5G移動体通信の可能性と技術課題 (1)~ 5Gの概要と実用化 ~

 

5G移動体通信の可能性と技術課題(1)
5Gの概要と実用化

2020-06-22

高速化・低遅延化・同時多接続化を大きな柱とする5G(第5世代移動通信システム)のサービスが、2020年3月下旬から国内でもスタートしました。民生分野と産業分野の両方で、5Gのメリットを生かした新たなサービスやアプリケーションの創出に期待が集まっています。このコラムでは、5Gの概要や技術的なポイントを取り上げます。

2020年春から実用化が始まった5G移動体通信

5G(第5世代移動通信システム)のサービスが2020年3月下旬から国内でスタートしました。タイミング的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、5Gのデビューがメディアで取り上げられる機会はそれほど多くありませんでしたが、新たなサービスを実現できるとして産業界の期待は決して小さくありません。

5GのGとは "Generation" の略であり、移動体通信の世代を表しています。2001年からスタートした3G、および2010年からスタートした4G(3.9GのLTEを含む)に続く移動体の通信方式で、「NR(Next Radio)」とも呼ばれます(表1)。
世代名 3G 4G 5G
3G 3.5G 3.9G 4G
サービスイン 2001年 2006年 2010年 2014年 2020年3月
主な通信方式 CDMA2000
W-CDMA
HSPA
EV-DO
LTE LTE-Advanced NR
下りビットレート 384kbps 14.4Mbps 100Mbps 1Gbps 20Gbps
備考 一般に4Gに分類される スタンドアロンは2022年以降の見込み
表1. 国内における3G以降の移動体通信システムの比較
(総務省「移動通信分野の最近の動向」(平成28年1月29日版)などを元に作成)
歴史を簡単に振り返ってみると、3Gの実用化とともに登場したのがフィーチャーフォンと呼ばれた高機能型の携帯端末です。内蔵カメラで撮った写真を家族や友達に送るメールサービスが3Gの普及を後押ししました。2007年(日本では2008年)になるとスマートフォンが登場し、より高速な通信に対するニーズが高まりを見せていきます。そして4G(規格的には3.9G)の実用化によって動画やオンラインゲームをストレスなく楽しめるようになり、SNSの普及なども相まって、4Gのサービスは生活に欠かせないものとなっていきます。

民生分野でスマートフォンが普及するのと並行して、3Gや4Gの通信機能を持つ通信モジュールが自動車や産業機器に搭載されるようになり、テレマティクスなどのサービスが展開されるようになっていきました。さらに近年はIoTやビッグデータなどのテクノロジーが登場し、より多くのデータを収集して価値につなげていこうという機運が高まりを見せていました。

そういう背景の中で誕生したのが5Gです。

高速化・低遅延化・同時多接続化が大きな特徴

5Gは4Gと比べて次のような特徴があり、パーソナル用途と産業用途の両方でさまざまな応用が見込まれています(図1)。
図1. 5Gの三つの特徴と想定されるアプリケーション img
図1. 5Gの三つの特徴と想定されるアプリケーション
(出典:総務省「令和元年版 情報通信白書」)

スタンドアロンとノンスタンドアロンとは

5Gの規格や運用はきわめて高度かつ複雑で、これまでにないテクノロジーやアーキテクチャも導入され、新しい用語も多いため、技術的な全体像を理解するのはなかなか大変です。
その中から、「スタンドアロン」と「ノンスタンドアロン」について説明します。

5Gのサービスは、5G対応の「端末」(スマートフォンや通信モジュール)、専用アンテナや基地局で構成される「無線アクセスネットワーク(RAN)」、および、基幹網やサーバー群などの「コアネットワーク(CN)」によって実現されます。
ただし、無線アクセスネットワークやコアネットワークを全国規模で新規に構築するには巨額の投資が必要なため、当面は、駅、繁華街や商業施設、スポーツ施設などの限られたエリアでのみ5Gが提供されます。5Gのサービスエリアから外れると、5G端末は4G(LTE)に切り替わって通信を行います(ハンドオーバー機能)。
4Gの通信インフラを併用したこうした運用を「ノンスタンドアロン(NSA)」と呼びます(より具体的には、5Gのエリアにおいても、制御信号(制御プレーン)はLTEで、データ(ユーザープレーン)はNRによって通信が行われます)。

