電源回路の基礎知識(1) ~電源回路の分類~

 

電源回路の基礎知識(1)
~電源回路の分類~

2019-06-17

電源回路にはさまざまな方式やバリエーションがあります。今回の基礎講座は、電源回路としてはもっとも一般的となる、直流電圧を別の直流電圧に変換するDC/DCコンバータを主に取り上げます。
第1回目は、さまざまな種類のある電源回路について、入力と出力の関係に着目して分類してみます。

電源回路の役割

機器を構成する電子回路や半導体デバイスを正しく動作させるには、仕様で決められた電圧と電流を安定的に供給しなければいけません。その役割を担うのが電源回路です。
身近なところではスマートフォンのACアダプタ(充電器)も電源回路の一種です。もちろん、スマートフォン内部にもたくさんの電源回路が搭載されていて、プロセッサやメモリやディスプレイ素子が必要とする電圧と電流を供給しています(図1)。

図1. スマートフォンに使われている電源回路例 img
図1. スマートフォンに使われている電源回路例

インバータとコンバータ

電源回路は出力で見ると大きく2種類に分けられます。一般に、出力が交流の電源回路を「インバータ」、出力が直流の電源回路を「コンバータ」と呼んでいます。

インバータ

直流を単相交流または三相交流に変換する回路をインバータ(Inverter)と呼びます。また、ある周波数の交流を、別の周波数の交流に変換する回路もインバータに含めることもあります(厳密には、ある周波数の交流を直流にいったん変換し、その直流を別の周波数の交流に変換するため、コンバータ+インバータで構成されていると言えます)。
インバータがもっとも使われているのがモーター制御の分野です。オン・オフのような単純な制御に比べて、モーターを駆動する交流の周波数を変えて回転をきめ細かく制御することで省エネなどのメリットが得られるからです。
インバータはハイブリッド車や電気自動車にも搭載されていて、大容量バッテリが出力する直流を、メインモーターの駆動に必要な三相交流に変換する役割を担っています。

コンバータ

ある直流電圧を別の直流電圧に変換する回路や、交流を直流に変換する回路をコンバータ(Converter)と呼びます。前者を「DC/DCコンバータ」や「DC-DCコンバータ」、後者を「AC/DCコンバータ」や「AC-DCコンバータ」と表記することもあります。
DC/DCコンバータは、マイコンやメモリ素子などが必要とする低電圧を供給する目的で、電子機器や家電製品をはじめ多くの機器に搭載されています。ちなみにDC/DCをカタカナ読みした「デコデコ」という呼び方が、エンジニアの間では愛称として使われています。
AC/DCコンバータでおなじみなのが、ノートパソコンやスマートフォンの充電に使われるACアダプタです。AC/DCコンバータは、回路の構成としては、ダイオードなどで構成した整流器にDC/DCコンバータを組み合わせたものとして扱うことができます。



リニア・レギュレータとスイッチング・レギュレータ

続いて、電源回路で基本となるDC/DCコンバータについてもう少し詳しく取り上げましょう。先ほど、電源には大きく2種類、「インバータ」と「コンバータ」があると説明しましたが、DC/DCコンバータも大きく二つのタイプがあります

リニア・レギュレータ

リニア・レギュレータは、抵抗分圧の原理で、入力電圧を負荷との間で分圧して出力電圧を得る電源回路です(図2)。ただし、通常の抵抗素子で構成すると分圧比が固定されてしまい、入力電圧の変動や負荷が変動したときに出力電圧も変化してしまうため、トランジスタやMOSFETを可変抵抗器として用い、出力電圧をモニターしながら出力電圧が一定になるように制御を行います。
リニア・レギュレータは、負荷電流が分圧抵抗(トランジスタまたはMOSFET)にそのまま流れるため、抵抗の両端電圧×負荷電流で求められる電力が損失となり、熱となって逃げていきます。そのため、後述するスイッチング・レギュレータに比べて、エネルギーの変換効率が低いというデメリットがあります。
一方で、リニア・レギュレータは、出力リップル(さざなみのような微小な変動)が少なく、かつ、電磁ノイズなどの放射が少ないといった特徴を持つため、きわめて微弱な信号を扱うアンプ段など、ノイズを嫌う回路の電源として使用されます。また、スイッチング・レギュレータと比較して基本的に低コストで実装できます。

