チップ抵抗器の故障事象と故障メカニズム・解決策 (1)

 

チップ抵抗器の故障要因と故障メカニズム・対策(1)

2021-09-27

チップ抵抗器は、他の電子部品と比べると比較的故障しにくい部品ですが、それでも過負荷や厳しい使用環境では故障が発生します。
今回はチップ抵抗器の故障事象と故障メカニズム・解決策について解説します。

故障事象の概要

チップ抵抗器の故障事象は、大きく分けて下表の7項目があり、その故障モードは抵抗値増大/オープン(断線)と抵抗値低下/ショート(短絡)になります。

No. 故障事象 使用環境 故障部位 該当チップ
抵抗器タイプ
故障モード
1 マイグレーション ハロゲン成分の
付着
内部電極 全て 抵抗値低下/
ショート(短絡)
2 電解腐食 抵抗体 薄膜タイプ 抵抗値増大/
オープン(断線)
硫黄を含む
雰囲気
抵抗体 薄膜タイプ
3 硫化 内部電極 全て
4 電極剥がれ 過度な機械的
応力
中間電極 全て
5 はんだクラック 実装はんだ 全て
6 抵抗体焼損 電気的過負荷 抵抗体 全て
7 抵抗体劣化 抵抗体 厚膜タイプ 抵抗値低下
表1.チップ抵抗器の故障要因まとめ
図1 チップ抵抗器の構造図(概略)
図1 チップ抵抗器の構造図(概略)

実際の故障としては、抵抗値増大/オープン(断線)がほとんどを占めます。

次にそれぞれの故障事象について、そのメカニズムや解決方法について詳しく説明します。

マイグレーション

マイグレーションのメカニズム

マイグレーションとは、一般に一対の電極が形成された状態で高湿環境下のもと、電極間に電圧を印加すると、陽極の金属がイオン化して対向する陰極に移動し、再び陰極で金属として生成される現象です。
陰極で生成された金属はツリー状に成長して電極間の絶縁が低下し、最終的にはショート(短絡)となります。
マイグレーションは、通電/水/ハロゲン物質の3要因が重なった環境に晒された場合に、一般的に電子部品の外部(はんだ)で発生する「Snマイグレーション」と、電子部品の内部で発生する「Agマイグレーション」があります。

図2 マイグレーションのイメージ
図2 マイグレーションのイメージ

Agマイグレーションは、Ag電極が保護膜やめっきで完全に覆われているため、一般使用環境では起こり得ない現象ですが、フラックス等に含まれるハロゲン物質(F,Cl,Br)が活性力を保持した状態で付着した場合、保護膜の劣化(剥離)を起こし水が生成して、そこに電位が存在した場合にマイグレーションを起こす場合があります。

マイグレーションの解決方法

マイグレーションを防止する方法は以下の2つが考えられます。

  • ① ハロゲン物質が残渣とならないよう、ノンハロゲン洗浄剤で除去する。
  • ② フラックスや接着剤を使用する場合は適切な熱処理*を行いハロゲン物質の活性をなくす。

    *詳細な熱処理条件についてはそれぞれフラックスメーカーや接着剤メーカーに確認してください。

電解腐食

電解腐食にはハロゲン成分に起因する場合と硫黄成分に起因する場合があります

電解腐食のメカニズム

マイグレーションで述べたように、フラックス、接着剤及び洗浄剤に含まれるハロゲン物質(F,Cl,Br)が残渣としてチップ抵抗器の表面に付着していた場合、及び硫黄を含む雰囲気に晒された場合、チップ抵抗器表面の保護膜が劣化し、内部の抵抗体にも雰囲気中のハロゲンや硫黄を含む水分が侵入しやすくなります。
薄膜チップ抵抗器は抵抗体にニッケルクロム合金(Ni-Cr)を使用しているため、この侵入したハロゲンや硫黄を含む水分によって抵抗体が腐食され、抵抗値増大やオープン(断線)となります。

図3.電解腐食のイメージ
図3.電解腐食のイメージ

なお厚膜チップ抵抗器は、抵抗体が酸化ルテニウムとガラスの混合焼結体であるため、電解腐食は発生しません。

電解腐食の解決方法

電解腐食を防止する方法は以下の3つが考えられます。

  • ① ハロゲン物質が残渣とならないよう、ノンハロゲン洗浄剤で除去する。
  • ② フラックス、接着剤等を使用する場合は適切な熱処理*を行いハロゲン物質の活性をなくす。

    *詳細な熱処理条件についてはそれぞれフラックスメーカーや接着剤メーカーに確認してください。

  • ③ 硫黄を含む雰囲気を除去、又は隔離する。

硫化

チップ抵抗器が硫黄を含む雰囲気に晒された場合、内部電極を劣化させます。これを硫化と呼んでいます。なお、硫化は銀系の金属を内部電極に使用している製品で発生するもので、硫化による故障は厚膜タイプでも薄膜タイプでも発生します。

硫化のメカニズム

チップ抵抗器が硫黄を含む雰囲気に晒されると、硫黄成分が保護膜とメッキの隙間から侵入します。そして硫黄成分が内部電極(銀)まで達すると、銀(Ag)と硫黄(S)が化学反応を起こし絶縁物(Ag2S)となり、内部電極が侵食されることで抵抗値が増大し、最終的にはオープン(断線)となります。

図4.硫化のイメージ
図4.硫化のイメージ

硫黄成分の多い場所として、火山や温泉場近く、自動車の排ガス、切削油やゴム製品を使用している環境が挙げられます。また、一般環境でも使用部材に硫黄成分が含まれている場合があります。例えば冷却ファンのフィルタやパッキン用、防振用のゴム製品やスポンジ、シリコン系のコーティング剤などには硫化を促進するものもあります。

硫化の解決方法

硫化を防止する方法は以下の3つが考えられます。

  • ① 硫黄を含む雰囲気を除去、又は隔離する。
  • ② 硫黄を含む部材を使用しない。
  • ③ 硫黄成分に強い部品を選定する。

この中で、硫化を防止する最も有効な方法は、③硫黄成分に強い部品を選定することです。 当社では、硫化が発生しにくい高パラジウム銀電極や金電極を使用した「耐硫化チップ抵抗器」をラインアップしています。

今回の記事では、「故障現象の概要」と、「マイグレーション」、「電解腐食」、「硫化」について説明しました。 次回は「電極剥がれ」から「抵抗体劣化」までの4項目について解説します。

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