車載電子機器のESD対策回路と部品選定のポイント

 

車載電子機器のESD対策回路と部品選定のポイント

2025-4-25

image 車載電子機器のESD対策回路と部品選定のポイント

前回記事では、自動車におけるESD対策の重要性を解説し、静電気を安全に逃がすための技術や評価手法について紹介しました。ESD(Electrostatic Discharge)による電子機器への影響を最小限に抑えるためには、適切な回路設計と部品選定が重要です。特に車載電子機器では、ESD耐性の強化だけでなく、ノイズ対策とのバランスも求められます。本記事では、MLCV(Multi-Layer Ceramic Varistor:積層セラミックバリスタ)単独使用によるESD対策や、MLCC(Multi-Layer Ceramic Capacitor:積層セラミックコンデンサ)との並列構成によるノイズ抑制の効果を解説し、最適な回路構成について紹介します。

1. 最適なESD対策回路

1-1. ESD対策のみの場合:MLCV単独

ESD対策を最優先とする場合、MLCVを単独で使用することが有効です。MLCVは高いESD耐性を持ち、MLCCのように端子間放電をすることなくICや電子回路を効果的に保護できます。さらに、MLCCのようなコンデンサを必要としないことから、小型化や高耐性が求められる環境でも優れた性能を発揮します。MLCV単独での使用は、ESD対策を目的とした設計において、部品点数の削減やシンプルな回路構成が可能になるといったメリットもあります。

1-2. ノイズ対策を兼ねる場合:MLCC+MLCV並列構成

ESD対策だけでなく、ノイズ低減も求められる場合には、MLCCとMLCVを並列に接続する構成が適しています。MLCCは大きな静電容量を持ち、ノイズを低減する役割を果たしますが、高電圧のESDが印加されると、端子間放電や電気特性の劣化が発生するリスクがあるため、MLCVを併用することで、ESDの影響からMLCCを保護し、安定した性能を維持することができます。

この並列構成により、ノイズ対策とESD対策の両方をバランスよく実現できるため、特に車載通信や高精度な電子機器の保護に適しています。設計に応じてMLCCの容量を調整することで、より細かいノイズ抑制を行うことも可能になります。これにより、ESD対策の強化と通信品質の向上を両立させることができます。図1はそれぞれのユースケースに応じた回路構成です。

図1 ユースケースに応じた回路構成
図1 ユースケースに応じた回路構成

2. ESD対策部品導入のメリットと選定上の注意

2-1. IC故障リスクの低減とNTFの回避

ESD対策を導入すれば、特に車載通信や駆動系を制御する重要なICを保護でき、静電気破壊のリスクを大幅に減らせます。その結果、システム全体の信頼性が向上し、トランシーバICなどの重要部品で発生する不具合や、NTF(No Trouble Found:不再現の故障)を防ぐことが可能です。

2-2. 供給面(BCP)や総合的視点での判断の重要性

ESD対策部品を選ぶ際は、ただ性能が高いものを選ぶだけでは不十分です。メーカーの供給体制や部品の互換性、さらには将来的な事業継続計画(BCP)など、供給面の安定性も考慮しなければなりません。また、ツェナーダイオード(ZD)やESDサプレッサといった部品との比較も含め、最も適したESD対策部品を総合的な視点から検討することが重要です。

3. パナソニックのESD対策部品:ESDサプレッサ

パナソニックのESD対策部品としては本レポートでご紹介したMLCVに加え、ESDサプレッサがあります。ESDサプレッサは、その内部にギャップを備えており、高電圧を検出すると、ギャップ間の放電により不要な電圧を安全に逃がして回路を保護します。「サプレッサ」とは「抑制するもの」という意味で、ESDによる過剰な電圧をすばやく低減し、電子部品の破損を防ぎます。その結果、電子機器の耐久性と信頼性が大きく向上します。

ESDサプレッサは低静電容量が特徴であり、アンテナ回路や超高速通信回路のESD対策に最適です。

商品詳細ページ:チップバリスタESDサプレッサ

4. まとめと今後の方向性

4-1. 新たな評価手法と放電メカニズム解析

前回の記事で紹介したESD可視化カメラを使用した放電観察や繰り返し印加試験を通じて、以前は見過ごされがちだった不具合の原因を明らかにできます。特に車載分野での製品の信頼性を高めるために、放電メカニズム解析や検証手法の強化が求められています。

4-2. 車載通信のさらなる高速化・高信頼化に対応するESD対策

また、車載通信技術の進化に伴い、5Gや自動運転技術を支える通信ラインの高速化が進む中で、より高耐性かつ低容量のESD対策部品の需要が高まっています。MLCVをはじめとする次世代部品の開発とそれらの効果的な評価が、将来の車載電子機器の性能向上と安全性確保の鍵となるでしょう。

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