生成AIで世界が激変する!? ~AIサービスとそれらを支えるコンデンサに求められる進化~(前編)

 

生成AIで世界が激変する!?
~AIサービスとそれらを支えるコンデンサに求められる進化~(前編)

2024/1/24

生成AIサービスの急速な発展と普及にともない、その運用を支えるハードウェアの計算量も飛躍的に増大しています。 ではなぜ計算量が増大しているのか、その要求に対応するためのハードウェアにはどのように進化しているのか。本稿では生成AI発展の背景と、それらを支えるハードウェアの事例、また計算処理性能に大きく寄与するキャパシタについて紹介します。

生成AIの発展

近年、ニュースなどで生成AIというキーワードを耳にする機会が増えました。生成AIとは、AIを活用して新しいコンテンツを生成するAIのことです。例えば、以前のAIの用途は画像を識別する役割であったものが、生成AIでは入力情報を基に新しい画像を生成する役割まで果たすという違いがあります。生成AIの代表例としてはどんな問いかけにも高度な返答を返すことで話題となった「ChatGPT」が挙げられます。「ChatGPT」は2022年11月に公開され、翌1月にWebサービスとして世界最速で登録者1億人を超えたこともあり、世界中で大きな話題となりました。このChatGPTが火付け役となり、続々と生成AI技術を用いた様々なサービスが提供されています。サービスの内容はAIが質問に答えてくれる用途にとどまらず、文書作成・要約、企画案の作成、デザイン・楽曲生成、プログラミングコード生成等、多岐にわたります。生成AIは有用とされる範囲が広範であるため、私たちの生活がより豊かになると期待される一方で、著作権の問題、人の仕事がなくなることへの危惧など、数多くの論争を巻き起こしています。また、今後の生成AIの活用は、実体を扱うフィジカルな分野(ロボットや重工業など)へ展開していくとも言われており、日々多くの人々からその動向が注目されています。

従来のAI (予測AI) 生成AI
機能 データに基づいて指示された対象の識別・分析・予測を行う データに基づいて指示された内容を新たに生成する
効果 人間よりも精度高い識別・高度な分析・予測をおこなう 人間よりも短時間で新しいコンテンツを作り出す
用途 文書・画像・動画等の識別、データ分析による予測 文書・画像・動画等の生成
図表1 従来AIと生成AIの違い
図表2 生成AIサービスによって得られる結果の事例
図表2 生成AIサービスによって得られる結果の事例

生成AIの仕組み

生成AIはどのようにして新しいコンテンツをつくり出すのでしょうか? それは、大まかには(1)学習、(2)推論というプロセスによって実現しています。(図表2)

(1) 学習
生成を実行するためのモデル構築のために行われるプロセスです。ここでは、膨大なデータを用いて、データの特徴を捉える計算が行われます。その結果、高度な生成を実現するための推論モデルが構築されます。サービスが対応する範囲・精度が高いほど、トレードオフとして長い時間がかかります(数か月の場合も)。サービスの早期投入・更新のため、学習時間の短縮が求められています。

(2) 推論
生成を実行するプロセスです(サービスの本番)。ここでは、学習によって得られた推論モデルに基づき、ユーザー入力への回答が生成されます。この時生成されるのは、入力に対して最も高確率で適合すると判定された内容です。推論は、推論モデルを使うことで、学習より遥かに短い時間で実行されます(長くとも数十秒程度)。レスポンスの遅いサービスはユーザーから敬遠されるため、1秒でも早い実行速度が求められています。

図表3 生成AI の構築に必要な「学習」と本番に必要な「推論」
図表3 生成AI の構築に必要な「学習」と本番に必要な「推論」

生成AIの課題

生成AIは、その活用範囲の広さと利便性から非常に期待される技術である一方で、まだ実用面で課題も残しています。それは、前述のようにあくまで確率をベースに回答内容を生成するため、不正確な内容を生成してしまう場合があることです。この現象は、“ハルシネーション”と呼ばれています(まるでAIが幻覚を見ているかのようにもっともらしい嘘を出力することから)。このような課題を解決するためには、どのような対策が有効なのでしょうか。効果的な方法の一つとして認識されているのが、学習の際のデータ量・計算パラメータ数を増加させることです。OpenAI社のChatGPTに使用されている生成AIモデルでは、進化の過程でこのアプローチを用いることで、生成精度の向上を果たしたことが公表されています。

Ver.が上がるほど学習データ・パラメータ数が増加し、高精度へ進化
2018 2019 2020 2022 2023 202X
ver. 1 2 3 3.5 4 5
パラメータ数 1.17億 15億 1750億 3550億 >1.5兆※1 >15兆※1
学習データ 4.5GB 40GB 570GB ?TB >5TB※1 >50TB※1
※1 推測値
図表4:生成AIモデルの規模変化の事例 (OpenAI社 GPT Model)

生成AIを支えるハードウェア

現在、ChatGPTを始めとする生成AIサービスの多くは、Webサービスです。Webサービスを実行するための計算処理は、いわゆるクラウドデータセンターに多数設置されたサーバーでおこなわれます。

