5G 移動体通信の可能性と技術課題 (3) ~ コアネットワークの概要と構成 ~

 

今回は、5G移動体通信の可能性と技術課題の3回目として、5Gの通信を制御するコアネットワークを取り上げ、その概要と構成について解説します。

基地局の後ろ側で通信制御を担う5Gコアネットワーク

5Gは、連載の第2回目で説明したように、スマートフォンや通信モジュールなどの端末機器、アンテナや基地局で構成される無線アクセスネットワーク (RAN) 、および、コアネットワーク (CN) で構成されています。
5Gの全体構成の概念図 img
図1. 5Gの全体構成の概念図
このうちコアネットワークは、端末の認証、端末の位置管理、ポリシー制御、パケット転送制御、通信経路の確立、データネットワーク (DN) との間でのデータのやりとりなど、通話や通信に関連するさまざまな役割を担います。
ただし現在の5Gサービスは、4Gのコアネットワーク (EPC:Evolved Packet Core) を利用した「ノンスタンドアロン」 (NSA) として運用されています (図2左) 。そのため、5Gの特長のうち、「高速大容量」は実現されていますが、「超低遅延」と「多数同時接続」は完全にはサポートされていません。

5Gの三つの特長をフルに活用できる「スタンドアロン」 (SA) での運用時期は、明確には示されていませんが、各キャリアは2021年から2023年頃を目標に準備を進めているといわれています。
スタンドアロンになると、5Gの特長である「高速大容量」、「超低遅延」、「多数同時接続」のメリットがフルに享受できます。5Gを実現するコアネットワークは「5GC」 (5G Core network) と呼ばれ、従来の4Gのコアネットワーク (EPC) と併存していくことになります (図2右) 。
図2. ノンスタンドアロン (NSA) とスタンドアロン (SA) でのサービス形態 img
図2. ノンスタンドアロン (NSA) とスタンドアロン (SA) でのサービス形態

5GCは4Gのコアネットワークに対して以下の特徴を有します。

  • コアネットワーク内のC/U機能を分離
  • サービスベースアーキテクチャ(SBA)の採用
  • エンド・ツー・エンドネットワークスライスへ対応

仮想化とクラウドネイティブでの実装が主流に

続いて、5GCの実装面について簡単に紹介しておきます。

従来、ネットワークシステムを構成しようとした場合、ルーター、WANアクセラレーター、セッションボーダーコントローラ、ネットワークアドレス変換 (NAT) 、ディープパケットインスペクタなど、単機能のネットワーク機器 (アプライアンス) を組み合わせる方法が一般的でした。ただし、それぞれの機器は機能が固定されているため拡張性が低く、また複数ベンダーにまたがった場合は個別の運用や保守が必要などの課題が指摘されていました。

そこで、汎用サーバーの性能やクラウドの運用技術が向上してきたことを背景に、汎用サーバーで構成したクラウド上にソフトウェアとしてネットワーク機能を実装する「NFV (Network Function Virtualization) 」の構想が2012年頃からETSI (欧州電気通信標準化機構) の部会で提唱され、プラットフォームやアプリケーションの実装方法などの標準化が進められてきました。

5GCの具体的な実装方法はキャリアに委ねられているためNFVは必須ではありませんが、仮想化によって次のようなメリットが得られことを考えると、おそらくは基本の実装形態になるでしょう。

  • 初期コストおよび運用コストの削減
  • 自動復旧などによるサービスの信頼性の向上
  • インフラの配備および増強の迅速化
  • 新サービスや新機能の早期提供
  • 運用の自動化の推進
  • オープン化を通じた新技術や新開発手法の活用
NFVはクラウド上に実装されますが、その考えを発展させて、物理的なサーバーを分散配備する案も検討されています。いわゆる分散型クラウドと呼ばれる構成です。とくにデータの経路であるU-planeのUPFは、C-planeと同じ局舎に配置しておく必要はなく、ネットワークスライスと合わせて、地域やニーズに応じて分散する方法が有効となるでしょう。

ただし、NFVの標準的な枠組みは決まってはいるものの、実際の構築や運用はまだ確立されていません。キャリアやベンダーによって精力的な開発が続けられています。

キャリアやソリューションベンダーの開発が本格化

以上、「高速大容量」、「超低遅延」、「多数同時接続」を実現する5Gのコアネットワーク「5GC」について簡単に説明しました。C-planeとU-planeの分離、サービス志向アーキテクチャの採用、オプション機能としてネットワークスライスの導入、運用の効率化や拡張性を高めるシステムのクラウド化など、4Gのコアネットワーク (EPC) をベースにさまざまな改良が盛り込まれています。

前述の仮想化(NFV)のアーキテクチャは、4Gコア(EPC)ではすでに当たり前になっていて、交換局には多くのサーバーが設置されています。近い将来、5Gのノンスタンドアロン運用が始まれば、EPC用サーバーに加えて、5GC用サーバーが増設されることになるでしょう。

こうした高性能なサーバー機器や周辺に配置されるネットワーク関連機器で重要になってくる要素のひとつがハードウェアの信頼性です。

パナソニックでは、低ESR、低ESL、長寿命、小型、低背、特性安定性などを特徴とする導電性高分子アルミ電解コンデンサ(SP-Cap)、低ESR、長寿命、超小型、高安全、特性安定性などを特徴とする導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ(POSCAP)、耐熱性、小型、低発熱、低損失などを特徴とする大電流対応高信頼性パワーインダクタ(PCC)などの電子部品を、こうした機器メーカーに引き続き提案していきます。

今後、5Gのスタンドアロン化に向けた動きの中で、汎用サーバーの需要増が見込まれるとともに、クラウドネイティブアーキテクチャの実現や運用の自動化に欠かせない新たなソリューションが登場してくるでしょう。各キャリアや通信ソリューションベンダーは5GCの技術開発と実証実験を加速しており、近い将来のサービスインが期待されます。

次回は、スマートシティでのさまざまな制御や工場やプラントのIoT化を実現する、5Gの技術を閉域に適用した「ローカル5G」を取り上げます。

※本稿は一般的な情報に基づいており、キャリア各社の実際の実装とは異なります。

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5G移動体通信の可能性と技術課題
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