一方、将来的に基地局やコアネットワークすべてを5G化して、制御プレーンとユーザープレーンの両方をNRによって通信する運用を「スタンドアロン(SA)」と呼びます。当面はノンスタンドアロンでサービスが提供され、5Gのメリットをフルに享受できるスタンドアロンでの運用は2022年以降になる見込みです。

国内では3.7GHz / 4.5GHz / 28GHzを割り当て

続いて、5Gで使われる周波数帯に目を向けてみましょう。
日本国内では、3.7GHz帯(n77/n78バンド)、4.5GHz帯(n79バンド)、および28GHz帯(n257バンド)が総務省から通信事業者4社に割り当てられました(表2)。

周波数帯 3.7GHz帯 4.5GHz帯 28GHz帯
バンド名 n77/n78 n79 n257
割り当て周波数 3.6~4.1 GHz 4.5~4.6 GHz 27.0~28.2
GHz29.1~29.5 GHz
割り当て帯域 100 MHz 100 MHz 400 MHz (広帯域)
備考 6GHz未満なので「Sub-6」とも呼ばれる 障害物に弱い
伝送損失大
表2.日本国内における5G向け周波数割り当て

このうち、n77/n78バンドおよびn79バンドの帯域は100MHz、n257バンドの帯域は400MHzとなっており、後者のほうが高速な通信が可能です。ただし2020年春時点で、帯域の広いn257バンドをサポートしている端末(スマートフォン)と基地局は、それぞれおよそ半数にとどまっています。

ところで、電波には周波数が高くなるほど(波長が短くなるほど)直進性が強くなるという性質があり、建物や街路樹などの影響を受けやすくなります。また、空気中の酸素分子や水分子で吸収されやすく、伝搬損失も大きくなります。4G(700MHz帯から3.5GHz帯)よりも高い周波数帯を使う5Gは、建物の陰などに死角ができやすく、また損失の影響で通信可能な距離も短くなってしまいます。

そこで5Gでは、より多くの基地局を設置してエリアカバレッジを満たしていく方針です。さらに16x16などの超多素子アレイアンテナを使いる「Massive MIMO(Multiple-Input Multiple-Output」技術が導入されるとともに、送信電波の位相を制御することで指向性を与え損失を補う「ビームフォーミング」技術が用いられています。

設計難易度は高いものの大きな事業機会の可能性

エレクトロニクス設計の観点で見ると、700MHz帯から3.5GHz帯の周波数帯を使う4Gに比べて高い周波数帯を利用する5Gは、基地局設備などに関して、高周波回路周りの設計の難易度がより高くなっているといえます。
同様に、基板やケーブリングを含めた実装設計も重要で、たとえばMassive MIMOアンテナの設計と製造にはきわめて高い寸法精度が要求されます。
基地局設備や機器に使用する部品の選定においても、ノイズ特性やリニアリティ、猛暑日を含む過酷な環境にも対応できる温度特性、長期の稼働に耐える信頼性や長寿命性などの要件が一層厳しくなるでしょう。

技術的な難易度は上がるものの、基地局の設置数は4Gよりも多くなると見込まれているほか、工場や農場などの閉じたエリアに5Gのテクノロジーを適用してIoTシステムなどを構築する「ローカル5G」の市場が拡大すると見込まれていて、センサーモジュールなどの端末部分やローカルな基地局設備などの新たな市場に期待が集まっています。なお、ローカル5Gについては別途取り上げる予定です。

5Gはそのほかに、自動運転、スマートシティ、スマートソサエティなど、次世代の社会の実現に不可欠な技術とも目されており、機器、設備、システム基盤、その上のサービスまで多くのビジネスチャンスが広がっています。実際に、5Gの関連市場の成長に関して、かなりアグレッシブな予測をしている市場調査レポートもあります。

次回は、成長が期待される分野のひとつでもある基地局設備を中心に説明します。

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5G移動体通信の可能性と技術課題
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