電源回路の基礎知識(2)~スイッチング・レギュレータの動作~

 

電源回路の基礎知識(2)
~スイッチング・レギュレータの動作~

2019-07-22

電源回路の基礎知識(1)では電源の入力出力に着目して電源回路を分類しましたが、今回はその中で最も多く使用されているスイッチング・レギュレータについて、降圧型スイッチング・レギュレータを例に、回路の構成や動作の仕組みをもう少し詳しく説明していきます。

スイッチング・レギュレータの特長

スマートフォン、コンピュータや周辺機器、デジタル家電、自動車(ECU:電子制御ユニット)など、多くの機器や装置に搭載されているのがスイッチング・レギュレータです。スイッチング・レギュレータは、ある直流電圧を別の直流に電圧に変換するDC/DCコンバータの一種で、次のような特長を持っています。

  • 降圧(入力電圧>出力電圧)電源のほかに、昇圧電源(入力電圧<出力電圧)や昇降圧電源も構成できる
  • エネルギーの変換効率が一般に80%から90%と高く、電源回路で生じる損失(=発熱)が少ない
  • 近年のマイコンやAIプロセッサが必要とする1.0V以下(サブ・ボルト)の低電圧出力や100A以上の大電流出力も実現可能
  • コントローラICやスイッチング・レギュレータモジュールなど、市販のソリューションが豊富

降圧型スイッチング・レギュレータの基本構成

降圧型スイッチング・レギュレータの基本回路は主に次のような素子で構成されています。

  • 入力コンデンサCin
    入力電流の変動を吸収する働きを担います。容量は一般に数十μFから数百μFです。応答性を高めるために、小容量のコンデンサを並列に接続する場合もあります。

  • スイッチ素子SW1
    スイッチング・レギュレータの名前のとおりスイッチング動作を行う素子で、ハイサイド・スイッチと呼ばれることもあります。MOSFETが一般的に使われます。


図1. 降圧型スイッチング・レギュレータの基本回路 img
図1. 降圧型スイッチング・レギュレータの基本回路
  • スイッチ素子SW2
    スイッチング動作において、出力インダクタLと負荷との間にループを形成するためのスイッチ素子です。ローサイド・スイッチとも呼ばれます。以前はダイオードが使われていましたが、最近はエネルギー変換効率をより高めるために、MOSFETを使う制御方式(同期整流方式)が普及しています。

  • 出力インダクタL
    スイッチ素子SW1がオンのときにエネルギーを蓄え、スイッチ素子SW1がオフのときにエネルギーを放出します。インダクタンスは数nHから数μHが一般的です。

  • 出力コンデンサCout
    スイッチング動作で生じる出力電圧の変動を平滑化する働きを担います。容量は一般に数μFから数十μF程度ですが、応答性を高めるために、小容量のコンデンサを並列に接続する場合もあります。

降圧型スイッチング・レギュレータの動作概要

続いて、動作の概要について説明します。

二つの状態の間をスイッチング

スイッチング・レギュレータの動作は、大きく二つの状態から構成されています。

まず、スイッチ素子SW1がオンで、スイッチ素子SW2がオフの状態です。このとき、図1の等価回路は図2(a)のように表されます。このとき、出力インダクタLにはエネルギーが蓄えられます。

図2(a). SW1がオンでSW2がオフのとき img
図2(a). SW1がオンでSW2がオフのとき
次に、スイッチ素子SW1がオフで、スイッチ素子SW2がオンの状態です。このときの等価回路は図2(b)のようになります。入力電圧Vinは回路から切り離され、その代わりに出力インダクタLが先ほど蓄えたエネルギーを放出して負荷に供給します。
図2(b). SW1がオフでSW2がオンのとき img
図2(b). SW1がオフでSW2がオンのとき

スイッチング・レギュレータは、この二つのサイクルを交互に繰り返すことで、入力電圧Vinを所定の電圧に変換します。スイッチ素子SW1のオンオフに対して、インダクタLを流れる電流は図3のような関係になります。出力電圧Voutは出力コンデンサCoutによって平滑化されるため基本的に一定です(厳密にはわずかな変動が存在します)。

