抵抗器の基礎知識
~役割・単位と記号・規格~
2018-04-16
抵抗器は、コンデンサやインダクタとともに最も基本的な部品であり、ありとあらゆる電気・電子機器に数多く使われています。電気に携わる者にとっては当たり前過ぎて、普段は疎かにしてしまっているかもしれませんが、抵抗器がなければ電気・電子回路は成立しません。抵抗器は、それほど重要な部品なのです。
抵抗器の役割
抵抗器は、一定の電気抵抗を持った受動部品です。
抵抗器の働きは、オームの法則「電圧(V)=電流(I)×抵抗(R)」に基づいています。
主な役割は、電流制御、分圧、電流検出、バイアスを与える、の4つです。
【電流制御】
抵抗器は電子回路の電流を定格以下に制御できます。例えばLED回路の場合、LEDと直列に抵抗器を接続し、電流を定格以下に抑制することで、LEDの焼損を防ぎます。
【分圧(電圧を分ける)】
2個以上の抵抗器を直列に接続した時、接続する抵抗値に比例した任意の電圧に分けることができます。
【電流検出】
抵抗器に電流が流れた時、その両端には電流を変換した電圧が発生します。
この電圧を測定することで回路に流れる電流を測定することができます。
【バイアスを与える】
トランジスターなど半導体を動作させるための電圧を与えることを〝バイアスを与える〟と言います。
このバイアスは、トランジスターの各端子(エミッタ、コレクタベース)に異なった電圧を印加する必要があります。
上記以外に、ダンピング抵抗、終端抵抗、プルアップ/プルダウン抵抗等としても使用されます。
抵抗器の原理
抵抗の値は、抵抗体物質の固有抵抗及び、その断面積と長さによって決まります。
R =
ρ・L
S
- R
- 抵抗値(Ω)
- L
- 長さ(㎝)
- W
- 幅(㎝)
- T
- 高さ・厚み(㎝)
- S
- 断面積(W・T)
- ρ
- 固有抵抗(Ω・㎝)
式が示すとおり、固有抵抗ρ(Ω・cm)に抵抗体の長さLをかけた値を断面積Sで割ったものが抵抗値になります。参考までに金属の固有抵抗を示します。
金属名 | 記号 | 固有抵抗 (μΩ・cm) |
---|---|---|
金 | Au | 2.40 |
銀 | Ag | 1.62 |
パラジウム | Pd | 10.8 |
ニッケル | Ni | 7.24 |
抵抗器の単位と記号
抵抗値の単位はΩ(オーム)、記号は抵抗器の英語Resistorの頭文字Rを使います。また、回路上での抵抗器の記号は以下が使われます。JIS C 0301の記号は、JIS C 0617-4の制定により廃止されています。長方形の記号になって20年近くになりますが、まだ旧記号がかなり使われている印象があります。
抵抗器の技術用語
抵抗器には仕様や定格を示すパラメータがあります。それらの技術用語をまとめました。太字で示した4つは、抵抗器の基本となるパラメータです。
定格電力(W) | 定格温度にて連続印加できる電力の最大値。 |
抵抗値(Ω) | 電気抵抗の大きさ。抵抗値の数値は公的規格で標準化されている。 |
抵抗値許容差(%) | 許容される抵抗値の上限および下限。抵抗値の精度を示す。 |
抵抗温度係数(×10-6/K) | 周囲温度の変化に対する抵抗値の変化率。 |
素子最高電圧(最高使用電圧)(V) | 連続して印加できる電圧の最大値。 |
カテゴリ温度範囲(℃) | 連続的に使用可能な周囲温度の範囲。 |
直流抵抗値(Ω) | 直流電圧を印加して測定した場合の抵抗値で基準となる値。 |
耐電圧(V) | 絶縁外装している製品の絶縁性を確保できる外装への最大の印加電圧。 |
絶縁抵抗(Ω) | 絶縁外装している製品の外装の最小抵抗値。 |
はんだ耐熱性 | はんだ中に浸漬した場合の電気的、機械的安定性。 |
耐湿性 | 湿気に対する電気的、機械的安定性 |
温度サイクル | 温度の変化に対する電気的、機械的安定性。 |
耐久性(負荷) | 定格温度中で定格電圧を連続印加したときの電気的、機械的安定性。 |
端子強度 | 端子部に機械的負荷を加えた場合の機械的強度。 |
耐振性 | 振動に対する電気的、機械的安定性。 |
難燃性 | 過負荷時の自己消化性、非引火性。 |
抵抗値、抵抗値許容差表示に関する規格
技術用語の抵抗値に記したように、抵抗値や許容差の表示は規格に基づいており、以下の規格に準拠しています。
- JIS C 5062:抵抗器及びコンデンサの表示記号
(IEC 60062:Marking codes for resistors and capacitors) - JIS C 5063:抵抗器及びコンデンサの標準数列
(IEC 60063:Preferred number series for resistors and capacitors)