クラウドデータセンター

従来のWebサービスでは、通常1台のサーバーに中心的な計算処理を担うCPU※1が1-2個搭載されており、そのCPUのみでサービスの実行に関するほとんどの処理をおこなってきました。しかし、2010年代に入ると、CPUの高性能化の主要因であった回路微細化の効果が小さくなり、効率的に性能を伸ばすことが難しい状況となりました。そのような状況の中で考案されたのがアクセラレータ(コプロセッサ)というアプローチです。これはサーバーに別種類の高効率なプロセッサを加えることで、効率的に処理性能向上を図るというものです。この仕組みを活用することで、大量のデータ処理を必要とするAIをWebサービスに展開することが現実的なものとなりました。生成AI用途のアクセラレータとしては、GPU※2やASIC※3が選択されるケースが一般的となっています(注釈参照)。

図表5 従来のWeb サービスとAI 活用Web サービスの主なプロセッサの違い
図表5 従来のWeb サービスとAI 活用Web サービスの主なプロセッサの違い

注釈:生成AIで使用されるプロセッサの使い分け

※1 CPU (Central Processing Unit)
汎用ソフトウェア処理などWebサービスの根幹を担っているため、サーバーにおいて欠かすことはできません。一方で特定の処理においては、CPUよりもGPUやASICのような並列処理に優れたプロセッサの方がより高効率に処理が可能です。そのため、AIにおいてはCPUに加えてこれらのプロセッサが組み合わせて使用されることが一般的になりました。

※2 GPU (Graphic Processing Unit)
その名の通り、従来ゲームなどの画像処理を主な用途としてきましたが、学習・推論においても似通った並列処理が使用されるため、2010年代半ばよりAIのデータ処理においても広く使用されるようになりました。またGPUはそのソフトウェア柔軟性も常に進化するAIアルゴリズムへの対応においても魅力的とされ、多くのAI研究者・AIサービスエンジニアから好評を得ています。そのため、GPUは生成AIの進化・発展の土壌として機能しています。

※3 ASIC (Application Specific Integrated Circuit)
特定用途に特化して設計されたプロセッサであるため、より高効率な処理による省電力が魅力とされています。その代わり、柔軟性はGPUに劣り、処理プロセスがある程度固定されてしまうため、対象処理と展開規模を十分に検討にされた上で開発されます。この開発に多くの資金と労力がかかるとされているため、ASICの活用は資金力・開発力のある大手クラウドベンダーが中心となっていますが、一方で十分な技術サポートによりASICを売り込もうとするメーカーも存在します。

市場と機器のトレンドについて

AIを高性能化にするための「学習」や「推論」処理において、ハードウェアのデータ処理性能向上への要求は留まることはありません。生成AIを用いたサービスを展開する企業にとって、サービスの高精度化と、提供リードタイムの短縮はどちらも重要な要素だからです。

サービス要素 サービス企業の期待 ハードのタスク
❶ 精度 より高いAI の精度により、より多くのユーザーを獲得したい。 より大規模なデータの処理が必要。
→より高性能なハードウェアが必要
❷ 時間 サービス投入・更新を早くしたい。レスポンスタイムを短縮したい。 学習・推論時間の短縮が必要。
→より高性能なハードウェアが必要

そのため、生成AIのプロセッサの性能は非常にハイエンドな仕様で、搭載数も多くなっており、典型的な構成としては、CPU 2個+アクセラレータ8個の組み合わせがよく見られます。さらに新しいハードウェアでは、CPUの搭載数を8個に増やし、CPUとアクセラレータを近接化もしくは同一のプロセッサパッケージ内に構成することで、両者間の通信速度を向上させ、性能改善を図る取り組みが登場しています。

図表5 生成AI 向けサーバの主処理プロセッサ(CPU+Accelerator)の構成例
図表6 生成AI 向けサーバの主処理プロセッサ(CPU+Accelerator)の構成例

この他の改善アプローチとしては、例えば、学習の高速化を図るために超巨大なASICを使用したり、推論の高速化を図るために端末側のモバイル機器・組み込み機器のプロセッサにAI処理機能を実装したりする事例などがありますが、新たな事例のニュースが途絶えることはありません。いずれにおいても、生成AIのハードウェアにおいては特にカギとなるのは、最先端の技術を用いたプロセッサの性能向上と、システム全体としての最良な組み合わせを実行していくことです。生成AIが急速に発展する中で、ソフトウェア同様ハードウェアにおいても、環境負荷・コストの軽減は非常に重要な課題となっており、大手のみならず多くの新進気鋭のメーカーがこの取り組みに参画しています。

以上のように生成AIを支えるハードウェアについて、中心的な役割を果たすプロセッサを中心に構成事例を紹介しましたが、このような高性能なプロセッサを安定的に動作させるためには、周辺に使用されている電子部品も高い要求への対応が求められます。次回後編では、プロセッサへの電源供給に大きく寄与するコンデンサについて、どのような性能が要求されるのか、パナソニックインダストリーの具体的なソリューション事例と合わせて紹介していきます。

この記事に関する製品情報

関連記事

この記事に関連するタグ

↑Page top

無料資料ダウンロード
技術資料ダウンロード 技术资料下载 Technical document downloads img
生成AIで世界が激変する!?~AIサービスとそれらを支えるコンデンサに求められる進化~
生成AI発展の背景と、それらを支えるハードウェアの事例、また計算処理性能に大きく寄与するキャパシタについて紹介します。
ダウンロードページへ »