電源回路の基礎知識(4)~ECU向け電源回路の設計上のポイント~

2019-10-18

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電源回路の基礎知識(4)
~ECU向け電源回路の設計上のポイント~

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電源回路の基礎知識の最後となる今回は、自動車のECU(電子制御ユニット)の電源回路を設計する際の主な注意点を取り上げます。

自動車1台に数十個のECUが搭載

自動車の電子化と電動化が進んでいます。
エンジンや変速機を対象にしたパワートレイン制御、サスペンションやブレーキを対象にした車両制御、ドアロックやメーターなどを対象にしたボディ制御、カーナビやテレマティクスなどの情報通信制御に加え、近年ではADAS(先進運転支援システム)も普及してきました。現在は自動車1台あたり数十個のECUが搭載されているといわれていて、今後もさらなる増加が見込まれています。

ECUの大まかな構成を図1に示します。担当する機能によって細部は異なりますが、大まかには、センサー等からのデジタル信号およびアナログ信号を扱う入力インタフェース、アクチュエータやランプなどを駆動する出力インタフェース、他のECUと情報のやりとりをするCANバスなどのバス・インタフェース、制御をつかさどるマイコンまたは専用プロセッサ、制御プログラムやデータを格納するメモリ、および電源回路と保護素子から構成されています。

図1. ECUの大まかな構成 img
図1. ECUの大まかな構成

このうち電源部分に着目してみましょう。電源は、鉛バッテリーが出力する+12Vの直流電圧を、内部のマイコンやメモリが必要とする1.0V程度から3.3Vの範囲の低電圧に変換する役割を担います。入力電圧>出力電圧ですので、 「電源回路の基礎知識(2)」 「電源回路の基礎知識(3)」 で説明した降圧型スイッチング電源が適します。

ただし、自動車特有の要件を満たさなくてはならないため、産業機器や民生機器向けの電源回路をそのまま流用することはできません。いくつかの設計上のポイントを見ていきましょう。

電圧が大きく変動する+12V系

ECUの入力電圧となるバッテリーの+12V系は、イメージとしては安定しているように思えますが、実際にはかなりの変動が発生します。代表的な挙動がコールドクランク(冷間始動)とロードダンプです。また、逆接保護の対処も必要です。

コールドクランク(冷間始動)

バッテリーやエンジンが冷えている状態で、大電流を消費するセルモーターを駆動すると、+12V系の電圧が一時的に+3V程度にまで低下する現象です(図2)。

図2. +12V系の電圧低下をモデル化した、コールドクランク試験プロファイルの一例。 img
図2. +12V系の電圧低下をモデル化した、コールドクランク試験プロファイルの一例。

降圧型スイッチング電源は出力電圧よりも入力電圧が低くなるとレギュレーション動作を維持することができなくなってしまいます。たとえばコールドクランクによって入力電圧が+3.0Vまで低下した場合、+1.8V出力や+2.5V出力の電源回路は動作を続けられたとしても、+3.3V出力の降圧電源回路は動作を続けることができません。

対策としては2通りが考えられます。ひとつは、+12V系が所定の閾値を下回った場合に、電源回路を含めてECUの動作をいったん停止する方法です。カーオーディオECUなど、走行に直接影響がないECUはこうした方法が適当でしょう。もうひとつは、+12V系が低下した場合でもECUの動作を継続できるように、降圧型ではなく昇降圧型スイッチング電源を採用する方法があります。

ロードダンプ

オルタネータが発電中にバッテリー配線に断線あるいは接触不良が生じた場合、+12V系統の電圧が数十Vに達することがあります。この現象はロードダンプと呼ばれます。

ロードダンプ電圧は40V程度から場合によっては100V以上に達すると言われています。そのため、ECUの電源回路の入力側(一次側)には、過電圧をクランプする"ZNR" サージ・アブソーバなどの保護素子を設けておかなければなりません。当然ながらECUの入力コンデンサなどの耐圧は+12Vだけを想定していたのでは不十分であり、保護素子のクランプ電圧以上の定格が必要です(図3)。