抵抗値は、上記規格により標準数列化されています。抵抗値は1Ω、2Ω、3Ωのような整数ではなく、2.2Ωや4.7Ωのような半端な値になっています。これは、抵抗値が標準数(E系列)に準じているためです。系列の「E」はExponent(指数)のEで、次の数字、例えば24は分割数です。つまり、E24は、1から10までを等比級数(10の24乗根)で分割したものです。抵抗器は、実際の使用では比や割合で使うことも多く、整数よりこの数列化された値のほうが使いやすいことが多々あります。
系列 | 抵抗値許容差の目安 | 公比 | 抵抗値 (例) |
---|---|---|---|
E12 | ±10% | 1210≈1.21 | 1.0, 1.2, 1.5, 1.8, 2.2, 2.7, 3.3, ・・・ |
E24 | ±5% | 2410≈1.10 | 1.0, 1.1, 1.2, 1.3, 1.5, 1.6, 1.8, ・・・ |
E96 | ±1% | 9610≈1.02 | 1.00, 1.02, 1.05, 1.07, 1.10. ・・・・ |
抵抗器の構造
以下は、代表的な抵抗器の基本構造です。用途によって使い分けますが、近年の小型機器ではチップ抵抗器が主流になっています。
抵抗器の選定
設計における抵抗器の選定は、回路基板のサイズ要求や実装方法、抵抗器に求められる性能など、複合的な要求事項を満たすものを選択する必要があります。
【実装方法からの選定】
表面実装か、リード挿入/固定実装か
近年は表面実装が多くなっていますが、回路規模や仕様によってリード挿入やネジ止め固定といった抵抗器を選択する必要があります。基本的には回路基板全体の実装仕様を前提に検討し、1種類の基板への実装方法が1つになるのが理想的です。
実装方法 | 抵抗器 | 梱包/基板装着 に関する検討 |
はんだ付け/取り付け 方法の検討 |
---|---|---|---|
表面実装 | チップ抵抗器 チップ形抵抗ネットワークなど |
自動実装梱包対応(テーピング、バルクなど) | リフロー フロー |
リード挿入 /固定 |
低電力抵抗器(炭素/金属皮膜など) 電力形抵抗器(巻線など) リード端子固定ネットワーク抵抗など |
自動実装の可否(ラジアル/アキシャルテーピングなど) 手付け用リード加工 |
フロー 手付け ネジ止め |
【性能、特性、サイズ要求からの選定】
定格、精度、温度特性、機能、耐環境、放熱、サイズ、高さなど
実装方法に加えて、個々の抵抗器には性能、特性、サイズに関する要求があります。個々の要求を満たすには、例えば表面実装が希望でも表面実装タイプの抵抗器では対応できないといったこともあります。また、厳しい環境条件への対応では制限事項が増える、選択肢が少ないなどのトレードオフが生じる場合もあります。抵抗器の選択においては、性能、特性、サイズ、実装方法など全体的な視点での検討が必要なります。
【チップ抵抗器の選定】
チップ抵抗器の選択では、性能や特性など固有の要求事項をクリアする必要はありますが、一般的には次のステップで選定するのが能率的かと思います。
- 1)単品チップ抵抗器か複合チップ抵抗器を選択。
- 2-1)単品チップ抵抗器の場合は厚膜チップ抵抗器か薄膜チップ抵抗器かを選択。
- 2-2)複合チップ抵抗器の場合は多連チップ抵抗器(独立回路)か、チップ形ネットワーク(並列回路)かを選択。
- 3)使用電圧(電力)に合わせて形状を選択。
- 4)重複するタイプがある場合は、その他の性能から選定。
抵抗器の信頼性
信頼性は抵抗器に限らず電子部品の重要検討項目です。品質と信頼性の概念は異なります。例えば、100個の抵抗器を購入し、そのうち1個の抵抗値が規定値から大きくはずれていた場合、この1個は不良品で不良率が1%(1/100)ということになります。これが品質です。
信頼性は時間の概念が加わります。100個購入した抵抗器はすべて良品でしたが、機器に実装して市場に出荷した後3年で1個の抵抗に不具合が起きたとします。これは不良ではなく故障と言います。
故障率は、概略的には「故障数/稼働時間」になります。部品レベルの信頼性は、ある稼働時間において何個の故障が発生するか、別の言い方をすれば、どのくらいの時間、故障が発生しないかを予測するものです。
以下は、厚膜チップ固定抵抗器の市場故障データから推定した故障率です。
品番 (形状) |
使用部品数 (n) |
部品使用時間 (n × T) |
故障数 (r) |
故障率 (f i t) |
|
---|---|---|---|---|---|
点推定 (λ0) |
信頼水準60% (λ0) |
||||
ERJXG (0402) |
2.42×1010 (2003年より) |
2.89×1014 | 0 | 0.0 | 0.00000318 |
ERJ1 (0603) |
9.35×1010 (1998年より) |
1.67×1015 | 0 | 0.0 | 0.00000055 |
ERJ2 (1005) |
3.12×1011 (1990年より) |
7.07×1015 | 0 | 0.0 | 0.00000013 |
ERJ3 (1608) |
3.15×1011 (1986年より) |
9.00×1015 | 0 | 0.0 | 0.00000010 |
