ADASアプリケーション向け角チップ抵抗器/ESDサプレッサの基礎知識
2022-05-20
かつては未来の技術だった自動車の自動運転(AD)は、いまや有力な自動車メーカーを抱える各国の思惑を巻き込んで急速に開発が進み、2020年代の内に現実のものになろうとしています。そして自動運転システムには必須の技術である、ADAS(先進運転支援システム)の市場も急速に拡大しています。そのADASにとって重要な部品の1つが、高精度で信頼性の高い角チップ抵抗器です。
自動運転とADAS市場について
ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems)は「エイダス」と読みます。日本語では先進運転支援システムといい、他の車両、人や物体、(道路の)車線といった周辺の環境を検知したり認識したりすることで、運転をサポートするものです。具体的なアプリケーションとしては、車載カメラやミリ波レーダー、LiDARなどがあります。
自動運転には、運転の自動化の度合いによって0(運転支援なし)から5(完全な自動運転)まで6段階の自動運転レベルが設定されています。現在はレベル2(部分的な運転自動化)までは量産車にも搭載されてきており、一部の車ではレベル3(条件付き自動化)が実装されつつあるという状況にあります。
自動車業界では今後数年間で、自動運転レベル3を実装する車の割合が増加すると見られており、当然、レベル2までも含めてADASアプリケーションの搭載も大きく増えると見込まれています。こうした状況変化は、ADAS関連メーカーから電子部品への要求にも影響を与えます。
市場の変化と電子部品への要求トレンド
パナソニックでは特に、一層の安全性の向上、搭載センサの数量増加、データ処理の高速化の3つがADASアプリケーションに搭載される電子部品に求められるもののトレンドになると考えています。
まず、安全性の向上に関しては、車載という環境において長期間使用されるシステムの電子部品の寿命が重要になると考えられます。センシングアプリケーションにおいては抵抗器が多用されますが、これまで重要視されてきた抵抗の初期許容差だけではなく、長期使用における抵抗値の変化や、温度変化による抵抗値の変化(TCR*1)がいかに小さいかが注目されるようになっています。初期許容差と温度変化は仕様書にはっきりと示されているものですが、仕様書には出てこない長期の信頼性にかかわる性能まで含めた「トータルトレランス(生涯寿命設計)」が求められています。
*1 TCR:抵抗温度係数。温度が変化したときの抵抗値の変化割合を表す数値。単位はppm/°C。
次に搭載センサ数量の増加に関しては、これは高レベルの自動運転を可能にするために、車載センシングアプリケーションが増えるという予測です。より多くのセンシングアプリケーションを搭載しようとすると、実装スペースには限りがあるためモジュールの小型化が必要です。そのためアプリケーションに使用される電子部品においても、同等の性能は維持したまま、より小さなものが求められます。
最後のデータ処理の高速化に関しては、ADASアプリケーションから得られるデータ量が増大するため、その処理をするSoC(System on Chip)にはより高い性能が求められます。その一方で、モジュールの小型化と併せて、発熱を抑えるために消費電力はなるべく小さくしたいという要求があります。そのためSoCの駆動電圧は非常に低くなってきており、そうした低電圧の回路においては、電子部品の精度はこれまで以上に高いものが求められます。
ADASアプリケーションを支えるパナソニックのチップ抵抗器製品群
パナソニックではこうしたADAS市場からの要求に応える高精度チップ抵抗器のラインアップを用意しています。チップ抵抗器は材料や製造方法からくる構造の違いによって、厚膜チップ抵抗器と薄膜チップ抵抗器の2種類があります。一般的に、厚膜チップ抵抗器は薄膜チップ抵抗器よりもコスト面で有利ですが、精度(特に温度当たりの抵抗値変化率)は薄膜チップ抵抗器のほうが優れるとされています。
パナソニックはチップ抵抗器の構造や材料、製造工程を工夫することで、厚膜チップ抵抗器、薄膜チップ抵抗器共に、同じサイズの標準品より精度を高めた製品、また定格電力の大きな製品を開発し、販売しています。
薄膜チップ抵抗器「ERA*V」シリーズでは、材料や設計の改良によって過負荷時の耐性を引き上げると共に、設計の工夫による耐汚染性の向上、熱応力緩和層を設けることではんだクラック耐性向上も実現しました。
この「ERA*V」を含む「ERA*V/K/P」シリーズは初期許容差±0.05%、TCR±10ppm/°Cという超高精度であり、高信頼性、高耐候性を備えた製品として提供しています。
※高精度チップ抵抗器ラインアップ詳細はこちらを参照
基板の小型化というトレンドに対応するチップ抵抗器としては、標準品よりも1サイズ小さな製品で、倍の定格電力を持つ小型高電力品を用意しています。例えば3216サイズで定格電力0.25Wの「ERJ8G」に対して、2012サイズの「ERJP06」や「ERJB3」では定格電力0.5Wとなっています。また定格電力は同じでより小さな製品も用意しています。例えば定格電力0.25Wの「ERJ8G」に対して、同じ0.25Wながら2サイズ小さい1608サイズの「ERJPA3」があります。
※小形高電力チップ抵抗器ラインアップ詳細はこちらを参照
また車載アプリケーションメーカーから、非常に高い温度環境で使える抵抗器の要望もあります。薄膜チップ抵抗器や厚膜チップ抵抗器は基本的に、電力をかけると部品自体が発熱し、温度が高くなると本来の性能を出せなくなるため、高温環境の場合は使用する際の電力を下げる必要があります。
パナソニックでは、端面電極材料や樹脂材料を新規に開発することで、定格電力が落ち始める温度や、使用できる限界の温度を標準品よりも数十°C引き上げた高耐熱チップ抵抗器を開発し提供しています。高耐熱チップ抵抗器を使用すると、例えば105°Cにおいて0.1Wが必要な場合に、従来品であれば定格電力低下分を見込んで3216サイズの抵抗器が必要なところを、高耐熱チップ抵抗器なら3サイズ小さい1005サイズの抵抗器で対応できます。
さらに、車内においてはセンシングアプリケーションのデータをはじめとして、多量のデータ通信が行われるため、車内データ通信の高速化はますます進んでいます。車載EthernetやCAN(Controller Area Network)、LVDS(Low voltage differential signaling)といった社内ネットワークで使用される通信方式では、EMC(電磁ノイズ)対策や静電気対策としてESDサプレッサという、回路やICを保護するための電子部品があります。一般的にESD対策部品と呼ばれるこうした部品には、ESDサプレッサのほか、バリスタやツェナーダイオードも使用されますが、パナソニックでは、静電容量を非常に小さくしたESDサプレッサを提供しています。静電容量が非常に小さいため、高速データ通信に使われる高周波領域でのESD対策品として優れた特長を備えています。
まとめ
自動運転技術の進展やEVの普及に伴って、安全にも直結するADASアプリケーションの採用は今後急速に進むと考えられます。パナソニックはそれらのトレンドを見据えた電子部品の開発と提供を通じて、自動運転技術やADASアプリケーションの発展を支えます。