出力電圧Voutはスイッチ素子SW1のオン期間とオフ期間の比で決まり、それぞれの素子に抵抗成分などの損失がないと仮定すると、次式で求められます。

Vout = Vin ×

オン期間

オン期間+オフ期間

図3. スイッチ素子SW1のオンオフとインダクタL電流の関係 img
図3. スイッチ素子SW1のオンオフと
インダクタL電流の関係

ここで、オン期間÷(オン期間+オフ期間)の項をデューティ・サイクルあるいはデューティ比と呼びます。例えば入力電圧Vinが12Vで、6Vの出力電圧Voutを得るには、デューティ・サイクルは6÷12=0.5となるので、スイッチ素子SW1を50%の期間だけオンに制御すればいいことになります。

基準電圧との比で出力電圧を制御

実際のスイッチング・レギュレータを構成するには、上記の基本回路のほかに、出力電圧のずれや変動を検出する誤差アンプ、スイッチング周波数を決める発振回路、スイッチ素子にオン・オフ信号を与えるパルス幅変調(PWM: Pulse Width Modulation)回路、スイッチ素子を駆動するゲート・ドライバなどが必要です(図4)。

主な動作は次のとおりです。
まず、アンプ回路を使って出力電圧Voutと基準電圧Vrefを比較します。その結果はPWM制御回路に与えられ、出力電圧Voutが所定の電圧よりも低いときはスイッチ素子SW1のオン期間を長くして出力電圧を上げ、逆に出力電圧Voutが所定の電圧よりも高いときはスイッチ素子SW2のオン期間を短くして出力電圧Voutを下げ、出力電圧を一定に維持します。
図4. スイッチング・レギュレータを構成するその他の回路 img
図4. スイッチング・レギュレータを
構成するその他の回路

図4におけるアンプ、発振回路、ゲートドライバについて、もう少し詳しく説明します。

  • アンプ (誤差アンプ)
    アンプは、基準電圧Vrefと出力電圧Voutとの差を検知することから「誤差アンプ(Error amplifier)」と呼ばれます。基準電圧Vrefは一定ですので、分圧回路であるR1とR2の比によって出力電圧Voutが決まります。すなわち、出力電圧が一定に維持された状態では次式の関係が成り立ちます。
    Vref = Vout ×

    R2

    R1 + R2

    Vout

    Vref

    =

    R1 + R2

    R2

    分子
    例えば、Vref=0.6VとしてVoutを6Vにしたい場合、(R1+R2)/R2=10となるようR1とR2の値を選択します。
    基準電圧Vrefとしては、ダイオードのpn接合で生じる順方向電圧ドロップ(0.6V程度)を使う方法もありますが、温度に対して係数(kT/q)を持つため、精度が必要な場合は温度補償機能付きの基準電圧生成回路を用います。

  • 発振回路
    発振回路は、スイッチング動作に必要な一定周波数の信号を出力します。スイッチング周波数は一般に数十KHzから数MHzの範囲で、たとえば自動車アプリケーションでは、AMラジオの周波数帯(日本では526.5kHzから1606.5kHz)との干渉を防ぐために、2MHz前後に設定されます。システムによって最適なスイッチング周波数をフレキシブルに設定できるように、多くは電圧制御発振器(VCO: Voltage-Controlled Oscillator)回路が用いられます。

  • ゲートドライバ
    ゲートドライバはSW1とSW2を駆動する回路です。MOSFETを使った場合、オン/オフにはゲートの入力容量を十分に充電できるだけのドライバが必要であり、特に大電流に対応した大型のMOSFETほどゲート容量も大きいため、選択したMOSFETに合わせてゲートドライバ回路を構成します。


スイッチング・レギュレータの課題

スイッチング・レギュレータには冒頭で述べたようにさまざまなメリットがありますが、一方でいくつかの課題もあります。

動作の不安定さの課題

図4に示した誤差アンプによって、出力電圧Voutを対象にした帰還ループが形成されますが、帰還ループは適切に設計しないと、動作が不安定になったり、発振を起こしたりする恐れがあります。安定した動作を保証するには、帰還ループの帯域や位相余裕を適切に設計しなければならず、意外と厄介です。
ただし、市販されているコントローラICなどを使い、データシートの情報を参考にしながら回路を組めば、通常は問題ありません。

電磁ノイズ発生の課題

図2の(a)と(b)に示したように、スイッチ素子SW1のオン期間とオフ期間では回路を流れる電流が大きく変わります。電流ループからは磁界が発生しますが、電流が切り替わるということは磁界の強さも切り替わることを意味します。このため、スイッチング・サイクルに同期して電磁ノイズが原理的に発生し、適切なノイズ対策を行わないと他の回路に影響が及ぶ恐れがあります。

次回は、この電磁ノイズの課題と対策を中心に、スイッチング電源の設計について解説します。

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