図2. リニア・レギュレータの動作の原理 image
図2. リニア・レギュレータの動作の原理

可変抵抗と負荷抵抗によって分圧回路が構成され、分圧された電圧が負荷に供給される。
分圧抵抗に電流が流れるため損失(熱)が発生する。

スイッチング・レギュレータ

スイッチング・レギュレータは、入力電圧をスイッチ素子(パワーデバイス)でオン・オフさせてパルス波を作り、最後に出力段で平滑化して出力電圧を得る電源回路です(図3)。オンとオフの比率を変えて出力電圧を制御するのが基本的な原理です。

図3. スイッチング・レギュレータの動作原理 image
図3. スイッチング・レギュレータの動作原理

スイッチ素子で入力電圧をスイッチングしてパルス波形を作り、後段で平滑化して、出力電圧を得る。オンとオフの時間の比で出力電圧を制御できるのがポイント。スイッチング動作に伴って電磁ノイズ(EMIノイズ)が発生するのがデメリットになる。

スイッチング・レギュレータはきわめて自由度が高く、さまざまな回路構成が考案、実用化されています。
入力電圧と出力電圧の関係だけに着目すると、次のように基本的な3種類に分類されます。

降圧型:
入力電圧よりも出力電圧が低い電源回路で、スイッチング・レギュレータとしてもっとも一般的です。バック型(buck)とも呼ばれます。

昇圧型:
入力側にインダクタを置いて、スイッチ素子がオンのときにエネルギーをインダクタに蓄えておき、スイッチ素子がオフのときにインダクタからエネルギーを放出させることで、入力電圧よりも高い出力電圧を得る電源回路です。高電圧を必要とする液晶パネルやLEDの駆動用として使われています。

昇降圧型:
降圧動作と昇圧動作のいずれにも対応した電源回路で、主に入力電圧が大きく変動するような用途に用いられます。基本的な昇降圧回路では、出力の極性が逆になって負電圧が出力されます。なお、極性が反転する仕組みは少し複雑なので、いずれ回をあらためて説明します。極性の課題を解決して正電圧が得られるようにした回路も考案されています(SEPIC回路:Single Ended Primary Inductor Converter)。

スイッチング・レギュレータはリニア・レギュレータに比べてエネルギーの変換効率が高く、最新のコントローラICを使った場合、動作条件によっては98%前後に達する場合もあります。
一方で、入力を一旦パルス状の波形に変換するため、電磁ノイズ(EMIノイズ)やグランド・ノイズなどが発生してしまうという原理的な課題があります。また、回路設計が複雑というデメリットもあります。

項 目 リニア・レギュレータ スイッチング・レギュレータ
駆動対象の例 アンプ回路、高周波回路、小電流回路、コスト優先回路など プロセッサ、メモリ、グラフィクスチップ、ネットワークコントローラ、液晶や有機EL等
電圧の変換 降圧のみ 降圧、昇圧、昇降圧(反転・正)
出力電流 多くの場合数百mA~1A程度 外付けのパワーデバイス次第で100A以上の回路も構成可能
エネルギー効率 入力電圧と出力電圧の差が大きい場合などに効率が低下 おおむね80%~90%
(最高で98%程度)
ノイズ ほとんど発生しない 原理的に必ず発生する
設計負担
(技術的な難しさ)
低い 比較的高い
(ワンチップ化したモジュールなどもある)
コスト 低い 高い

表1. リニア・レギュレータとスイッチング・レギュレータの比較

次回は、電子回路に欠かせないスイッチング・レギュレータについて、詳しく説明します。

まとめ

図4.電源回路の入力出力による分類 image
図4.電源回路の入力出力による分類
  • 交流を出力する回路を「インバータ」、直流を出力する電源回路を「コンバータ」と呼ぶ
  • コンバータの中でもよく使われている回路方式がスイッチング・レギュレータ
  • スイッチング・レギュレータには、降圧、昇圧、昇降圧などのタイプがある
  • スイッチング・レギュレータには、電力の変換効率がおおむね高いという特長がある一方で、電磁ノイズなどが発生するという課題もある

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