリ上限温度が155℃となります。また抵抗器は使用中に付加による自己発熱(ジュール熱)により昇温するため、周囲温度が70℃以上の場合は電力を低減する必要があります。しかしパナソニックのERJHシリーズは上限温度175℃とする耐熱性に優れた抵抗器です。このため、電力低減開始温度はより高温である105℃となり、高温雰囲気においてもより高い電力での使用が可能となります。

耐熱性に優れたERJHシリーズでの置換えにより部品数を約33%削減
従来設計
(ERJP06J823V)
ERJHシリーズ
(ERJHP6J563V)
サイズ 2012(2.0×1.2mm) 2012(2.0×1.2mm)
抵抗値・員数 82kΩ×3直列÷3並列
=82.0kΩ
56kΩ×3直列÷2並列
=84.0kΩ
許容差 ±5% ±5%
TCR ±100ppm ±100ppm
定格電力
(周囲温度105℃)
0.35W 0.50W
図 従来設計との比較

バッテリーシステムの安定稼働のために必要な放電抵抗と
BMSセルバランス回路

バッテリーパックの最小単位であるバッテリーセルは、充電池1〜4個と放電抵抗、それにBMSの一部であるセルバランス回路で構成されています。バッテリーセル内の充電池1つ1つは、同じように劣化していくとは限りません。劣化が一様でなく使える容量に差が出てきて、例えば充電池の容量がそれぞれ100%、80%、80%、60%に劣化した場合、いくつかの方法の中に、状態が良い充電池の電力を放電抵抗で放電(消費)させ、一番劣化した状態の電池に合わせるという方法があります。

このバッテリーセル内の放電抵抗の要求事項は、10オーム程度の抵抗値で、精度は特に求められず一般的な5%程度、消費電力は1~2ワット程度、ある程度高温になる、というものです。先の事例で紹介した厚膜抵抗器数個でも対応できますが、1つの抵抗器で済む高電力タイプの長辺電極抵抗器「ERJB」シリーズをご提案しました。これまでご紹介した薄膜抵抗器や厚膜抵抗器は、長方形のチップの短辺側がそれぞれ電極になっていましたが、長辺電極抵抗器ではその名の通り、長辺側が電極です。電極間の長さが短いほど、実装後のはんだクラックが発生しにくいことや、電極が大きくなるので大きな電力に対応しやすいといった特徴があります。

図 セルバランス回路例
図 セルバランス回路例

長辺電極抵抗のラインアップとしては、定格電力0.5W、最高使用電圧150VのERJB3シリーズ(2012サイズ)、定格電力0.75W、最高使用電圧200VのERJB2シリーズ(3216サイズ)、定格電力1.0W、最高使用電圧200VのERJB1シリーズ(5025サイズ)があります。いずれも使用温度範囲は-55℃~155℃となっています。バッテリーセルという限られたスペースで使用されるため、1つの抵抗器で済むのは大きなメリットと言えます。

表 長辺電極抵抗のラインアップ
品番 ERJB1 シリーズ ERJB2 シリーズ ERJB3 シリーズ
サイズ 5025 3216 2012
定格電力 1.0W
2.0W (≤10Ω)
0.75W
1.0W (≤10Ω)
0.5W
抵抗値範囲 10mΩ ~ 10kΩ 5mΩ ~ 1MΩ 20mΩ ~ 10Ω
抵抗値許容差 ± 1%, ± 2%, ± 5%
TCR
(x10-6/°C)
R<22mΩ ± 350 0~+300 0~+300
22mΩ≦R<47mΩ ± 200 ± 200 0~+300
47mΩ≦R<100mΩ ± 200, ± 150 (±1%) 0~+150 0~+200
100mΩ≦R<1Ω ±100(±1%)
±200 (±2,±5%)
0~100(±1%)
0~200 (±2,±5%)
1Ω≦R ±100(±1%)
±200 (±2,±5%)
±100(±1%)
±200 (±2,±5%)
素子最大電圧(最高使用電圧) 200V 150V
最大過負荷電圧 400V 200V
カテゴリ温度範囲(使用温度範囲) -55°C to +155°C

地球温暖化への対策の1つとして世界規模で急速に進展するEVへのシフトにおいて、BMSの役割は非常に大きなものになってきています。そのBMSにおいて、パナソニックが独自技術によって実現した、小型で高信頼性、高耐候性を兼ね備えたチップ抵抗器は、市場に求められる実装面積削減・低コスト化、信頼性の向上に貢献します。

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