図3. ロードダンプ現象と保護素子ZNRの働き img
図3. ロードダンプ現象と保護素子ZNRの働き

逆接保護

整備の際の作業ミスなどでバッテリーの正負ケーブルが逆に接続されてしまった場合、ECUに-12Vが印加されてしまう可能性があり、こうした逆接に対する保護手段が必要です。通常の機器では有り得ないケースですが、自動車は誰が整備するか分からないため、このような事態が発生する可能性がゼロではありません。

逆接保護には一般にはショットキーバリアダイオードが用いられます。ただし0.4V程度の順方向電圧が存在するため、バッテリー電圧が実質的に+11.6V程度に低下するとともに、電流に応じた損失が発生し発熱の原因にもなります。そのため最近は、MOSFETを用いて順方向電圧をゼロに近づけた保護専用の「理想ダイオード」素子なども登場しています。

自動車特有の環境条件への対応

ECUの電源設計では、さまざまな環境条件への対応も必要になります。

動作温度範囲

自動車は極寒地域から砂漠地域まで世界中のあらゆるところで使われるため、低温側と高温側ともに相当の余裕を持たせておかなければなりません。
車載素子の温度範囲は、AEC (Automotive Electronics Council)が定めた規格が用いられていて、それぞれにグレードが定められています(図4)。

図4. AECが定める信頼性試験規格とグレード img
図4. AECが定める信頼性試験規格とグレード

もっとも高温になるエンジンルームに搭載されるECUにはグレード0かグレード1の部品を選択する必要があります。一方、そこまで温度が上昇しない車室内やトランク内などに搭載するECUは、グレード3の部品で構成しても問題ないと考えられます。

なお、 「電源回路の基礎知識(3)」 でも説明したように、コンデンサやインダクタなどの受動部品に関しては、環境温度範囲全域にわたって所望の特性が得られることを確認しておく必要があります。熱対策については 「熱対策の基礎知識」 をご参照ください。

AMラジオへの干渉

「電源回路の基礎知識(3)」 でも説明したように、スイッチング電源回路からは、電流がオン・オフするループ(ホットループ)を中心にEMIノイズが発生します。ECU基板はシールドの役割も担う金属筐体に収納されていますが、コネクタ部などからの漏れを考えると、回路の段階でできるだけ抑えておく必要があります。

とくに課題になるのがAMラジオ(中波帯)への干渉です。名前のとおり振幅変調(Amplitude modulation)のため、ノイズが重畳するとそのまま雑音として再生されてしまうからです。日本では526.5kHzから1606.5kHzがAMラジオに割り当てられているため、スイッチング周波数は1.8MHzや2.0MHzなどに設定することが望まれます。

ラジオへの干渉など同一車両内の無線妨害試験規格としては、IEC(International Electrotechnical Commission)によって策定されたCISPR 25(国内呼称は「車載受信機保護のための妨害波の推奨限度値及び測定法」)が適用されます。

長期信頼性および長期供給性

自動車はときには20年以上にわたって使用されます。そのためECUを構成するそれぞれの部品には、初期故障および偶発故障ともに、きわめて高い品質が求められます。

また、自動車の長期的なメンテナンスを考慮すると、長期供給が約束されていることも部品選択においては重要になるでしょう。受動部品においては長期的な特性の劣化にも注意が必要です。

以上のポイントのほかに、電子化の進化に伴いECUの搭載スペースが課題のひとつに挙がっているため、電源回路についても小型化を進めていかなければならないほか、EVにおいては航続可能距離を延ばすために、電源回路での損失をできるだけ抑えなければならないなど、さまざまな要件をクリアする必要があります。

それでも自動車の電子化はますます進むことは確実で、ECU市場は引き続き大きな成長が見込まれています。

電源回路の基礎知識は今回で終了しますが、車載エレクトロニクスのトレンドについては、編をあらためて解説します。

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