ERJ6 (2012) |
2.50×1011 (1986年より) |
1.00×1016 | 0 | 0.0 | 0.00000009 |
ERJ8 (3216) |
1.16×1011 (1986年より) |
4.23×1015 | 0 | 0.0 | 0.00000022 |
ERJ14 (3225) |
1.67×1010 (1987年より) |
3.56×1014 | 0 | 0.0 | 0.00000259 |
ERJ12 (4532 / 5025) |
1.11×1010 (1987年より) |
2.97×1014 | 0 | 0.0 | 0.00000310 |
ERJ1T (6432) |
3.51×109 (1990年より) |
8.50×1013 | 0 | 0.0 | 0.00001083 |
一番上の例では、2.42×1010(242億)個の厚膜チップ抵抗器の総稼働時間n×Tが、2.89×1014(289兆)時間となっています。これは累計242億個の累積と考えてください。これにより統計学的計算によって、推定故障率を求めています。
信頼水準60%での推定故障率=故障数(r)/部品使用時間(n×T)
=0.92/2.89×1014=0.00000318 fit
※故障数rは0だが、60%の信頼水準を得るための0に対する統計学的係数0.92を使用
推定故障率は信頼水準60%で、0.00000318 fitとなります。信頼水準60%は、この故障率の確からしさの確率です。fitは109時間あたりの故障回数(この場合は個数ととらえる)という故障率の単位です。0.00000318fitをそのまま解釈すると、10億時間あたり0.00000318回の故障発生となりますが感覚的によくわからないので、この抵抗器を1億個使ったとして換算すると、1000万時間≒1140年あたり3.18回となり、1億個使っても1000年に3回の故障発生という推定になります。電子機器の耐用年数を考えれば、実質的にほとんど故障発生はないと考えることができます。
抵抗器の使用、保管に関する注意事項
特に記載がない抵抗器は、一般電子機器(AV製品、家電製品、事務機器、情報通信機器等)での標準的な用途で使用することを前提に設計しています。したがって、下記の特殊環境での使用は考慮されていないので、下記の環境及び条件での使用は抵抗器の性能や信頼性に影響を及ぼす可能性があります。耐環境性能を高めたシリーズでは一部の条件に対応可能な場合がありますが、下記条件で使用する場合は十分な性能、信頼性等の確認が必要です。
- 水、油、薬液、有機溶剤等の液体中での使用。
- ・直射日光、屋外暴露、塵埃中での使用。
- ・潮風、CL2、H2S、NH3、SO2、NOX等の腐食性ガスの多い場所での使用。
- ・静電気や電磁波の強い環境での使用。
- ・発熱部品に近接して取り付ける場合及び近接してビニール配線等の可燃物を配置して使用する場合。
- ・樹脂等で封止して使用する場合。
- ・はんだ付け後のフラックス洗浄で、溶剤、水、及び水溶性洗浄剤を使用する場合(特に、水溶性フラックスは注意)。
また、一般環境、条件での使用においても、以下に留意する必要があります。
- ・交通輸送機器(列車、自動車、交通信号機器等)、医療機器、航空・宇宙機器、電熱用品、燃焼及びガス機器、回転機器、防災・防犯機器等における不具合で、人命その他の重大な損害発生が予測される場合は、下記を検討し十分なフェールセーフ設計を行い安全性を確保する 。
- -保護回路、保護装置を設けてシステムとしての安全を図る。
- -冗長回路等を設けて単一故障では不安全とならないようにシステムとして安全を図る。
- ・パルス等の過渡的な負荷(短時間で大きな負荷)が加わる場合は、抵抗器が実機に実装された状態にて必ず評価確認する。
- ・ハロゲン系(塩素系、臭素系等)の活性化の高いフラックスを使用する場合、フラックスの残さが性能、信頼性に影響を及ぼす場合があるので確認が必要。酸性の強いフラックスや水溶性フラックス,フッ素イオンを含むフラックスは使用しない。
- ・はんだコテを使用する場合は、コテ先を表面実装固定抵抗器本体に当てない。はんだ付けは350℃、3秒以内で行う。
- ・抵抗体に衝撃を与えたり、硬質のもの(ペンチ、ピンセット等)で挟んだりした場合、保護コート膜及び抵抗器本体が欠け、性能等に影響を及ぼす恐れがある。
- ・長時間の溶剤への浸漬は避け、溶剤の使用に際しては性能、信頼性に影響を与えないか十分な確認を実施する。
- ・はんだ量が過多または過少になる条件で実装すると、接続信頼性に影響を与える場合があるので、適正な範囲で使用する
保管に関しても、次の環境及び条件では性能やはんだ付け性等の劣化を招く恐れがあるので避ける必要があります。
- ・潮風、CL2、H2S、NH3、SO2、NOX等の腐食性ガスの多い場所。
- ・直射日光の当たる場所。
- ・温度(5~35℃)、湿度(45~85%RH)の範囲外。